なんでも相談所〈よろず屋〉で御座います!~ただしお客様は妖怪に限る~

初瀬 叶

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case 蟒蛇 ①

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私の顔を見て、

「お!おはよう!凛ちゃん!」
と辰巳さんが元気に挨拶してくれる。さすが蟒蛇。酔ってる気配はない。

「おはようございます。あれからずっと飲んでるんですか?」
と私が訊くと、

「あぁ。俺は1度酒を取りに帰ったから、少し抜けたけど…2人は朝方までずっと飲んでたよ。さすがに1時間程前に眠っちゃったけどな」
 
…2人とも…呆れる。

「でも、これ全部、辰巳さん所のお酒ですか?辰巳さんがお客さんに売る分がなくなっちゃうじゃないですか!」

「ハハハ…いいんだよ。もう…酒造りは…」
と辰巳さんが寂しそうに笑う。

「え?どうしたんです?何かありました?」

私は床に転がった酒瓶を片付けながら、辰巳さんを見た。

「うん…俺は元々、自分好みの酒を飲みたくて酒造りを始めたんだ。別に利益を得る為じゃない。
趣味の延長のようなもんだ。それでも、俺の酒を気に入ってくれる人が、1人、2人と増えてきて、それで商売を始めたんだが…もうそれもお仕舞いだ」

「お仕舞い?お酒造り、辞めちゃうの?」

私はテーブルの上を片付けながら、話を聞く。

「あぁ。今、酒を造ってる場所は…賃貸なんだが、大家がもう貸さないと言ってきた。
嫌なら家賃を倍払えと。
あの辺りに、大きな商業施設が出来るんだと。開発業者があそこら辺一体を地上げしてるみたいだ。
元々利益なんて、雀の涙ぐらいしかなかったから、倍の家賃なんて払えないしな。
俺、こんなだから、蓄えなんてないしよ。
他の場所で酒造りを続けようにも、その金もねぇ。俺にあるのは『酒好き』ってどうしょうもねぇ性質だけだからな」
と自嘲気味に笑った。

「所長…凄い辰巳さんのお酒が好きで…こうやって辰巳さんが持って来てくれるお酒、めちゃくちゃ楽しみにしてたんです」

私は、寝入っている所長と、兵六さんにブランケットを掛けながら、辰巳さんに言った。

「知ってる。俺の酒の1番のファンは、八雲だ。間違いないよ。…申し訳ねぇな。もうちょい俺に計画性があったら良かったんだろうが…俺には先の事を考える頭もねぇからよ…」

…先の事を見通す…目…。
!!!!!そうだ!!!!

「辰巳さん。とりあえず、土地…土地があったら酒蔵…作れる?」

「うーん。まぁ、設備はあるからなぁ。でも動かすお金がなぁ…。」

それは…なんとか烏を使えないかな?私は必死に考える。

「ねぇ、辰巳さん。少しだけ私に時間を頂戴?」

と辰巳さんに私は言い残すと、直ぐに事務所を出た。

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