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case 刑部姫 ③
しおりを挟む(ああ!もうダメだ!)
イーとヌーは一目散に転んだ子どもの元へ駆けて行き、転んで泣いてしまった子どもを見下ろす位置までとうとう来てしまった。
私は心の中で(ごめんなさい)と子どもに謝った。
イーとヌーはその大きな口を開けて…
『ベロン🎶』と子どもの顔を舐める。
その後も子どもが驚いて泣き止むまで、ずっと2匹は子どもを舐め回すのだ。
それはもうしつこい程に。
『ベロン』『ベロン』と舐められた子どもは2匹のヨダレでベチョベチョだ…あぁ…申し訳ない。
その可愛い顔は涙とヨダレでグチョグチョになっている。
『送り犬』が人を喰らっていたのはもう忘れ去られる程昔の話。
ただ、この2匹は転んだ人を見るとこうやって舐め回す。
前にその事を珠緒さんに報告したら、
「うーん。味見してるのかしらね?」
と恐ろしい事を可愛らしく小首を傾げてさらっと言った。
私としては、2匹は転んだ人を慰める為に舐めているのだと思いたい。味見じゃ…ないよね?
ヨダレと涙でベッチョリしている子どもを抱き起こし、ハンカチでその顔を拭く。
「大丈夫?迷子?」
と私が訊ねると、子どもは頷いた。
でっかい犬2匹から舐め回されてびっくりしたのか、涙はもう出ていない。
しかし転んだ拍子に擦りむいた膝からは、少し血が滲んでいた。
私はイーとヌーの為に持っていたペットボトルの水で膝の泥を落とした。
少し滲みたのか、顔を歪めると、それを心配したイーがすかさずその子の手を舐めた。
私は子どもの手を引いて、はぐれたであろうその子の親を探す。
子どもの話だと、近くに川があって、そこに釣りに来たらしい。
おトイレに行って戻る時に、方向がわからなくなったようだ。
私と川を目指して歩いていると、子どもが、
「あ!あそこ!お母さん!」
と言って、私の手を離すと一目散に走って行った。
お母さんも、なかなか、おトイレから帰って来ない子どもを心配したのか、キョロキョロと探しているようだった。
何はともあれ、親が見つかって良かった。
母親に、私達の話をしているのか、こちらを指差しながら、しきりに何かを話している。
すると、子どもは母親の手を引いてこちらにやって来た。
「貴女が、息子を連れてきてくれたんですね本当にありがとうございました」
と母親が頭を下げると、
「おねえちゃんも、わんちゃんも、ありがとう」
と言って、その子は、2匹の頭を撫でた。
イーもヌーも満足そうに尻尾を振っている。
私は2人に別れを告げて、再び散歩を再開させた。
私は、
「イーもヌーも、あんまりベロベロ舐めちゃダメだよ。でも、人助け出来て良かったね」
と2匹を褒めた。
2匹は、『ウォン!』
と嬉しそうに吠えると、舌なめずりをした。
…ねぇ、味見じゃなかったよね?
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