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第78話
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私がユラに乗って何とかゆっくりと馬場を一周出来る様になった頃。
「もうあと一週間もすれば、ナタリー様の結婚式ですね。……でも良かったですね、妊娠はしていなくて」
「そうね。婚前に妊娠していたなんて……パトリック伯爵の神経を逆なでするだけですもの。妊娠はめでたい事だけど、さすがにね」
母からナタリーの月のものが来たと聞いた時には、申し訳ないが安堵してしまった。これ以上パトリック伯爵の気分を損ねるのはナタリーにとっても良くないだろう。
私とバーバラはそう言って胸をなでおろした。
レナード様もあと半月もすれば辺境伯の爵位を継ぐことになっている。お祝い事続きだが、どうしてもナタリーの結婚について、なんとなく先行きが不安である事は、口にしなくても誰もが感じるところであった。
「エリン様、ご実家からお手紙でございます」
執事が私の部屋へと現れたのだが、どうも表情がさえない。私は父に何かあったのではと心配になった。
「どうも、早馬でのお手紙のようで……」
執事も只事ではない雰囲気を察したのか表情は硬い。
私は震える手で、手紙を開いた。
「え?!ナタリーが!!」
という私の言葉にバーバラと執事が反応する。
「何かございましたか?」
「ナタリーがいなくなったって……」
そう言いながら、私は二人の方へ兄
からの手紙を差し出した。
「早馬だと王都から此処まで二日程……。ではナタリー様が家を出られてから二日以上……」
と言う執事の言葉にバーバラは、
「家出……なのですよね?」
と恐る恐るといった風に私に尋ねた。
「ええ。手紙にもそう書いてあるわ。書き置きがあったって」
「結婚が嫌になったのでしょうか?」
「詳しい事は書いていないけど……」
手紙にはとても簡潔に『ナタリーが書き置きを残して家出をした。探してはいるが、結婚式に穴を開ける様な事になれば、パトリック伯爵家とは絶縁する羽目になるだろう』とだけ書かれていた。兄としてはストーン伯爵家とパトリック伯爵家が縁付く事に意味があるとでも言わんばかりの内容で、ナタリーを心配している様子は窺えない。
「これ以上パトリック伯爵様を怒らせる様な事にならなければ良いのだけど」
そう言った私の言葉にバーバラも執事も首を縦には振らず、曖昧に笑って誤魔化すのだった。
その日の夕食時。この日はミューレ様も一緒に晩餐を楽しんでいたのだが、私の心の片隅にはナタリーの事があり、なんとなく気が晴れないでいた。
「気になるか?」
私のそんな様子を見かねて、レナード様に声を掛けられる。
「申し訳ありません。つい……」
「謝る事はない。気になって当然だ」
私とレナード様の話に、辺境伯様も、
「心配だろう。心当たりなどは?」
と尋ねてくれる。
「あの子に親しい友人がいたと言う話は聞いたことがありませんし……近しい親戚は兄の婚約者の家でもありますので、そこにノコノコと顔を出す事はないと思うのです」
学園でナタリーは男子生徒に囲まれている事はあっても、女生徒と仲良くしている様子を見た事がなかった。……まさかどこかの子息を頼って……なんてそんな馬鹿な事はいくらナタリーでもしないわよ……ね?
「もうあと一週間もすれば、ナタリー様の結婚式ですね。……でも良かったですね、妊娠はしていなくて」
「そうね。婚前に妊娠していたなんて……パトリック伯爵の神経を逆なでするだけですもの。妊娠はめでたい事だけど、さすがにね」
母からナタリーの月のものが来たと聞いた時には、申し訳ないが安堵してしまった。これ以上パトリック伯爵の気分を損ねるのはナタリーにとっても良くないだろう。
私とバーバラはそう言って胸をなでおろした。
レナード様もあと半月もすれば辺境伯の爵位を継ぐことになっている。お祝い事続きだが、どうしてもナタリーの結婚について、なんとなく先行きが不安である事は、口にしなくても誰もが感じるところであった。
「エリン様、ご実家からお手紙でございます」
執事が私の部屋へと現れたのだが、どうも表情がさえない。私は父に何かあったのではと心配になった。
「どうも、早馬でのお手紙のようで……」
執事も只事ではない雰囲気を察したのか表情は硬い。
私は震える手で、手紙を開いた。
「え?!ナタリーが!!」
という私の言葉にバーバラと執事が反応する。
「何かございましたか?」
「ナタリーがいなくなったって……」
そう言いながら、私は二人の方へ兄
からの手紙を差し出した。
「早馬だと王都から此処まで二日程……。ではナタリー様が家を出られてから二日以上……」
と言う執事の言葉にバーバラは、
「家出……なのですよね?」
と恐る恐るといった風に私に尋ねた。
「ええ。手紙にもそう書いてあるわ。書き置きがあったって」
「結婚が嫌になったのでしょうか?」
「詳しい事は書いていないけど……」
手紙にはとても簡潔に『ナタリーが書き置きを残して家出をした。探してはいるが、結婚式に穴を開ける様な事になれば、パトリック伯爵家とは絶縁する羽目になるだろう』とだけ書かれていた。兄としてはストーン伯爵家とパトリック伯爵家が縁付く事に意味があるとでも言わんばかりの内容で、ナタリーを心配している様子は窺えない。
「これ以上パトリック伯爵様を怒らせる様な事にならなければ良いのだけど」
そう言った私の言葉にバーバラも執事も首を縦には振らず、曖昧に笑って誤魔化すのだった。
その日の夕食時。この日はミューレ様も一緒に晩餐を楽しんでいたのだが、私の心の片隅にはナタリーの事があり、なんとなく気が晴れないでいた。
「気になるか?」
私のそんな様子を見かねて、レナード様に声を掛けられる。
「申し訳ありません。つい……」
「謝る事はない。気になって当然だ」
私とレナード様の話に、辺境伯様も、
「心配だろう。心当たりなどは?」
と尋ねてくれる。
「あの子に親しい友人がいたと言う話は聞いたことがありませんし……近しい親戚は兄の婚約者の家でもありますので、そこにノコノコと顔を出す事はないと思うのです」
学園でナタリーは男子生徒に囲まれている事はあっても、女生徒と仲良くしている様子を見た事がなかった。……まさかどこかの子息を頼って……なんてそんな馬鹿な事はいくらナタリーでもしないわよ……ね?
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