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case 雪女 ②
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「隠し子…」
「あぁ。ある町の娘にお忍びで現れた帝が手をつけた。そして、その娘は身籠った…それがお前の父だ。しかし…お前の父はずっと、その事実を知らなかった。教えたのは…俺だ。
お前の祖母にあたる女性は、その事をお前の父には隠したまま、亡くなったからな。その時はまだお前の父は若かった。俺達は、お前の父に何か困った事があれば、相談しろと言っていたんだ。そして…初めてお前の父は俺を頼った」
「それが…私ね?」
「そうだ。自分が死んだ後、凛、お前を守って欲しいと頼まれた。お前が半妖だった事もあって、他の…普通の人間には頼めなかっただろうからな」
「そうだったんだ…」
「凛。お前のその『邪な気』を読む力は、貞光のものだ。お前も貞光の子孫なんだよ」
「…少しだけ…何故か守総に妙な親近感があったの。ほんの少しだけど」
「そうか。それも無理はないな。いつの日か、お前に話さなければと思っていた。しかし、凛。お前は私の娘だ。それは変わらん。そう思って育ててきたんだ。それに、そこの馬鹿と結婚すれば、本当に義娘になるんだしな」
と言って、養父は私の頭を撫でた。
その大きな手は、私を迎えに来た時の天狗のそれだ。私はずっと2人の父に守られていた。
「ありがとう。話してくれて」
私がそう言うと、養父はにこりと笑った。
「それとな…もう1つお前に話さなければならない事がある。…今度はお前の母の事だ」
「お母さん?」
私は、私と父を捨てた母の事は、今だに許せない思いでいる。私はきっと複雑な顔をしていたんだろう。今まで黙って養父と私の話しを聞いていた所長が私の手をそっと握った。
「ああ、お前の母『朧』の話しだ。お前はきっと朧を恨んでいるだろう。しかし朧には朧の事情があった。聞いてくれるか?」
養父は、私の答えを待った。今さら…そう思う気持ちはあったが、知りたいと思う気持ちも間違いなく私の中にある。私はコクリと頷いた。
「朧は、お前の父を誰よりも愛していた。しかし、お前を身籠ったぐらいから、自分の体がおかしい事に気づいたんだ。自分の妖力がコントロール出来なくなった。お前の父には…それを告げる事が出来なかった。明らかに妊娠がきっかけだ。子どもを諦めろと言われるのが怖かったんだ。
朧は、なんとかお前を生んだ。凛が生まれてからは、徐々に妖力も落ち着いてきて、朧は安心していたんだ。…しかし、数年経つと、また妖力がコントロール出来なくなった。それはだんだんと悪化した。このままでは、お前の父と、お前を殺してしまうかもしれないと。朧はそれを恐れ、お前達の前から姿を消した」
「…私はそんな話しを父から聞いた覚えはないけど…」
「朧は黙っていなくなった。お前とお前の父に恨まれても良い。なんなら恨まれた方が気が楽だと。朧はそのまま、どこかで朽ちて亡くなるつもりだったんだろう。妖力が溢れ出て、枯渇するのも時間の問題だったからな」
「じゃあ…お母さんはもう?」
「いや…実はまだ生きている。死にかけたお前の母を救った者がいた。しかし長い間、朧は眠ったままだった。が、少し前に目覚めたと連絡があった。さっきの話しはその者が朧から聞いた話だ。凛、どうする?朧に…会うか?お前の好きにして良い」
…お母さんは、仕方なく私とお父さんを置いて出た。そう言われても、簡単には切り換えられない自分がいた。
「あぁ。ある町の娘にお忍びで現れた帝が手をつけた。そして、その娘は身籠った…それがお前の父だ。しかし…お前の父はずっと、その事実を知らなかった。教えたのは…俺だ。
お前の祖母にあたる女性は、その事をお前の父には隠したまま、亡くなったからな。その時はまだお前の父は若かった。俺達は、お前の父に何か困った事があれば、相談しろと言っていたんだ。そして…初めてお前の父は俺を頼った」
「それが…私ね?」
「そうだ。自分が死んだ後、凛、お前を守って欲しいと頼まれた。お前が半妖だった事もあって、他の…普通の人間には頼めなかっただろうからな」
「そうだったんだ…」
「凛。お前のその『邪な気』を読む力は、貞光のものだ。お前も貞光の子孫なんだよ」
「…少しだけ…何故か守総に妙な親近感があったの。ほんの少しだけど」
「そうか。それも無理はないな。いつの日か、お前に話さなければと思っていた。しかし、凛。お前は私の娘だ。それは変わらん。そう思って育ててきたんだ。それに、そこの馬鹿と結婚すれば、本当に義娘になるんだしな」
と言って、養父は私の頭を撫でた。
その大きな手は、私を迎えに来た時の天狗のそれだ。私はずっと2人の父に守られていた。
「ありがとう。話してくれて」
私がそう言うと、養父はにこりと笑った。
「それとな…もう1つお前に話さなければならない事がある。…今度はお前の母の事だ」
「お母さん?」
私は、私と父を捨てた母の事は、今だに許せない思いでいる。私はきっと複雑な顔をしていたんだろう。今まで黙って養父と私の話しを聞いていた所長が私の手をそっと握った。
「ああ、お前の母『朧』の話しだ。お前はきっと朧を恨んでいるだろう。しかし朧には朧の事情があった。聞いてくれるか?」
養父は、私の答えを待った。今さら…そう思う気持ちはあったが、知りたいと思う気持ちも間違いなく私の中にある。私はコクリと頷いた。
「朧は、お前の父を誰よりも愛していた。しかし、お前を身籠ったぐらいから、自分の体がおかしい事に気づいたんだ。自分の妖力がコントロール出来なくなった。お前の父には…それを告げる事が出来なかった。明らかに妊娠がきっかけだ。子どもを諦めろと言われるのが怖かったんだ。
朧は、なんとかお前を生んだ。凛が生まれてからは、徐々に妖力も落ち着いてきて、朧は安心していたんだ。…しかし、数年経つと、また妖力がコントロール出来なくなった。それはだんだんと悪化した。このままでは、お前の父と、お前を殺してしまうかもしれないと。朧はそれを恐れ、お前達の前から姿を消した」
「…私はそんな話しを父から聞いた覚えはないけど…」
「朧は黙っていなくなった。お前とお前の父に恨まれても良い。なんなら恨まれた方が気が楽だと。朧はそのまま、どこかで朽ちて亡くなるつもりだったんだろう。妖力が溢れ出て、枯渇するのも時間の問題だったからな」
「じゃあ…お母さんはもう?」
「いや…実はまだ生きている。死にかけたお前の母を救った者がいた。しかし長い間、朧は眠ったままだった。が、少し前に目覚めたと連絡があった。さっきの話しはその者が朧から聞いた話だ。凛、どうする?朧に…会うか?お前の好きにして良い」
…お母さんは、仕方なく私とお父さんを置いて出た。そう言われても、簡単には切り換えられない自分がいた。
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