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番外編
番外編・その35
しおりを挟む私は皆に甘やかされて………太った。
ええ、ええ、間違いなく太りました!
「私、太りすぎじゃない?これじゃあ、難産になっちゃうわ」
と言う私に、
「え?大丈夫ですよ。お腹の中の赤ちゃんが十分育っている証拠ですよ」
とニコニコ答えるサマンサ。
そうか…前世では妊婦さんもあまり太りすぎると良くないっていう考え方だったけど…ここでは『大~きくな~れ~』の考えなのかもしれない。
でも実際、太りすぎは難産になる可能性が高い。
まずい…皆の好意に甘えすぎていた。
私は深く反省をした。…自分に厳しくいかねば。
まず、少しは体を動かさなければならない。
今日は運動(?)も兼ねて、庭をゆっくりと散歩する。
「今日も良いお天気ですわね」
ちなみに私が話しかけているのは、車椅子に乗った父だ。
妊娠発覚以後、ナラにはジュリエッタの挙式準備を任せてしまっている為、私はそのナラに代わって車椅子を押しながら歩いていた。
「そうだな。庭の花も綺麗だ。自分が侯爵として忙しく働いていた時には…この美しさに気づく事もなかったよ」
車椅子に乗る父の頭は私の目線よりずっと下だ。
白髪も増えた…何だか小さくなった気がする。
「私、最近運動不足なんです。すっかり太ってしまって。こうして時々私の散歩に付き合っていただけると嬉しいですわ」
と私が言えば、
「私で良ければ喜んでお伴するよ。マルコじゃなくて申し訳ないな」
と父は笑った。
私はこの家で、家族じゃないような気がしていた。ずっと疎外感を感じていた。
それは、私が転生した事も原因なのではないかと、自分はそう納得していた…つもりだった。
だが、こうして父と過ごす時間は、今、かけがえのないものだと感じている。
ここ数年で私の人生は大きく変わった。
その中で1番の変化は私に『家族』が出来た事だ。
血の繋がりだけではない。そう感じさせてくれる家族が。
「マルコも忙しいですからね。お父様で我慢して差し上げます」
と私がおどけて言えば、
「マルコ程ではないが、私だってなかなか良い男だと思うぞ」
と父も笑って答えた。
冗談を言う父なんて、昔は想像できなかったけど。
「まぁ。その自信はナラのお陰ですわね?」
「ははは。参ったな。…確かに、ナラのお陰だよ。
私は…仕事しか自信がなかった。
ただがむしゃらに働かなければ、誰からも評価されないと…そう思っていたんだ。
だが…仕事で有能であっても、他が無能だったな…。今では良くわかる」
と父は少し遠い目をした。
父は母を愛していたが、母が愛していたのは、父の肩書きだった。
それを守る為に必死だったのだろうと…今の私には分かる。
「お父様のその気持ち…私にも理解出来ます。
王太子妃になると決めた時、例えお飾りであっても、名ばかりの王太子妃になるまいと、力んでおりましたから。
せめて、王太子妃…そして王妃としての公務だけは完璧でなければ、自分の価値はないと…あの時はそう感じておりました」
「…お前には無理をさせたな」
という父に、
「でも後悔はしておりません。あの経験が今の私を作っていますから」
と私は車椅子に乗る父の肩に手を置いた。
父は私のその手に自分の手を重ねると、
「お前は私の自慢の娘だよ」
と言った。
私は思わず息がつまる。
そして気づけば涙が頬を濡らしていた。
私の中の小さな頃の私が泣いている。
あぁ…私、本当は父に褒められたかったんだ。
そんな私の気配に気づいたのか、父は、重ねた手で私の手の甲をゆっくりと撫でた。
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