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case 桂男 ②
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その男の名前、本名は『一路』
八重乃さんに語った名前の『柊』は偽名だろう。
この男の被害にあったのは、八重乃さんだけではない。
此処〈よろず屋〉には過去に2回、一路の被害者が依頼に訪れており、私達はその2件とも結婚詐欺として警察に付きだそうとしたが、依頼人の方から被害届が出されず、事件にはなっていない。
お金も結局、今までの依頼人は泣き寝入りしていた。いや、泣き寝入りというより、一路に絆されて、被害者の方が彼を許してしまった。
今までの2人の女性は、心から一路を愛していたのだ。
連絡が取れなくなって、会えなくなった一路に一目会いたいと言うのが2人の依頼だった。
なので、私達が一路を見つけ、依頼人に会わせただけで依頼は完了。
私達もそれ以上は一路と依頼人の問題なので、そっとしておいたのだが…今回の八重乃さんの依頼は『お金を返して欲しい』だ。
今までの依頼とは内容が違う。
先程、写真データと一緒に転送して貰った一路…いや柊の連絡先に電話をしても『この電話番号は現在使われておりません』となっている。
これは八重乃さんも確認済みだ。
さて、私は一路を探すべく、ある場所に向かう。まぁ、はっきり言えば、彼が居る場所には数ヶ所心当たりがあるが、そこに居てくれるとは限らない。
夜まで待たねば、一路を呼び出せない。自分からは勝手に一日中出てくるくせに。
ここなら月が良く見える。夜になり、月が顔を出した。
私はその月を眺める。
………此処じゃないのか…。外れだ。明日は次の心当たりに行ってみよう。
それを繰り返す事、約1週間。
私は最後の心当たりの場所に来ていた。
ここを外すと、一路の行方は分からなくなる。
最後の賭けだ。
私はまた月を眺める。すると、
「凛。そんなに私に会いたかったの?」
といつの間にか私の背後に一路が現れていた。
…月に住んでるなら、月から来いよ。
「一路…いや、柊って呼ぶ方が良い?」
と私が振り向くと、そこには艶やかな着流し姿の極上の色男が立っていた。
切れ長の目にすっと通った鼻筋。
少し薄めの唇は、紅をさした訳でもないのに、艶やかで赤い。
目の下の涙黒子が更にその妖艶さに輪をかけている。
長めの黒髪は緩く結ばれているが、夜風に吹かれて儚げに揺れていた。
柊と呼ばれた一路は一瞬呆けた顔をした後、合点がいったように、口を開いた。
「あ~。また〈よろず屋〉の仕事かい?
せっかく凛が私に会いに来てくれたと思ったのになぁ」
とクスリと笑った。
「…一路。笑い事じゃないの。
今回の依頼は『お金を返して欲しい』だよ?
今までの依頼と違って、刑事事件になる可能性があるんだよ?
とにかく、八重乃さんから借りた…いや、巻き上げたお金、耳を揃えて返してちょうだい」
と私は怒った声で一路に告げる。一路は、
「お金?それは困ったねぇ。今は持ち合わせがないんだよ」
と全く困った顔をしていない彼を私は睨み付ける。
「凛。可愛い顔でいくら睨まれても怖くないよ。で、どうする?私を警察に連れて行く?」
と一路は私を見つめて首を傾げた。
イケメンって何をしても絵になるんだな…なんて私は場違いな事を考えていた。
八重乃さんに語った名前の『柊』は偽名だろう。
この男の被害にあったのは、八重乃さんだけではない。
此処〈よろず屋〉には過去に2回、一路の被害者が依頼に訪れており、私達はその2件とも結婚詐欺として警察に付きだそうとしたが、依頼人の方から被害届が出されず、事件にはなっていない。
お金も結局、今までの依頼人は泣き寝入りしていた。いや、泣き寝入りというより、一路に絆されて、被害者の方が彼を許してしまった。
今までの2人の女性は、心から一路を愛していたのだ。
連絡が取れなくなって、会えなくなった一路に一目会いたいと言うのが2人の依頼だった。
なので、私達が一路を見つけ、依頼人に会わせただけで依頼は完了。
私達もそれ以上は一路と依頼人の問題なので、そっとしておいたのだが…今回の八重乃さんの依頼は『お金を返して欲しい』だ。
今までの依頼とは内容が違う。
先程、写真データと一緒に転送して貰った一路…いや柊の連絡先に電話をしても『この電話番号は現在使われておりません』となっている。
これは八重乃さんも確認済みだ。
さて、私は一路を探すべく、ある場所に向かう。まぁ、はっきり言えば、彼が居る場所には数ヶ所心当たりがあるが、そこに居てくれるとは限らない。
夜まで待たねば、一路を呼び出せない。自分からは勝手に一日中出てくるくせに。
ここなら月が良く見える。夜になり、月が顔を出した。
私はその月を眺める。
………此処じゃないのか…。外れだ。明日は次の心当たりに行ってみよう。
それを繰り返す事、約1週間。
私は最後の心当たりの場所に来ていた。
ここを外すと、一路の行方は分からなくなる。
最後の賭けだ。
私はまた月を眺める。すると、
「凛。そんなに私に会いたかったの?」
といつの間にか私の背後に一路が現れていた。
…月に住んでるなら、月から来いよ。
「一路…いや、柊って呼ぶ方が良い?」
と私が振り向くと、そこには艶やかな着流し姿の極上の色男が立っていた。
切れ長の目にすっと通った鼻筋。
少し薄めの唇は、紅をさした訳でもないのに、艶やかで赤い。
目の下の涙黒子が更にその妖艶さに輪をかけている。
長めの黒髪は緩く結ばれているが、夜風に吹かれて儚げに揺れていた。
柊と呼ばれた一路は一瞬呆けた顔をした後、合点がいったように、口を開いた。
「あ~。また〈よろず屋〉の仕事かい?
せっかく凛が私に会いに来てくれたと思ったのになぁ」
とクスリと笑った。
「…一路。笑い事じゃないの。
今回の依頼は『お金を返して欲しい』だよ?
今までの依頼と違って、刑事事件になる可能性があるんだよ?
とにかく、八重乃さんから借りた…いや、巻き上げたお金、耳を揃えて返してちょうだい」
と私は怒った声で一路に告げる。一路は、
「お金?それは困ったねぇ。今は持ち合わせがないんだよ」
と全く困った顔をしていない彼を私は睨み付ける。
「凛。可愛い顔でいくら睨まれても怖くないよ。で、どうする?私を警察に連れて行く?」
と一路は私を見つめて首を傾げた。
イケメンって何をしても絵になるんだな…なんて私は場違いな事を考えていた。
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