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case 鬼 ⑥
しおりを挟む「わしが貞光と出会ったのは、奴がまだ青二才の頃じゃ。あいつはその頃の領主の元で歩兵として働いておった。
その頃、妖怪は人間の敵であった。それはわしも同じじゃ。その頃のわしも若かった。力も漲って、誰彼構わず襲ったもんじゃ」
…今の兵六さんからは想像出来ない。ってか兵六さんっていくつなんだろ?
「ある日、わしは源の奴に追い詰められておった。向こうは随分とたくさんの兵を連れてな、多勢に無勢じゃ。
もう、わしも年貢の納め時だと腹を括った時じゃった、急に当たり一面真っ白に光ったと思ったら、何も見えんくなってな。これも源の力かと思っておったら、横から手が伸びて来て、わしを掴むとそいつは、一目散にその場から逃げ出した」
「もしかしてそれが?」
「あぁ、それが貞光じゃった。妖怪のわしを助けるなんぞ、イカれた奴だと思ったが、貞光は『源の使う力は禍々しい。あれは使ってはいけない力だ』とそう言うと、わしに『人間を襲わねばお前は生きていけないのか?』と訊ねてきた。よくよく考えれば、別にその必要はないと思い当たったが、認めるのは癪にさわる。わしは貞光を襲った。いや、襲おうとした」
「え?助けて貰ったのに?」
「まぁ、凛ちゃん、そう言うな。あの頃はそうやって妖怪達は生きていたんだ。特段理由などないがな。ただ人間と妖怪は相容れない関係だった。それだけじゃ。しかし、貞光の力がわしを退けた」
「それが、上ノ神 貞光の力?」
「そうじゃ。あいつも、いつの日からかその力を持つようになったと言っておった。邪な力を察知し、それを断ち切り…無効化する。はっきり言えば妖怪には厄介な力じゃ。忌々しい事に、わしの妖力は貞光に効かんかった」
「それって、最強ね」
「あぁ。あいつが本気になれば、妖怪だって殲滅出来たかもしれんなぁ。しかし、妖怪だって全部が全部、邪な気を持ってる訳じゃなかろう?」
「そうね。座敷わらしなんて良い例ね」
「そうじゃ。そんな妖怪に貞光の力は効かん」
「貞光の力は人間にも効いたの?」
「それが不思議な事に、普通の人間には効かんかった。特別な力を持つ者。それも邪悪な力にしか効かんかった」
「じゃあ、源家や渡辺家の力って…」
「あぁ。ある者に調べて貰ったが、あの2つの家は力を得る為に、生け贄を捧げておったと考えられている」
「生け贄?!」
「あぁ。だから貞光は『禍々しい力』と言ったんだろう。しかし、貞光が生きている間にそれに気づく事はなかった。あの2つの家を滅ぼした後にわかった事じゃ。貞光は邪な気を察する事は出来るが、原因などはわからんかったからな。わしが気になって調べたんじゃ」
…上ノ神 貞光…彼はこの国をどうしたかったんだろう。
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