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第20話
しおりを挟む「ねぇ…ローラ…これって必要なの?」
『ローラさん』と呼ぶと『ローラです。アメリア様はもうここの奥様…女主人なのですから、堂々と!』と言われた。
堂々と…するには自信が無さすぎるが、『ローラ』と呼ぶ事は出来そうだと、まずはそこから始める事にした。
今、私は非常に戸惑っている。
結婚の儀の後も、まったく旦那様に会わぬまま、夜を迎えたのだが、今日は世に言う『初夜』と言うものに当たるらしい。
正直、閨については、実家の若いメイドの休憩中のお喋りを聞き齧った知識しかないのだが…
「今日は初夜ですからね。今日ぐらいは、夜着は少し色っぽい物を選びませんと」
そう、ローラはにっこりと笑うのだが…例え私が色っぽい夜着を身に付けていても、旦那様がその気になるとは…考え難い。
しかし、子作りは私の義務だ。使える物は使った方が良いのだろう…
「でも、これでは…体が透けてないかしら?心許ないわ」
と私が問うも、ローラは『そんなもんだ』と言って、私を私室の隣…夫婦の寝室へと押し込んだ。
私はガウンを羽織、広い寝台の縁に腰かける。
「…旦那様は来て下さるかしら?」
少し独り言が大きくなるのは、私も緊張しているからだろう。
知識でしかないが…初めては痛いと聞くし…。
少し時間が経った頃、旦那様の部屋へ繋がる扉の方が、俄に騒がしくなってきた。
「……だから!………って言って………ろう!離せ………わかっ……」
「いい加……………ろよ!おま…………だろ…………理か………ろ!」
…声は旦那様とユージーン様だろう。揉めている。
またか…と思っていると、勢いよくその扉が開き、旦那様が転がりこんで来た。
文字通り床に転がっている。
そして、無情にもその扉がユージーン様によって閉められると、旦那様は急いで立ち上がり、その扉のノブをガチャガチャと回しながら、
「おい!開けろ!主人の言う事が聞けないのか!」
と叫ぶ。
扉には鍵が掛かっているのか、開かないようだ。旦那様は今度は扉をドンドンと叩き始めた。
…扉…壊れないかしら?
すると、向こう側から大きく『ドン!!』と1回扉が叩かれる。
思わずその音に旦那様も私もビクッとなると、旦那様は諦めたように手を扉から離した。
旦那様は項垂れると、トボトボと寝室にあるソファーへと腰を下ろす。顔は下を向いている為、表情は伺うことは出来ない。
私が
「あのー…」
と声を掛けると、旦那様の肩が揺れた。
顔を上げた旦那様は、相変わらず前髪で顔の半分を隠したまま
「居たのか…。すまないな。君までこんな馬鹿げた王命に付き合わせて。しかし、僕には無理だ……」
「無理…とは?」
「無理なんだ」
…とにかく『無理』らしい。私との結婚が『無理』なのか、私を抱く事が『無理』なのか…または、その両方か。
それを聞いて私は、
「そうですか…。しかし私もこの結婚を無かった事にするのは『無理』なのです。
帰る場所もありませんしね。
それに、子作りは私にとっても義務ですから。旦那様が嫌だと言っても、協力していただかなければ困ります。
1人では子どもを作れませんし」
私が淡々と言うと、旦那様は…静かに泣き始めた。そして…
「ごめん」
と謝る。
泣くほど嫌って事ですか…。
私が、
「旦那様。1週間後にこの寝室へ来て下さい」
と言うと、
「1週間後?何故?」
と不思議そうだ。
「1週間で覚悟を決めて下さい。それまでに、私も勉強します。
今日は私、自分の部屋に戻りますね」
と私は寝台を降りて自室へ続く扉を開けた。
背中に、
「勉強?」
と呟く声が聞こえるが、その疑問に答えるつもりはない。
…世の中、知らない方が良い事もある…って事だ。
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