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番外編
番外編・その46
しおりを挟む私の顔を見た元母親は、
「ちょっと!貴女、母親にこんな事をして只で済むと思ってるの!?今すぐ縄を解いて頂戴!」
と吠えた。そう、言葉通り吠えた。うるさい。
「まだ、詳しい事は聞いていませんが…貴女のこの姿を見て、容易に察する事が出来ますわ。
…賊をこの屋敷に侵入させたのは貴女ね?隠し通路を塞ぐべきだったと今、私は猛烈に反省しているわ」
我がオーヴェル家には隠し通路がある。有事の際に、当主やその家族を秘密裏に逃がす為の。
もう何十年もそんな場所を使った事が無かったから、存在すら失念していた私のミスだ。
元母親なら、隠し通路の存在を知っていても、何ら不思議はない。
私のその言葉に、
「だから何?私を追い出してのうのうと暮らしているお前達が悪いのよ!!私は自分が貰う筈だった物を取りに来ただけよ!それの何が悪いの!」
と元母親は、怒りに歪んだ顔で私を見た。
『取りに来た』ではなく、『盗りに来た』だろう!と文句の一つでも言いたいが、そこにはあえて触れずに、
「今日を選んだのは、ジュリエッタの結婚式だと知っていたから?」
と私は訊ねた。
「そうよ!屋敷も人手が減って警備も手薄になるだろうし、丁度良かったでしょう?貴女達に危害を加えない様にとの、せめてもの親心よ!」
と言った元母親に、私はツカツカと近付いて、思いっ切りその頬を平手で打った。
『バシン』という大きな音が、部屋に響く。びっくりしたマルコ様は頬を打った私の手を掴んで、そっと手のひらを見た。
「赤くなってる…大丈夫か?クロエ」
あくまで、打った私の手の方を心配してくれる優しい夫につい頬が緩みそうになるが、そこはグッと我慢した。
「何をするの!!」
ヒステリックに叫ぶ元母親の頬は真っ赤だ。
私の手も痛かったもの。それは当然だろう。
「どこまで、私達に迷惑を掛ければ気が済むの?今日はジュリエッタの晴れの日なのよ?そんな日に泥を塗るような真似をして、何が親心?ふざけるのもいい加減にして!!
私も母親になったわ。子どもが愛しくて堪らないの。母親なら、子どもを悲しませるような事、絶対に出来ないし、したくない。
子どもに顔向け出来ないような振る舞いをして、恥ずかしいとは思わないの?貴女は…もう、母親ではないわ」
私はそこまで言うと、ポロリと涙を流してしまった。
こんな女の前で泣きたくないのだが、悔しくて、悲しくて、情けなくて涙が出る。
「な!?母親にその態度は何なの?!」
私の言葉が全く響いていない様子の彼女に、もう掛ける言葉すら見つからない。
涙を流す私をマルコ様は優しく抱き締める。私はマルコ様の胸に顔を埋めた。
そして、
「愛しい妻を泣かせたんだ。お前にはそれ相応の罰を受けて貰う。元義理の母親だと思い、警備団に付き出さなかった事を悔やんでいるよ。クロエを泣かせた事を心の底から後悔させてやる」
と静かに怒りを湛えた声で、マルコ様は彼女に向けてそう言った。
マルコ様が合図をしたのか、護衛が動き彼女を両脇から掴んで椅子から立たせた。
「離しなさい!!私はオーヴェル侯爵夫人ですよ!無礼者!!」
と彼女は僅かな抵抗を見せたが、護衛の力の前では子ども同然。護衛はさっさと部屋の外へと彼女を連れ出す。
私とマルコ様の横を通りすぎる時、私はそっとマルコ様の胸から顔を上げた。元母親の憎悪の籠った視線を私は受け止める。
あぁ…娘をあんな目で見る事が出来るのか…私は心の底から、彼女を軽蔑した。
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