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番外編
番外編・その51
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翌日、ジュリエッタとゴールドマン伯爵は伯爵領へと帰って行った。
父はまだ少し体調が思わしくないからと、部屋で別れを惜しんだようだ。
派手好きだったジュリエッタはもういない。
きらびやかな王都に拘る夢見がちな少女は王都から離れた領地で無骨で真面目な伯爵を支える未来を選んだのだ。
「寂しそうだな」
ジュリエッタ達の乗った馬車が見えなくなるまで見送っていた私に、隣に立つマルコ様はそう声を掛けた。
「ふふっ。ジュリエッタを見送るのに寂しく思う日が来るなんて……思ってもみなかったわ」
「そうだな。君はいつも自分の家族に振り回されてた。王太子妃になった時も王妃になった時も」
そう言いながら、マルコ様は私の肩を抱いた。
その言葉に私は今までの事を思い出す。
父からは見向きもされず、母からは過度な期待と失望を向けられ、妹には敵意を向けられていた。
婚約者には婚約解消され、代打の様にお飾り王妃になった。
そして私の王妃という立場が危うくなったきっかけも、元はと言えばジュリエッタが元凶だ。陛下やセドリックは私をいつの日か解放してやりたいと思っていたと言っていたが、あんな終わりは誰も予想していなかったに違いない。
「人生って何が起こるかわからないわ」
「そうだな。俺だってまさか自分が騎士を辞めて商人になるなんて……考えた事もなかったよ」
と大袈裟に肩を竦めたマルコ様に、私は思わず笑ってしまった。
「本当ね。……ねぇ、マルコは後悔してる?」
私は少し真面目な顔でマルコ様に質問する。
彼は私と関わったばかりに、婿養子になり、商人になってしまった。
元はと言えば、私が推しとの生活に目が眩んだせいだ。
「後悔?何だそれは?そんな物は俺の人生に存在しないな」
とマルコ様は笑う。
「だって、私の護衛騎士にならなければ、貴方はいつの日か近衛騎士として立派な地位に着いていたと思うわよ?」
彼は私の専属騎士になる前、副官を努めていた程の腕前だ。団長……とまではいかなくても副団長ぐらいには登り詰めていただろう。
「うーん。それはどうだろうな?騎士ってのは、怪我が多い仕事だ。長く続ける事が出来ていたかどうか。そう思えば商人になって良かったよ。長生き出来そうだ」
とマルコ様はまた笑った。私もそれにつられて笑う。
彼は私の心の重荷をいつも肩代わりしてくれる。そして私を笑顔にしてくれるのだ。
「やっぱり貴方は私の『最強で最高の推し様』だわ。だって私をいつも笑顔に、そして幸せにしてくれるもの」
と私はそう言うと少し背伸びをしてマルコ様の頬に軽くキスをした。
マルコ様は顔を少し赤くしながらも、
「推し?推しって何だ?」
と私に尋ねる。
「さぁ!子ども達が待ってるわ。屋敷に戻りましょう?」
と私はマルコ様の問いには答えず、屋敷の方へと歩き出した。
「おい!推しって何だよ!推しって」
とマルコ様は私を追いかけながらも尋ねてくる。
そんな様子に私は笑いを堪える。
『推し』は『推し』だ。言葉で説明するなんて、無理なのだ。
オタクの活力、生きる目的、元気の源、それが『推し』
私はマルコ様の言葉を無視して、さっさと屋敷へと戻っていく。後ろからはマルコ様。
きっと私の顔は端から見れば締まりなくニヤニヤしている事だろう。
さてと、これからも私は一番近くで『推し』を愛でる事にしましょうか。
だってそれが『お飾り王妃』になる条件だったんだもの。
わがままなオタクで何が悪いの?
~fin~
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日11月30日に今作の「婚約解消された私はお飾り王妃になりました。でも推しに癒されているので大丈夫です!」の単行本が発売されました!
