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第113話

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名を呼ばれ会場に入場すると、参列者からの視線を痛いほど感じた。

「……とても見られている気がします」

「そうか?俺はこれからのダンスの方が気になって胃が痛い」
とレナード様が顔を顰める。

私はその様子がおかしくてついクスッと笑ってしまったのだが、何故かその途端に周りの視線がサッと逸らされた。

「今度は目を逸らされました」

「……ダンスはどうしても踊らなければダメか?」
どうにもレナード様はダンスが気になって仕方がない様だ。私達の会話も噛み合わない程に。

「別に踊らなくても大丈夫ですけど、そうすると色んな方々からのご挨拶の嵐になるかもしれませんよ?」
と言う私の言葉に、レナード様は少し低く唸った後に、

「……なら踊るか……」
と絞り出した。


殿下への挨拶の時、

「おー!珍しいなレナード。まぁ、辺境伯にもなったし、美しい奥方も手に入れた。流石にもう社交は避けれ通れなくなったか」
と殿下がからかう様にそう言うと、レナード様はギロッと殿下を睨んだ。

「おいおい、睨むなよ。周りが怖がって寄って来なくなるぞ」

「願ったり叶ったりだ」

レナード様にとっては、逆にその方が助かるのかもしれない。

殿下の隣で、

「クレイグ辺境伯に会えて嬉しいのはわかりますけど、あまりはしゃがないで下さいな」
と妃殿下が苦笑した。そして私に顔を向けると、

「はじめまして。お話は聞いてるの。会えて嬉しいわ」
とにっこり微笑んだ。

「お初にお目にかかります。体調はいかがでしょうか?お元気になられて心から嬉しく思います」

「ええ。最近は食欲が増してしまって逆に困っているぐらい元気よ。ありがとう」
妃殿下は自分のお腹の辺りを愛おしそうに撫でると、そう言って笑った。

王族への挨拶を終え、ダンスタイムに入ったが、私達は踊らずにそれを眺めていた。
しかし、私達に挨拶に来る人はあまり居ない。私が不思議に思っていると、


「クレイグ辺境伯。この前はありがとうございました」
とにこやかな笑顔で私達に近付いて来る人物が見えた。

「あぁ、良い結婚式だった」
レナード様がそう答えた相手は私の叔父であるクック伯爵だ。

「そう言っていただけるとありがたい。しかし、辺境伯が夜会に参加するのは珍しいので、皆最初は浮足立っていたが……入場時に顔を顰めるから周りは怖がって私達を遠巻きに眺めているだけの様だな」
と叔父は豪快に笑った。

……なるほど。あの時皆が目を逸らした様に感じたのは、それが理由だったみたいだ。
最近ではよく喋り、よく笑う様になったレナード様に見慣れてすっかり忘れていたが、その厳つい顔つきと雰囲気で、彼がいつもは怖がられていた事を思い出した。

それでも、その恐怖(?)に打ち勝って挨拶にお見えになる方々とお話したり、公爵様方に挨拶に行ったりと、ダンスは踊らなくとも少し疲れてしまった。

「エリン疲れたろう?少し休もう」
とレナード様に壁際に置かれた長椅子へとエスコートされた。

レナード様は私をそこへ座らせると、

「飲み物を取って来るが、ここを動くんじゃないぞ?変な男が寄ってきても無視するんだ。誰にも付いて行ってはダメだ」
と幼子に言い聞かせる様にして、飲み物を取りに行った。
私は返事をしながらも過保護なレナード様に苦笑してしまうのだった。


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