113 / 121
第113話
しおりを挟む
名を呼ばれ会場に入場すると、参列者からの視線を痛いほど感じた。
「……とても見られている気がします」
「そうか?俺はこれからのダンスの方が気になって胃が痛い」
とレナード様が顔を顰める。
私はその様子がおかしくてついクスッと笑ってしまったのだが、何故かその途端に周りの視線がサッと逸らされた。
「今度は目を逸らされました」
「……ダンスはどうしても踊らなければダメか?」
どうにもレナード様はダンスが気になって仕方がない様だ。私達の会話も噛み合わない程に。
「別に踊らなくても大丈夫ですけど、そうすると色んな方々からのご挨拶の嵐になるかもしれませんよ?」
と言う私の言葉に、レナード様は少し低く唸った後に、
「……なら踊るか……」
と絞り出した。
殿下への挨拶の時、
「おー!珍しいなレナード。まぁ、辺境伯にもなったし、美しい奥方も手に入れた。流石にもう社交は避けれ通れなくなったか」
と殿下がからかう様にそう言うと、レナード様はギロッと殿下を睨んだ。
「おいおい、睨むなよ。周りが怖がって寄って来なくなるぞ」
「願ったり叶ったりだ」
レナード様にとっては、逆にその方が助かるのかもしれない。
殿下の隣で、
「クレイグ辺境伯に会えて嬉しいのはわかりますけど、あまりはしゃがないで下さいな」
と妃殿下が苦笑した。そして私に顔を向けると、
「はじめまして。お話は聞いてるの。会えて嬉しいわ」
とにっこり微笑んだ。
「お初にお目にかかります。体調はいかがでしょうか?お元気になられて心から嬉しく思います」
「ええ。最近は食欲が増してしまって逆に困っているぐらい元気よ。ありがとう」
妃殿下は自分のお腹の辺りを愛おしそうに撫でると、そう言って笑った。
王族への挨拶を終え、ダンスタイムに入ったが、私達は踊らずにそれを眺めていた。
しかし、私達に挨拶に来る人はあまり居ない。私が不思議に思っていると、
「クレイグ辺境伯。この前はありがとうございました」
とにこやかな笑顔で私達に近付いて来る人物が見えた。
「あぁ、良い結婚式だった」
レナード様がそう答えた相手は私の叔父であるクック伯爵だ。
「そう言っていただけるとありがたい。しかし、辺境伯が夜会に参加するのは珍しいので、皆最初は浮足立っていたが……入場時に顔を顰めるから周りは怖がって私達を遠巻きに眺めているだけの様だな」
と叔父は豪快に笑った。
……なるほど。あの時皆が目を逸らした様に感じたのは、それが理由だったみたいだ。
最近ではよく喋り、よく笑う様になったレナード様に見慣れてすっかり忘れていたが、その厳つい顔つきと雰囲気で、彼がいつもは怖がられていた事を思い出した。
それでも、その恐怖(?)に打ち勝って挨拶にお見えになる方々とお話したり、公爵様方に挨拶に行ったりと、ダンスは踊らなくとも少し疲れてしまった。
「エリン疲れたろう?少し休もう」
とレナード様に壁際に置かれた長椅子へとエスコートされた。
レナード様は私をそこへ座らせると、
「飲み物を取って来るが、ここを動くんじゃないぞ?変な男が寄ってきても無視するんだ。誰にも付いて行ってはダメだ」
と幼子に言い聞かせる様にして、飲み物を取りに行った。
私は返事をしながらも過保護なレナード様に苦笑してしまうのだった。
「……とても見られている気がします」
「そうか?俺はこれからのダンスの方が気になって胃が痛い」
とレナード様が顔を顰める。
私はその様子がおかしくてついクスッと笑ってしまったのだが、何故かその途端に周りの視線がサッと逸らされた。
「今度は目を逸らされました」
「……ダンスはどうしても踊らなければダメか?」
どうにもレナード様はダンスが気になって仕方がない様だ。私達の会話も噛み合わない程に。
「別に踊らなくても大丈夫ですけど、そうすると色んな方々からのご挨拶の嵐になるかもしれませんよ?」
と言う私の言葉に、レナード様は少し低く唸った後に、
「……なら踊るか……」
と絞り出した。
殿下への挨拶の時、
「おー!珍しいなレナード。まぁ、辺境伯にもなったし、美しい奥方も手に入れた。流石にもう社交は避けれ通れなくなったか」
と殿下がからかう様にそう言うと、レナード様はギロッと殿下を睨んだ。
