なんでも相談所〈よろず屋〉で御座います！～ただしお客様は妖怪に限る～

case 鬼 ①

珠緒さんと辰巳さんが結婚した。

いや～目出度い。目出度いのだが…私はふと気づいてしまった。
お得意様を1人失ってしまった事を。

イーとヌーを定期的に散歩させるという仕事は、そんな頻度の高い依頼じゃなかったが、それでも、なんの依頼もなく、やたらとしょっちゅう閑古鳥のなく事務所にとって、大事な常連さんだったのだ。

HIMEJIが少し遠い事もあり、交通費も出たし、なんてったって珠緒さんは売れっ子占い師。
金払いも良かった。

イーとヌーの散歩は、随分前から、辰巳さんの日課だ。

辰巳さんは好きなお酒を造りながら、珠緒さんのお世話を甲斐甲斐しくやいているらしい。

炊事、洗濯、掃除、全て辰巳さんがこなしていると聞いた時はびっくりしたが、
『俺も独り暮らしが長いからな』と頭を掻いた。辰巳さんのクセだ。




今日は、私は団三郎狸のおっちゃんのお手伝いだ。
団三郎狸のおっちゃん…確か名前はサブローさんだったかな？『おっちゃん』としか呼ばないので、名前は忘れがち。

「おっちゃんもさぁ、そろそろこういう経理の仕事は、ぱそこんでやったら？」

「凛ちゃん。ワシがそういうの苦手なの、知っとるだろう？」

そう言いながら、おっちゃんはソロバンを弾いている。せめて、電卓でも使えば良いのに…。

「うーん。まぁね。でも、大変でしょう？
毎月、毎月。私としては、仕事があってありがたいんだけどさぁ」

「ははは。金勘定はワシの趣味じゃからな。大変だけど、楽しいんじゃよ。この金の音…匂い…全てが愛しいのぉ」
とおっちゃんは嬉しそうにお金に頬擦りした。

私もお金は好きだけど、おっちゃんには勝てないや。


団三郎狸は日本三名狸と言われる化け狸の１体だ。
昔は色んな人を化かしてきたらしいけど、今では只の良心的な金貸しだ。
困っている人にお金を貸すのは昔から。それは何百年たっても変わらなかったようだ。

私とおっちゃんは黙々と作業をして、全て終わったのは、夕暮れに差し掛かる頃だった。

私が机の上を片付けていると、

「そう言えば、凛ちゃん、最近変な噂を聞いたんだよ」
と少し声を潜めるようにおっちゃんが私に言ってきた。

「変な噂？どんな？」

おっちゃんは仕事柄、色んな人や妖怪と知り合いだから、兵六さんとは違った意味で情報通だ。

「鬼がさぁ…ここ最近、原因不明の病で亡くなってるんだと。ワシが知ってる内でも、もう3人も亡くなったって話だ」



『鬼』
鬼は唯一、私達のように人間に紛れて生きていく事を拒否した妖怪だ。

強くて逞しく、私達妖怪とは一線を画した存在。

その鬼に何か起こっているのだろうか？