85 / 86
番外編
番外編・その50
しおりを挟む「あちらのご実家は縁を切るそうよ。もちろん、うちはもう離縁しているから、そもそも関係はないのだけれど」
と私が話し始めると、
「……それでは……お義母さまは」
とゴールドマン伯爵が口にすると、
「お義母様なんて呼ばないで!あんな人、母だった事すらもう忘れたわ!」
とジュリエッタが反応した。
成長したとはいえ、こういう所はまだ子どもだな……と思う瞬間だ。
「伯爵が想像した通り、平民として裁かれる事になるわ」
と私は少し重苦しく言った。
平民の立場で貴族の……しかも侯爵家の屋敷に押し入るという事は……極刑もやむを得ないという事を意味する。
私が最後まで言わなくても、この食卓を囲む皆には想像できただろう。
「私としてはこの国の法の裁量に任せるつもり。それが例えどんな結末になろうとも」
と私は静かに言った。
マルコ様は極刑を求めようと私に提案してきたけれど、私はそれに首を縦に振らなかった。
さすがに……それは出来そうにない。
「お姉さま……私は極刑を望むわ」
と言うジュリエッタの瞳は怒りで染まっている。自分の結婚式の日に、実行されたのだ。怒るのも当たり前だろう。
「ジュリエッタ……」
とゴールドマン伯爵はジュリエッタの手を握った。
「お姉さま、私ね、お父様の気持ちを思うと胸が苦しくなるの。……今のお父様にはナラさんが居る。それはわかっているの。でも……お父様はずっと…あの人を愛していたわ。それなのに…あの人はその気持ちを踏みにじる事ばかり。ずっとお父様に守られて、大切にされていた筈なのに。だからこそ、私はあの人を許せないの」
ジュリエッタは自分の記念日を台無しにされた事より、お父様の気持ちを踏みにじった事が許せなかったようだ。
「ジュリエッタ……貴女の気持ちはよくわかったわ。でも、私達が求めなくても彼女に残された道は……決して甘いものにはならないわ」
と私が言えば、
「今回の件では……陛下も大層お怒りだ。セイン殿下の未来の婚約者を害そうとしたと…な。まだ、うちはそんな事を了承していないんだが……」
と少しマルコ様は不貞腐れた様にそう言った。
「それは誰から?」
「さっき、宰相殿から連絡が」
と私の質問にマルコ様は簡潔に答えた。
「であれば……そういう事になるのでしょうな」
とゴールドマン伯爵は頷くとジュリエッタに向かって、
「例え君が認めなくても、彼女が君を産んでくれた事に変わりはない。今はそう考えられないかもしれないが、いつの日か、極刑を求めた自分を責めてしまう日がくるかもしれない。君がそんな気持ちを抱えて生きるのは、私にとって不本意なんだ。ここは法に任せよう」
と言い聞かせるように、そう言うとジュリエッタの頭を撫でた。
ジュリエッタは渋々といった様子で頷くと残りの朝食を口にした。
127
お気に入りに追加
8,062
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。