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第6話
しおりを挟む朝になり、私は昨晩貰ったワンピースに袖を通す。老執事の気持ちが嬉しかった。
準備が出来て、部屋をぐるりと見回した。
此処は、母が亡くなって、自分の部屋をローズに盗られた後、宛がわれた屋根裏部屋だった。
埃っぽくて、最初は明かり取りの窓から見える星を眺めては泣いたものだ。
しかし、こうして1人になれる空間があったのはありがたかった。
ここでどれだけ母を想っても、誰にも咎められる事はなかったからだ。
私が階下に降りると、継母とローズがやって来た。
「良かったじゃない。あんたみたいな娘が結婚出来るんだもの!喜ぶべきよ!」
とローズは手を叩いて喜んだ。
それよりも自分の婚約者が決まっていない事をどう考えているんだろう?
「そうそう。うちも、もう裕福じゃないんだから、食い扶持が1人減るだけでも助かるわぁ」
継母はそう言うと、ニヤリと笑った。
わかっているなら、少しは浪費を止めたら良いのに。
すると後ろから父も来て、
「アメリア、良いご縁だ。せいぜい向こうの家に迷惑をかけるんじゃないぞ!」
と偉そうに言う。
すると、玄関から、公爵家の迎えが来た事を告げられた。私は、
「それでは、失礼します」
と軽く会釈をして荷物を持ち、玄関へ向かう。
絶対に、『お世話になりました』なんて言うものか。
すると、朝に弱いライラックが慌ててやって来て、
「何?そのワンピース!私、見たことないわ。どこで盗んできたのよ!」
と急に私の袖を強く掴んで引っ張った。
ビリビリッ!と大きな音がしたと思ったら、肩口が大きく破れていた。
生地も古くなっていたに違いないが、私は老執事に申し訳ない気持ちで一杯になる。
泣きそうだ…でも、この人達の前では涙を見せたくない。
それを見たライラックは、
「アハハハ!みっともない格好ね。
せいぜい公爵様に嫌われて、出戻りなんて事にならないようにね?
ここにあんたの居場所なんてないんだから!」
と吐き捨てた。
私だって、2度とこんな所には戻ってくるつもりはない。
例え公爵様から追い出されてもだ。
私は破れた肩口を押さえ、玄関を出ていった。
外へ出た所で後ろから、フワリと肩にストールが掛けられた。
老執事だ。私は振り返り、
「ごめんなさい。大切なワンピースを…」
と堪えきれず涙を流した。
老執事は、
「良いのです。…私は決めました。ここはもう私の居場所でもありません。
前ワーカー伯爵にはお世話になりましたが、もう私も限界の様です。
お嬢様。私に力がないばかりに、お嬢様にだけ辛い思いをさせました。許して下さい。
さぁ、馬車が待っています。どうぞ、このストールで隠して…。
お嬢様…幸せに…なってください」
と老執事も涙を流した。
私は彼の手を握ると、
「幸せになるわ。私の事は心配しないで。貴方も…幸せになってね」
と力強く言った。
私は肩のストールがずり落ちないように強く握ると、迎えの馬車に向かって歩いた。
今度こそ、振り返る事はなかった。
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