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case 鬼 29
しおりを挟む「お前が死ねば、安綱は解放されるのではないのか?」
所長は問いかける。
「残念だな。試しても良いが、後悔しても知らんぞ?」
と実氏はニヤニヤしている。
はったりかもしれないが、本当なのかもしれない。私達は下手に実氏に手出し出来ないでいた。
私達の背後に、安綱が入っているだろう戸棚がある。
入り口の実氏はこちらを見ている。一瞬で良い。隙を作ったら安綱を取り出せる。
安綱を…所長なら封印出来る。
私は、
「貴方を殺さなければ良いのよね?」
と言うと、冷気を手から放出して、実氏の足を凍らせて、叫ぶ。
「所長!安綱を!実氏は鬼の妖力を使って攻撃出来るかもしれません。足止めしか出来ないかもしれない。早く刀を持って外へ!」
所長は私のその声に戸棚を開けると、安綱を掴んだ。
そのまま後ろの窓を蹴破ると外に出た。
「凛!お前も無理をするな!すぐに来い!」
そう所長に叫ばれるが、少しでも所長を遠くに行かせたい。
「凛ちゃん!私も手伝うよ」
と言うと、一路は自分の妖力を解放する。
一路の力を感じたのか、実氏がふと一路を見ると、みるみる歳をとっていく。
一路の正体に気づいたのか、実氏は目を瞑った。
懐から、鞭のような物を取り出した実氏はそれを振るう。
それには鬼の妖力を纏わせてあるようだ。
私が凍らせた足をその鞭で払うと、足は自由に動き出した。
しかし、目を開けて一路を見れば自分の寿命を吸い取られる事に気づいているので、実氏は目を開けられない。
実氏はイライラしながら、闇雲にその鞭をこちらに振るって来た。
「凛ちゃん、あれに当たるとヤバイ。私達も、ここから出よう」
「分かった」
私は最後に数発、氷の刃を実氏に向けて放った。
闇雲に振り回された鞭に何個かは払われたが、何本かの刃が実氏の腕や、足を傷つける事には成功した。
「くそ!痛てぇな!」
実氏はますます鞭を振り回す。
「凛ちゃん早く!」
私は、一路に手を引かれ、所長と同じように窓から飛び出した。
私達は先を走る所長を追いかける。
「所長!安綱を!」
「わかってるが、走りながらは無理だ!どこか落ち着いてからじゃないと!」
どこかって…ここは夜の山の中。落ち着ける場所を見つけるのも苦労する。
走りながら振り返った一路が、
「あいつが追いかけて来た!どこかに隠れるか?」
「この暗闇の中、ただの人間がよく迷わずについて来れるな」
と所長が疑問を口にする。
「安綱と繋がってるって言ってたから、それで方向がわかるのかも」
私が言うと、
「じゃあ、隠れても無駄じゃねぇか!」
「そうかも…とりあえず、所長は今は力を使わないでね、封印にどれぐらい力を使うかわからないから」
「わかってるよ!どこか…とりあえず…あ、あそこ!」
所長が指を差した方向に小さな小屋が見えた。
「所長はあそこに入って、私と一路で何とか実氏を食い止めるから!」
私と一路は小屋に所長が飛び込むのを見届けると実氏に対峙するべく、小屋を背にして立ちふさがった。
一路は、
「凛ちゃん、あの鞭に触れるなよ。肉が持っていかれそうだ」
と私に言う。
「分かった。とりあえず、向こうは一路を見る事が出来ないから、きっと闇雲に打ってくる。一路も気をつけて」
私達はお互い頷き合うと、改めて実氏に向かい合った。
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