「おいおい、睨むなよ。周りが怖がって寄って来なくなるぞ」
「願ったり叶ったりだ」
レナード様にとっては、逆にその方が助かるのかもしれない。
殿下の隣で、
「クレイグ辺境伯に会えて嬉しいのはわかりますけど、あまりはしゃがないで下さいな」
と妃殿下が苦笑した。そして私に顔を向けると、
「はじめまして。お話は聞いてるの。会えて嬉しいわ」
とにっこり微笑んだ。
「お初にお目にかかります。体調はいかがでしょうか?お元気になられて心から嬉しく思います」
「ええ。最近は食欲が増してしまって逆に困っているぐらい元気よ。ありがとう」
妃殿下は自分のお腹の辺りを愛おしそうに撫でると、そう言って笑った。
王族への挨拶を終え、ダンスタイムに入ったが、私達は踊らずにそれを眺めていた。
しかし、私達に挨拶に来る人はあまり居ない。私が不思議に思っていると、
「クレイグ辺境伯。この前はありがとうございました」
とにこやかな笑顔で私達に近付いて来る人物が見えた。
「あぁ、良い結婚式だった」
レナード様がそう答えた相手は私の叔父であるクック伯爵だ。
「そう言っていただけるとありがたい。しかし、辺境伯が夜会に参加するのは珍しいので、皆最初は浮足立っていたが……入場時に顔を顰めるから周りは怖がって私達を遠巻きに眺めているだけの様だな」
と叔父は豪快に笑った。
……なるほど。あの時皆が目を逸らした様に感じたのは、それが理由だったみたいだ。
最近ではよく喋り、よく笑う様になったレナード様に見慣れてすっかり忘れていたが、その厳つい顔つきと雰囲気で、彼がいつもは怖がられていた事を思い出した。
それでも、その恐怖(?)に打ち勝って挨拶にお見えになる方々とお話したり、公爵様方に挨拶に行ったりと、ダンスは踊らなくとも少し疲れてしまった。
「エリン疲れたろう?少し休もう」
とレナード様に壁際に置かれた長椅子へとエスコートされた。
レナード様は私をそこへ座らせると、
「飲み物を取って来るが、ここを動くんじゃないぞ?変な男が寄ってきても無視するんだ。誰にも付いて行ってはダメだ」
と幼子に言い聞かせる様にして、飲み物を取りに行った。
私は返事をしながらも過保護なレナード様に苦笑してしまうのだった。
1,400
お気に入りに追加
3,397
あなたにおすすめの小説
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
【完結】皆様、答え合わせをいたしましょう
楽歩
恋愛
白磁のような肌にきらめく金髪、宝石のようなディープグリーンの瞳のシルヴィ・ウィレムス公爵令嬢。
きらびやかに彩られた学院の大広間で、別の女性をエスコートして現れたセドリック王太子殿下に婚約破棄を宣言された。
傍若無人なふるまい、大聖女だというのに仕事のほとんどを他の聖女に押し付け、王太子が心惹かれる男爵令嬢には嫌がらせをする。令嬢の有責で婚約破棄、国外追放、除籍…まさにその宣告が下されようとした瞬間。
「心当たりはありますが、本当にご理解いただけているか…答え合わせいたしません?」
令嬢との答え合わせに、青ざめ愕然としていく王太子、男爵令嬢、側近達など…
周りに搾取され続け、大事にされなかった令嬢の答え合わせにより、皆の終わりが始まる。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
必要ないと言われたので、元の日常に戻ります
黒木 楓
恋愛
私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。
前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。
その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。
森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。
数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。
そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる