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case 刑部姫 ⑤
しおりを挟む妖怪は妖怪と番になる方が幸せ。
それはどの妖怪も口にしなくても理解している事だろう。
人間を好きになった妖怪は必ず大切な人に置いて逝かれてしまうから。
悲しい別れを経験しなくてはいけなくなるから。
だから、妖怪は妖怪を選ぶ。
でも、誰かを好きになる気持ちは、人間でも妖怪でも同じ。
そこに、理屈は通用しない。
珠緒さんは、ずっと『彼』を想っていたんだと思う。
少しは気持ちを切り替える事が出来るようになったのだろうか?
「珠緒さんは、どんな人がタイプなの?」
と私が訊くと、
「うーん。そうねぇ。出来れば妖怪が良いわね。もう置いて逝かれるのは嫌だから」
と寂しそうに笑った。
「それ以外に条件はないの?」
って私が訊ねると、
「私、お酒飲むのが好きだから、一緒に飲んでくれる人が良いわ」
と今度はニッコリと笑ってくれた。
珠緒さんは、この場所から長く離れる事は出来ない。それを理解してくれる人で…お酒が好きな人かぁ…と私は考えていた。
私は珠緒さんに別れを告げて、家路へ向かう。
HIMEJIと、EDOは、まぁまぁ離れているので、今日は家に直帰すると所長には伝えてある。
私が大蔵の家を出たのは、約3年前。
育ての親、大蔵 雄山も、所長の2人の兄も、
『何で出ていくんだ!ずっと此処に居れば良い』と言ってくれたのだが、仕事を始めて、自分の力で生活してみたかった。
大蔵の家では大切にされていたが、やはり何処か遠慮はあったと思う。
賑やかな大蔵家を懐かしく思う事は多いが、少し気が楽に感じるのは、自分だけの秘密だ。
育ての親には、感謝してもしきれない。
家に帰って、暗い部屋に灯りを付ける。
狭くて、少し古いあぱーとだけど、私の城だ。私はすまほのメッセージを確認しながら、紅茶にたっぷりのミルクを入れて飲む。
私は自分の部屋を見渡しながら、広い屋敷に1人でいる珠緒さんに想いを馳せた。
私なんかより、遥かに長い間珠緒さんはひとりぼっちだ。
珠緒さんのその寂しさを少しでも埋めてくれるような人と出会えると良いなぁ~と思いながら、私は所長からのメッセージに返信をした。
翌日、事務所の扉を開けて、ギョッとする。
酒瓶が何本も転がり、長椅子に所長が、何故か床に兵六さんが、寝っ転がっていた。
所長が寝ている長椅子の向かい側、1人掛けの椅子には、辰巳さんが座って、まだちびちびと酒を飲んでいた。
机には、おつまみが散乱している。
はぁ…これを誰が片付けると思っているのか。
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