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第18話

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その後程なくして、ハロルドとナタリーは婚前旅行へと旅立った。予定では約五日間。

「やっと出掛けたわね」
と疲れた様に言う母。
明日は私の卒業式だと言うのに、ここ数日ナタリーの買い物に振り回された母はため息交じだ。

「あれやこれや強請られて……お母様も大変だったでしょう?お金は大丈夫なの?」

パトリック伯爵家からは多額の持参金を要求されている。もちろん父が倒れたからといって、直ぐにどうこうなる程、お金に困ってはいないが、つい心配になった。

「エリンが心配しなくても大丈夫よ。でも……そろそろジュードを捜すのに人を使うのは止めようと思うの」
と母はそう言った。少し前から兄の事を諦めている様に見えた母は、続けて私に、

「ねぇ……エリンがここを継ぐのはどう?」
と尋ねて来た。我が国で女児が家を継ぐ事は出来ないので、私の夫に……という意味だろう。

「レナード様に……って事?」

「ええ。ほら……レナード様は次男だし、子爵になるなら、うちは伯爵位だし……その方が良いのではない?」
と母は本気で考えている様だ。

「お兄様の事……本当に諦めるの?」

「ジュードが今帰って来ても……許せるかどうか。あんな身勝手をしてトーチ伯爵家にも迷惑をかけたわ」
トーチ伯爵は兄の元婚約者、マリアベル様の家だ。

「お父様がこんな状態なのに……あの子ったら……」
と突然、母は泣き出してしまった。父が倒れてからずっと張り詰めていた糸がプツンと切れてしまったのかもしれない。母は母でいっぱいいっぱいだったのだ。

私はそんな母の肩を抱きながら、

「お兄様もお父様の状況は知らないもの。……お母様もお疲れなのよ。今日は私が仕事を代わるから少し休んだら?」
と言う私の言葉に、母は泣きながら頷いた。

お父様の主治医から安定剤を貰い、私はそれを母に飲ませて休ませた。

「顔色も悪いし、最近はあまりお休みになってなかったようで」
とマージに言われ、私はあまり母を気遣っていなかった自分を反省した。


私は母に代わり執務室で書類に目を通す。側には執事のアーサーが熱心に書類を捲っていた。

「ねぇ、アーサー。私が婿をとった方が良いのかしら?」
と言う私の問いに、

「奥様もそれをお考えの様ですが……クレイグ辺境伯様がそれをお許しになるか……」

「そうよね。でも、辺境伯様はお父様のご友人なんでしょう?」

「確かにそのように聞いておりますが、友人と言っても学園に通っていた時代の事。今回の縁談が持ち上がるまでは、殆ど交流はなかったと記憶しております」

「…………そう。もしレナード様が婿入りを拒否されたら……私はまた他の婚約者を探さなくてはいけないのかしら?」

……正直、それを考えるのが怖かった。

「それも全てクレイグ辺境伯様のお心次第といった所でしょう。どうしてもあちらとは格が違いますから、あちらの言い分を飲むしかありませんね」
と言うアーサーの言葉に、私は頷くしかなかった。
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