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case 鬼 ⑩

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「これはお前の弁当か?」

…弁当って程立派な物でもないけど。おにぎりとウィンナーと卵焼きのみ。野菜は野菜ジュースで補う予定だ。

「そうですよ。ちょうどお昼ご飯にしようと思っていたので。えっと…帝は何を飲みますか?珈琲と、紅茶、あと煎茶があります。…あ!そうだ。梅こぶ茶もありました。どれにします?」
と私が訊くと、

「じゃあ…梅こぶ茶」
意外な趣味だった。

私は帝…上ノ神 守総の前に梅こぶ茶を置くと、
向かいに腰掛けてお弁当を食べ始めた。

「…普通、客の前で、1人で食事するか?」

呆れたように言う守総に、私は、

「貴方の依頼を所長は受けるつもりはない様なので、貴方は依頼者じゃないです。
それに勝手に来て勝手に待ってる人にまで気を使っていては、ご飯を食べそびれてしまいますから。これでも、私、忙しいんで」

昨日は帝って事で、私も緊張したし、驚いた。
でも兵六さんから、貞光の話しを聞いたからだろうか…この人に対する畏怖みたいなものは失くなっていた。

「忙しい?昨日も今日も客は誰もいない様だが?」
…痛いところを突かれてしまったが、認める訳にはいかない。

「依頼者が居ない時でも、仕事はあるんです。はっきり言って私しか働き手はいないんですから」

「さっきの話しの続きだ。お前は妖か?」

「言う必要はありません」

「可愛くないな。まぁ、此処に居るっていう事は、妖って事だろ」

「……。半妖です」

「半妖か…。どっちが人間だ?」

「父が人間でした。母は雪女です」

「そうか。雪女と人間の半妖は多いからな。お前の父は?」

「父は亡くなりました。母は家を出ていったので、今、どうしているか知りません」

「そうか…。人間と共に居ても、妖は必ず置いて逝かれるからな。お前も寂しかっただろう」

「…養父がいましたから」

「養父は妖か。妖と妖が共にある事がお互いの幸せの為だろうが、それでも誰かを求める気持ちはどうにか出来るものではないからな」

「帝にもその気持ちが分かるって言うんですか?」

「あぁ。わかる」

……なんでだろうか。何故かこの人に親近感が湧く。


私と守総の間に妙な空気が流れていたその時、

「あんたの依頼は受けないと言ったろう?」

と事務所の扉を開けて声を掛けたのは、所長だった。

昨日、私からの連絡を丸っと無視した事なんかすっかり忘れているかの立ち振舞いに私は軽くイラッとする。

その所長の言葉に、

「今回の依頼者は、私ではない。…私の妻だ」
と上ノ神 守総は所長の目を真っ直ぐ見つめて、

「私の妻を…助けて欲しい…」
と苦しそうな声で助けを求めた。
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