なんでも相談所〈よろず屋〉で御座います！～ただしお客様は妖怪に限る～

case 鬼 ⑲

「で、俺に何の用だ？」
と訊く鬼道丸に、兵六さんは、

「おぬし…鬼切安綱が何処にあるのか知ってるんじゃないのか？」
と直球で訊いた。
え？もう少しオブラートに包んだ方が良いんじゃない？

「ほぉ。お前らはアレを探しにきたのか？もし俺が持っていると思っているなら、見当違いだ。期待外れか？」

「いや…おぬしがそれに侵されているんだとすれば、持っているのはおぬしじゃないじゃろ？此処に来るまでは疑っておったがな」

「それ？なんの事だ？」

その疑問には私が答える。

「それは…『呪い』です。私達はその呪いに安綱が関係していると思っています。何か御存知の事があるなら…教えて下さい」
と、紋様の現れている腕を見ながら言うと、

鬼道丸は私の視線の意味する所がわかった様で、

「呪い…か。なるほどな。この症状は…鬼だけか？それとも他の妖怪も対象になってるか？」


「今のところ、鬼だけです」

「そうか。俺は何にも知らん。だが、アレなら、もうこの島にない」

「どういう事だ？何故それを知ってる？」
と所長は鬼道丸に詰め寄る。

「落ち着け、天狗。知ってる訳じゃあない。わかるだけだ。アレには親父さんの妖力が入ってるからな。近くに無いことはわかる。もちろん封印が解けた事も」

「何故、封印が解けた事を皆に言わなかった？」

「ふん。言ってどうなる？封印が解かれたからと言って、アレを扱う者がいなければ問題はない。茨木童子が死んだんだ、いずれは封印は解ける。なら、この島で守るしかないだろう」

「貴方は、この島を出たかったのでは？だから紫電さんと対立していたと訊いたのだけど…」
私はつい疑問を口にしていた。

「あぁ。鬼だけが邪魔者扱いされている事には不満がある。人間に化ける事が出来る鬼だって存在するんだ。そいつらにはチャンスをやりたかった。俺は別に何処に居ようが関係ないがな。紫電は頭が固い。もう少し柔軟に考えるべきだ」

「てっきり、鬼がNIHONを乗っ取りたいのかと…」

「お嬢ちゃん。俺は童子と同じく、アレを此処で守る事が大切だと考えていたさ。ただ、鬼だけが我慢するのは違うだろう？選択肢を童子は全て放棄した。親父さんなら、NIHONを鬼の物にするよう考えただろうが、俺はそこまで馬鹿じゃない。それに貞光には感謝している。…敵を打ってくれたからな」

鬼道丸の事を私は…いや、私達は皆勘違いしていたの？

「それを何故紫電に言わなかった？」
所長が訊ねると、

「あいつは童子の１番弟子だ。童子の考えを、遺志を守る事だけが正しいと思っている。別にあいつと仲良しこよしになるつもりはない。まず俺とは馬が合わんしな」
と、大きな体を揺らして笑った。