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第15話

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翌朝、久しぶりのフカフカの寝具でぐっすり眠った私だったが、いつもの癖で、早く目が覚めてしまった。

起きて何かを手伝おうか?…と言っても、持ってきたお仕着せを着て働くのは流石に不味い気がする。

…そうだ!裁縫道具を借りてこよう。

ここへ着て来たワンピースの肩口を縫うことにしよう。
そうすれば、また着れるようになるだろう。

衣装部屋に用意された洋服は素晴らし過ぎて、着る勇気が出ない。

汚したって弁償はできないし、万が一破ったりしたら…そう考えると恐ろしくて着れない。

しかし…寝着で部屋から出る訳にもいかないし…私は仕方なく、お仕着せを着る事にした。…選択肢がなかっただけなのだが。

お仕着せに着替えて、廊下へ出る。

私は1階でローラさんを探そうと、階段を目指した。

すると途中にある、公爵様の執務室の扉が開き、中から公爵様自身(と思われる人物)が廊下へ出てきた。

私は咄嗟に隠れようとしたが、生憎、隠れられそうな場所がなくて、オロオロしてしまった。

そんな私に、公爵様は、

「おい!そこのメイド。茶を持ってきてくれ」
と声を掛けてきた。

…不味い。お仕着せまで着てしまっていては…自分がメイドじゃないとは言い難い。

私は聞こえないフリをして、逆の方へ歩いて行こうとするも、

「おい!厨房はそっちじゃない。……新人か?おい…返事をしろ」

…声に不穏な気配が混じる。曲者と思われているかもしれない。

…仕方ない、ここは…

「も、申し訳ありません…昨日、来たばかりで…直ぐにお茶をお持ちいたしますので、お待ち下さい」
と極力顔を見せないように俯きながら、返事をした。

…メイドになりきるしかない。

私は公爵様と思しき人物の前を小走りで通りすぎると、急いで階下へ降りていった。


すると階下でローラさんに直ぐに出会う事が出来た。

助かったぁ。

ローラさんは私の姿を見て、

「まぁまぁアメリア様、お早いお目覚めですねぇ。しかもそのお洋服は…」
と目を丸くした。

「ローラさん…あの…私の格好については、後で。こ、公爵様…だと思うのですが、お茶を執務室へ持ってきて欲しいと…」

「まぁお坊っちゃまは、まーた徹夜したんですね。しかし…何故、アメリア様に?」

…疑問は最もだと思うのだが、メイドと間違われたとは…言い難い。

私が黙っていると、

「困りましたねぇ。うちはお坊っちゃまの方針で、メイドが少ないんですよ。みんな朝は忙しいし…ああ、困った、困った」

…ローラさんの言葉が棒読みで、台詞みたいに感じるのは私の気のせいだろうか?

ローラさんは続けて、

「ああ、誰か私の代わりに、お坊っちゃまにお茶を持って行ってくれませんかね~」
と言うとチラリと私を見た。

…やっぱり棒読みなんだけど。
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