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case 鬼 ⑨

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結局、所長からの返信はないまま夜が明けた。

一応メッセージは読んだ形跡があるので、兵六さんがONIGASIMAへ『鬼切安綱』の件で行っている事は伝わっている筈だ。

私は所長が居る事を期待して、事務所の扉を開く…がそこには誰も居なかった。

所長は何処にいるのか?何をしているのか?
気にはなるが、今日も私には私の仕事がある。働かざる者食うべからず。安綱の事では何の役にも立たないのだから、せめて仕事ぐらいはきっちりやらなければならない。

今日は事務所で事務仕事。書類の整理が溜まっている。
私は机に向かい、パソコンを立ち上げる。
書類を作るのも、経理の仕事も、依頼を受けるのも私の仕事。…よく考えると不公平としか言えない。

はぁ…今月も赤字だ。このままでは、私の給料はまたもや未払いだ。溜め息しか出ない。


作業を始めて3時間程が経つ。そろそろ昼休みにでもするか、と背伸びをして体の凝りを解す。
今日はずっと机に向かっていたので、目も肩も辛い。
私が昼食を食べるべく、用意をしていると、事務所の扉をノックする音が聞こえる。
せっかくご飯を食べようと思ったのにな…とは思うが依頼者なら、逃す事は出来ない。

「はーい」
と私が返事をすると、扉が開いた。

事務所へ入ってくる人物に、私は固まってしまう。

……上ノ神 守総…。
確かに『また来る』とは言ってたけど…。

「おい、お前。大蔵 八雲は何処だ?」

固まっていた私は我に返り、

「しょ、所長は生憎、席を外しております」

「じゃあ、待たせてもらう」

「あの…今日はもう戻らないかもしれませんので、また日を改めて…」

「…お前も妖か?」

帰らない気かな?私が黙っていると、

「私はこの国の帝だ。この国には人間に紛れ妖が住んでいる事ぐらい分かっているし、この国に住んでいる者は人間だろうが、妖だろうが関係なくこの国の民だ。今の者達は既に妖の存在を忘れさっている者も多いだろうがな」

…もちろん、この国の人達が妖怪を遠い昔の伝承だと思っている事も知っている。しかし、こうして存在を認めている人がいる事も、私達妖怪は良く分かっている。
私は、

「所長はいつ帰って来るかわかりません。待つと言うなら、ご自由にどうぞ。立っていると邪魔になるので、こちらに腰かけて下さい」

と私がまさにお昼のお弁当を広げ始めていたローテーブルの前の長椅子に、彼を案内した。
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