19 / 55
case 蟒蛇 ③
しおりを挟む「凛ちゃん、此処?」
私は辰巳さんを連れて、『珠緒の館』に来ていた。
あの後、辰巳さんに私の考えを話した。辰巳さんは恐縮して、
「そんな、申し訳ないよ。その…珠緒さん?にも悪いし」
と最初は断っていた。私がなんとか説得して、此処まで連れてきたのだ。
「うん。あくまで私の提案で、珠緒さんの返事は、辰巳さんを占ってからって事になってるから、あんまり期待はしないでね。でも、何にもしないで諦めちゃうの勿体無いから。所長も辰巳さんのお酒飲めなくなるの嘆いてたし」
あの日、所長は私に辰巳さんのお酒が飲めなくなる事をめちゃくちゃ悲しそうに語った。
私は辰巳さんと『珠緒の館』の扉を開いた。
「じゃあ、辰巳さん?だっけ。そこの椅子に腰かけて貰えますか?」
と珠緒さんが自分の前のテーブルは挟んだ向かいの椅子に辰巳さんを案内した。
珠緒さんの前には古ぼけた鏡が置いてある。
これを使って未来を視るのだ。
カチンコチンになった辰巳さんに、
「そんな緊張しなくても、取って食べたりしないから、安心して。じゃあ…少し貴方の未来を視させてもらうわね…」
と珠緒さんは苦笑混じりで言葉にすると、じっと目の前の鏡を見ていた。
私は、部屋の隅に立っている。
丁度、辰巳さんの斜め後ろ。
私から、珠緒さんの顔が見える。
すると、鏡を見ている珠緒さんの顔が、何故か赤く染まっていく。
?どうしたんだろう?
珠緒さんは、何故か両手で口を覆い、信じられないものを見たような顔をしている。
何が視えているのか。
その様子に、珠緒さんに向かい合っている辰巳さんも困惑しているようだ。
ふと、珠緒さんが目の前の辰巳さんを見て、更に顔を赤くした。
不安になった辰巳さんは、
「あ、あの…何か…ありましたか?」
と恐る恐る珠緒さんに訊ねる。
占い中の珠緒さんに声を掛けて良いのかわからなくて、でもどうすれば良いのかわからなくて、辰巳さんは、声を掛けた後、じっと珠緒さんを見つめていた。
その声に珠緒さんは、
「は?あ、あぁ。あ、あの…その…、この土地…この城だった土地は、ひ、広くて…その、無駄に広くて…だから、あ、貴方の酒蔵を建てる事に何の問題もありません。あの…どうぞ、お使い下さい」
と珠緒さんはしどろもどろになりながら、辰巳さんに告げた。
「じゃあ、ここを借りても良いんですね?」
と辰巳さんは嬉しそうだ。
「はい。あ、あの賃料は要りません。建物を建てるだけでも、貴方は借金をしなくてはならないのでしょう?」
「は、はい。お恥ずかしい話ですが、蓄えも殆んどないもんですから。でも、そんな甘える訳には…」
と、辰巳さんは頭を掻く。
「賃料については、貴方の仕事が軌道に乗ったら…考えます。それまでは、甘えて頂いて大丈夫です」
結局、辰巳さんは珠緒さんの言葉に甘える事にした。
さて、早速これから、ここに酒蔵を建てる準備をしなければならない。
今は珠緒さんも普段の様子と変わりなく見えるが…さっきの珠緒さん、なんか変だったよね?と私は思わず首を傾げた。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる