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case 鬼 24
しおりを挟む「すみません。詳しい検査をしないとなんとも言えません」
守総に呼ばれた女医は続けて、
「ここでは精密検査をする事は出来ませんので、入院をお勧めします。私が病院に連絡し、到着したらすぐにでも検査が出来るよう手配しておきますので」
と守総に告げた。
「わかった。直ぐに病院へ運ぼう。私達も後を追う」
と守総が固い表情で頷いた。
私はその後ろで固唾を飲んで見守る。そんな私に桜華が近づくと、
「ねぇ…さっきから気になってたの…貴女はだぁれ?」
と、この緊迫した状況には似つかわしくないような声で、私に訊ねてきた。
声は可愛らしいのに…目は全く笑っていない。
私が答えに困っていると、
「その者は、私の新しい秘書候補だ。今までは男の秘書だけだったろ?それだとその者達がこの大奥に入れないから、女性を雇う事を検討しているんだ」
と守総が私の正体を誤魔化して、それらしい理由を桜華に話してくれた。
しかし、
「そう…。秘書…ね」
と桜華は呟くと、私の耳元で、
「守総様のお側に居るからといって、勘違いしないでね。もし…貴女が守総様に不埒な気持ちを持つのであれば…」
と言って、その長い爪を私の首にあてると、
「私、呪い殺してしまうかもしれないわ」
と私にしか聞こえない声で言った。
私は背筋に冷たい物が流れるのを感じる。
…なんて禍々しい気配を纏った人なんだろう…
桜華はその爪でスッ…と私の首を撫でる。
怖い…。彼女の纏う空気が怖い。
…やはり、桜雅を使って安綱を島から持ち出したのは、桜華だ。
では、術者は桜華?なら安綱は此処に?
病院に守総と共にこの桜華もついて行くなら…この部屋を探す時間が出来るかもしれない。
所長になんとかこの状況を伝えたいが…。
桜雅が運ばれて行くのを見ていた守総が、
「すまない。今日は戻ってくれ。私は直ぐに病院へ行く」
と私に言うと、桜華も、
「私も帝と共に参ります」
と守総の腕を縋るように握りしめた。それは、息子を心配する母親そのものに見えた。
「では、私は…戻ります」
と言って急いで部屋を出て、直ぐに近くの柱の影に隠れた。
護衛達も桜雅の事で頭が一杯なのか、こちらには目もくれず、守総と桜華について大奥を出ていく。
私はそれを見送ると、そっと周りを見回した。
目につく所には護衛の姿も認められない。
私は急いで桜華の部屋に戻る。
扉には鍵が掛かっているが、私は自分の手をそのノブにかけると、冷気を流し込む。
カチリと鍵の開く音がした。
私は直ぐに部屋へ滑り込むと、急いで安綱を探す。安綱の気配を探る。きっと邪な気を纏っている筈だ。
焦れば焦る程、自分の気が乱れてしまう。
心で落ち着け、落ち着けと呟きながら気配を探る………見つからない。此処じゃないの?
そう思った瞬間、後ろからさっき感じた気配に気づいた…がその刹那、私は頭を殴られて、視界が暗転していく。
「この……泥棒猫」
という呟きを最後に耳にして、私は意識を失った。
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