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番外編
番外編・その42
しおりを挟む「おめでとう!」「おめでとう!」
親しい人だけが参加したアットホームな式だった。
ジュリエッタの王都での噂は下火になったとは言え、全て失くなった訳ではない。
人の噂も75日とは言うが、ジュリエッタがまた社交界に復帰すれば、噂も再燃するだろう。
しかもその噂には尾びれも背びれも付いている筈だ。
結婚式ぐらい、心の底からの笑顔で迎えさせてやりたかった。
バージンロードはジュリエッタが父の車椅子を押して歩いた。
父は目を真っ赤に潤ませて、涙を堪えていたっけ。
父がゴールドマン伯爵の手を握り、
「幸せにしてやってくれ」
と言うと、ゴールドマン伯爵は力強くその手を握り返して、
「2人で幸せになります」
と固く約束していた。
式が終わり、教会から出てきた2人に参列者がフラワーシャワーで祝福している。
これは私の案だ。もちろん前世での記憶に感謝だが。
私はその様子を少し離れた所でマルコ様と見ていた。
「あのフラワーシャワー…良い案だな」
と言うマルコ様に、
「ねぇ。商会で『ブライダルコーディネート』をやりましょうよ!」
と私は手を叩く。
「何だその、『ブライダルコーディネート』とは」
と訊ねるマルコ様に、
「結婚式をプロデュースするの。ドレスも、会場も、演出も、当人達の希望を入れて考えるのよ!その全てを商会が取り扱う物で賄えば、儲けになる事間違いなしだわ!」
と私が嬉しそうに言えば、
「なるほど。それは良い案だな。全てをまとめて提案すれば、結婚式の準備に割かれる時間も随分と短縮出来るだろう。
早速、商会で検討してみるよ」
とマルコ様は満足そうに頷いて、
「それはそうと…妹の結婚式の時まで仕事の話とは…。俺たち、根っからの商売人みたいだな」
とマルコ様は笑った。私もそれにつられて笑う。
そしてふと、マルコ様は真顔に戻ると、
「なぁ、クロエ。俺はずっとクロエを見てきた。だからこそ分かる事があるんだ」
と私に言った。
「?どうしたの?どういう意味?」
私はマルコ様が何を話したいのか分からずに、首を傾げた。
「クロエ。君は俺に隠している事があるんじゃないのか?
もちろん、無理に聞き出すつもりはない。君が言いたくない事なら、一生黙っててくれて良い。
でもな、もし…少しでもその秘密を抱えている事が重たく感じたり、負担に感じる事があるなら、俺にその荷物を分けて欲しい」
と言って私を見た。
…。私は何も言えずに無言になる。
隠している事なら…ある。
誰にも言えなかった事が。そして誰にも言うつもりがなかった事が。
それは…私がこの世界に転生している事。
でも、そんな話、誰が信じるの?
ロッテン子爵夫人の二の舞になるだけだ。
困惑している私に、
「難しく考えるな。俺はクロエを困らせたい訳じゃない。
ただ、君が何者であったとしても、俺の気持ちは変わらない。クロエを愛しているし、子ども達を愛してる。
自分の人生を捧げても良いと思えたのは君だけだ」
と言って笑顔で私の頬に触れた。
推しがここまで言ってくれるなんて…今、私、天国に居るの?
私は、
「貴方の気持ちを疑う訳ないじゃない。…あのね…私…実は、」
と私が話し始めた時、
「お話中、申し訳ありません!」
と結婚式の護衛に教会の外を見張っていた1人の騎士がマルコ様の元へと走って来た。
そして、マルコ様の耳元で小声で何かを伝える。その様子はとても焦っているようだ。
その報告を聞いたマルコ様は、
「何?!それは本当か?!」
と顔色を変えた。
私はその様子に不安になって、
「ねぇ、何があったの?」
と訊ねる。
結婚式を壊したくない為、必死で声を抑えたが、悪い予感に声が震えた。
「屋敷に賊が来た」
マルコ様の答えに、私は叫び出さないよう、思わず手で口を押さえた。
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