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番外編

番外編・その50

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「あちらのご実家は縁を切るそうよ。もちろん、うちはもう離縁しているから、そもそも関係はないのだけれど」
と私が話し始めると、

「……それでは……お義母さまは」
とゴールドマン伯爵が口にすると、

「お義母様なんて呼ばないで!あんな人、母だった事すらもう忘れたわ!」
とジュリエッタが反応した。
成長したとはいえ、こういう所はまだ子どもだな……と思う瞬間だ。

「伯爵が想像した通り、平民として裁かれる事になるわ」
と私は少し重苦しく言った。

平民の立場で貴族の……しかも侯爵家の屋敷に押し入るという事は……極刑もやむを得ないという事を意味する。
私が最後まで言わなくても、この食卓を囲む皆には想像できただろう。

「私としてはこの国の法の裁量に任せるつもり。それが例えどんな結末になろうとも」
と私は静かに言った。
マルコ様は極刑を求めようと私に提案してきたけれど、私はそれに首を縦に振らなかった。
さすがに……それは出来そうにない。

「お姉さま……私は極刑を望むわ」
と言うジュリエッタの瞳は怒りで染まっている。自分の結婚式の日に、実行されたのだ。怒るのも当たり前だろう。

「ジュリエッタ……」
とゴールドマン伯爵はジュリエッタの手を握った。

「お姉さま、私ね、お父様の気持ちを思うと胸が苦しくなるの。……今のお父様にはナラさんが居る。それはわかっているの。でも……お父様はずっと…あの人を愛していたわ。それなのに…あの人はその気持ちを踏みにじる事ばかり。ずっとお父様に守られて、大切にされていた筈なのに。だからこそ、私はあの人を許せないの」

ジュリエッタは自分の記念日を台無しにされた事より、お父様の気持ちを踏みにじった事が許せなかったようだ。

「ジュリエッタ……貴女の気持ちはよくわかったわ。でも、私達が求めなくても彼女に残された道は……決して甘いものにはならないわ」
と私が言えば、

「今回の件では……陛下も大層お怒りだ。セイン殿下の未来の婚約者を害そうとしたと…な。まだ、うちはそんな事を了承していないんだが……」
と少しマルコ様は不貞腐れた様にそう言った。

「それは誰から?」

「さっき、宰相殿から連絡が」
と私の質問にマルコ様は簡潔に答えた。

「であれば……そういう事になるのでしょうな」
とゴールドマン伯爵は頷くとジュリエッタに向かって、

「例え君が認めなくても、彼女が君を産んでくれた事に変わりはない。今はそう考えられないかもしれないが、いつの日か、極刑を求めた自分を責めてしまう日がくるかもしれない。君がそんな気持ちを抱えて生きるのは、私にとって不本意なんだ。ここは法に任せよう」
と言い聞かせるように、そう言うとジュリエッタの頭を撫でた。

ジュリエッタは渋々といった様子で頷くと残りの朝食を口にした。
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