これも全てこの作品を読んで下さいました、読者の皆様のお陰です。ありがとうございました。
このお話で番外編も完結となります。
(セドリック編はまだ続いておりますので、そちらもよろしくお願いします)
今後も、もう少し子ども達のお話など書けたら良いな…とは思いますが、とりあえずはこの長く続いたクロエの物語は完結です。
本当に長い間、この物語にお付き合いいただいた皆様に心から感謝を申し上げます。
また、別のお話でも皆様にお会い出来る事を楽しみにしております。
初瀬 叶
父はまだ少し体調が思わしくないからと、部屋で別れを惜しんだようだ。
派手好きだったジュリエッタはもういない。
きらびやかな王都に拘る夢見がちな少女は王都から離れた領地で無骨で真面目な伯爵を支える未来を選んだのだ。
「寂しそうだな」
ジュリエッタ達の乗った馬車が見えなくなるまで見送っていた私に、隣に立つマルコ様はそう声を掛けた。
「ふふっ。ジュリエッタを見送るのに寂しく思う日が来るなんて……思ってもみなかったわ」
「そうだな。君はいつも自分の家族に振り回されてた。王太子妃になった時も王妃になった時も」
そう言いながら、マルコ様は私の肩を抱いた。
その言葉に私は今までの事を思い出す。
父からは見向きもされず、母からは過度な期待と失望を向けられ、妹には敵意を向けられていた。
婚約者には婚約解消され、代打の様にお飾り王妃になった。
そして私の王妃という立場が危うくなったきっかけも、元はと言えばジュリエッタが元凶だ。陛下やセドリックは私をいつの日か解放してやりたいと思っていたと言っていたが、あんな終わりは誰も予想していなかったに違いない。
「人生って何が起こるかわからないわ」
「そうだな。俺だってまさか自分が騎士を辞めて商人になるなんて……考えた事もなかったよ」
と大袈裟に肩を竦めたマルコ様に、私は思わず笑ってしまった。
「本当ね。……ねぇ、マルコは後悔してる?」
私は少し真面目な顔でマルコ様に質問する。
彼は私と関わったばかりに、婿養子になり、商人になってしまった。
元はと言えば、私が推しとの生活に目が眩んだせいだ。
「後悔?何だそれは?そんな物は俺の人生に存在しないな」
とマルコ様は笑う。
「だって、私の護衛騎士にならなければ、貴方はいつの日か近衛騎士として立派な地位に着いていたと思うわよ?」
彼は私の専属騎士になる前、副官を努めていた程の腕前だ。団長……とまではいかなくても副団長ぐらいには登り詰めていただろう。
「うーん。それはどうだろうな?騎士ってのは、怪我が多い仕事だ。長く続ける事が出来ていたかどうか。そう思えば商人になって良かったよ。長生き出来そうだ」
とマルコ様はまた笑った。私もそれにつられて笑う。
彼は私の心の重荷をいつも肩代わりしてくれる。そして私を笑顔にしてくれるのだ。
「やっぱり貴方は私の『最強で最高の推し様』だわ。だって私をいつも笑顔に、そして幸せにしてくれるもの」
と私はそう言うと少し背伸びをしてマルコ様の頬に軽くキスをした。
マルコ様は顔を少し赤くしながらも、
「推し?推しって何だ?」
と私に尋ねる。
「さぁ!子ども達が待ってるわ。屋敷に戻りましょう?」
と私はマルコ様の問いには答えず、屋敷の方へと歩き出した。
「おい!推しって何だよ!推しって」
とマルコ様は私を追いかけながらも尋ねてくる。
そんな様子に私は笑いを堪える。
『推し』は『推し』だ。言葉で説明するなんて、無理なのだ。
オタクの活力、生きる目的、元気の源、それが『推し』
私はマルコ様の言葉を無視して、さっさと屋敷へと戻っていく。後ろからはマルコ様。
きっと私の顔は端から見れば締まりなくニヤニヤしている事だろう。
さてと、これからも私は一番近くで『推し』を愛でる事にしましょうか。
だってそれが『お飾り王妃』になる条件だったんだもの。
わがままなオタクで何が悪いの?
~fin~
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本日11月30日に今作の「婚約解消された私はお飾り王妃になりました。でも推しに癒されているので大丈夫です!」の単行本が発売されました!
これも全てこの作品を読んで下さいました、読者の皆様のお陰です。ありがとうございました。
このお話で番外編も完結となります。
(セドリック編はまだ続いておりますので、そちらもよろしくお願いします)
今後も、もう少し子ども達のお話など書けたら良いな…とは思いますが、とりあえずはこの長く続いたクロエの物語は完結です。
本当に長い間、この物語にお付き合いいただいた皆様に心から感謝を申し上げます。
また、別のお話でも皆様にお会い出来る事を楽しみにしております。
初瀬 叶
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