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case 桂男 ⑥
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渋る一路を連れて私は〈よろず屋〉に戻った。
鍵を開けて中へ入るが、まだ所長は戻っていないようだ。
私は一路を長椅子に座らせて、
「一路、何か飲む?珈琲?紅茶?煎茶…どれが良い?」
と声をかけた。
一路は、不貞腐れながらも「珈琲」と呟いた。
実は一路は所長が苦手だ。何故かはわからないが、馬が合わないようだ。
私は、一路に珈琲、私に紅茶を淹れると、一路の向かいに腰かけた。
「八重乃さんね、一路に貸したお金、借金してまで作ったものみたいなの。だから、今、凄く困ってる」
「……そうだったんだ」
「一路…心が痛んだりしない?」
「…その時はちゃんと好きだったんだ。だから一緒に居る時は大切にした。結婚だって、したいって思った。でも、時間が経つとなんか違うって思っちゃって」
「だからといって、嘘ついてお金を借りる必要はないでしょう?と、言うより返さなければ、それは、お金盗んだのと一緒だよ?」
「…別れたい。ごめん。って言っても、皆別れてくれないんだ。だから…嫌われたら良いのかなって思ってさ」
「一路……まさか、嫌われる為にお金を?」
「って言っても、実際はそのお金使っちゃってるから、言い訳だよね~」
さっきまで、しおらしく真面目な感じに話をしていたのに、急にいつもの一路に戻る。
私は真意を探ろうと、じっと一路の目を見ていると、店の扉が開いて、
「なぁーに、見つめ合っちゃってんの?俺、お邪魔?」
と所長が入って来た。
「!別に見つめ合ってませんよ!」
と私が否定すると、所長は、一路の隣にどっかりと腰を下ろし、一路の肩に腕を回す。
そして、
「一路!残念だが凛は金がないんだよ。詐欺するなら、他の女を当たれ。悪いことは言わん」
と失礼だけれど本当の事を言う。
お金がないのは、自分が給料を支払ってくれないからだと、分かっていて言ってるのだろうか?
一路は
「凛にそんな事をする訳ないだろ。いつもながら、失礼な男だな」
と不快感を顕に、肩に回された腕をを払い落とした。
「まぁ、まぁそんな怒るなよ~。お前には良い話を持ってきたんだ。俺に感謝しろよ?」
「良い話?なんだそれは?」
一路は不快感を顔に張り付けたまま、所長の話を聞く。
「お前に仕事を世話してやる。ありがたく思え」
「八雲が世話する仕事なんて、怪しすぎてやる気にならない。断る」
「残念だが、一路、お前に断るっていう選択肢はないんだ。もう契約しちまったしな」
「何を勝手に!私は嫌だ」
「良い歳したオッサンが働かずプラプラして生きていける程、世の中甘くないんだよ。まぁ、とりあえず話を聞け」
…私は、『お前が言うな!』と心の中で所長に盛大なツッコミを入れていた。
鍵を開けて中へ入るが、まだ所長は戻っていないようだ。
私は一路を長椅子に座らせて、
「一路、何か飲む?珈琲?紅茶?煎茶…どれが良い?」
と声をかけた。
一路は、不貞腐れながらも「珈琲」と呟いた。
実は一路は所長が苦手だ。何故かはわからないが、馬が合わないようだ。
私は、一路に珈琲、私に紅茶を淹れると、一路の向かいに腰かけた。
「八重乃さんね、一路に貸したお金、借金してまで作ったものみたいなの。だから、今、凄く困ってる」
「……そうだったんだ」
「一路…心が痛んだりしない?」
「…その時はちゃんと好きだったんだ。だから一緒に居る時は大切にした。結婚だって、したいって思った。でも、時間が経つとなんか違うって思っちゃって」
「だからといって、嘘ついてお金を借りる必要はないでしょう?と、言うより返さなければ、それは、お金盗んだのと一緒だよ?」
「…別れたい。ごめん。って言っても、皆別れてくれないんだ。だから…嫌われたら良いのかなって思ってさ」
「一路……まさか、嫌われる為にお金を?」
「って言っても、実際はそのお金使っちゃってるから、言い訳だよね~」
さっきまで、しおらしく真面目な感じに話をしていたのに、急にいつもの一路に戻る。
私は真意を探ろうと、じっと一路の目を見ていると、店の扉が開いて、
「なぁーに、見つめ合っちゃってんの?俺、お邪魔?」
と所長が入って来た。
「!別に見つめ合ってませんよ!」
と私が否定すると、所長は、一路の隣にどっかりと腰を下ろし、一路の肩に腕を回す。
そして、
「一路!残念だが凛は金がないんだよ。詐欺するなら、他の女を当たれ。悪いことは言わん」
と失礼だけれど本当の事を言う。
お金がないのは、自分が給料を支払ってくれないからだと、分かっていて言ってるのだろうか?
一路は
「凛にそんな事をする訳ないだろ。いつもながら、失礼な男だな」
と不快感を顕に、肩に回された腕をを払い落とした。
「まぁ、まぁそんな怒るなよ~。お前には良い話を持ってきたんだ。俺に感謝しろよ?」
「良い話?なんだそれは?」
一路は不快感を顔に張り付けたまま、所長の話を聞く。
「お前に仕事を世話してやる。ありがたく思え」
「八雲が世話する仕事なんて、怪しすぎてやる気にならない。断る」
「残念だが、一路、お前に断るっていう選択肢はないんだ。もう契約しちまったしな」
「何を勝手に!私は嫌だ」
「良い歳したオッサンが働かずプラプラして生きていける程、世の中甘くないんだよ。まぁ、とりあえず話を聞け」
…私は、『お前が言うな!』と心の中で所長に盛大なツッコミを入れていた。
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