婚約解消された私はお飾り王妃になりました。でも推しに癒されているので大丈夫です!

初瀬 叶

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番外編

番外編・その29

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「デボラ様?クロエです。ここの鍵を開けていただけませんか?」

「クロエ様?本当に、クロエ様だけ?」

「もちろんです。私1人で参りました。…開けていただけますか?」



今日はセドリックとデボラ様の結婚式当日。

さぁ、そろそろ式の開始時間になろうか…という時に、セドリックからのSOSがきた。

式の時間だというのに、デボラ様が皆を閉め出して控え室から出て来なくなったと言うのだ。

デボラ様付きの侍女が声を掛けても、セドリックが声を掛けても、デボラ様は頑なに控え室の扉を開けようとしないのだと。

セドリックに『クロエ!助けてくれ!!』と泣きつかれた私は、今、こうしてデボラ様が立て込もっている控え室の前にやって来ている。もちろん1人で。

声を掛けて少しの間待っていると、『ガチャ』と鍵を開ける音が聞こえ、少し開いた扉の隙間から、デボラ様が伺うように覗いた。

「本当にクロエ様だけね?」

「ええ。デボラ様、少しお話しましょう。女同士で」
と私が微笑めば、デボラ様は扉をまた少し広く開けた。

私は了承を得たのだと思い、部屋へ入る。…そして鍵を閉めた。

これで邪魔者は入ってこれないから安心して欲しいとデボラ様に示すつもりで。

デボラ様はそれは綺麗なウェディングドレスに身を包んでいた。華奢な彼女にとても良く似合う。ちなみに、私が支援したデザイナーによるものだ。

「デボラ様、お綺麗ですわ。女の私が見ても、見とれてしまいます」

「素敵なドレスよね。これって、クロエ様が支援されてるデザイナーの方の作品なんでしょう?最初にデザインを見せて貰って、一目で気に入ったの」

「えぇ。彼女はとても才能に溢れた女性なのです。私は少し手助けをしただけに過ぎませんが、こうして彼女が手掛けたドレスを見ると私まで、嬉しくなってしまいますわ」

そう私が微笑んでも、デボラ様は浮かない顔だ。

「もうお式が始まる頃よね。セドリック様も困ってらっしゃるでしょう?」

…確かに困っていた。陛下も参列する式だ。これ以上時間が下がるのは不味い。

しかし、私は、

「女性の支度には時間が掛かるものですもの」
と答える。

「支度は…見ての通り整ってるの…」
ますます声が小さくなるデボラ様に私は近づくと、

「デボラ様の心の準備がまだなのではないですか?」
と私より小さな彼女の俯いた顔を覗き込んだ。

「私…上手くやっていけるかしら?隣の国とはいえ、細かな風習も違うし…セドリック様みたいな立派な方に嫁ぐ自信がなくなってしまって」
と少し涙目で私に話すデボラ様。

所謂、『マリッジブルー』だ。

「風習については、戸惑う事もあるでしょう。でも、1度間違えたとしても次があります。少しずつ学べば良いのです。間違えたからといって、命を取られるような事はありません。いいじゃないですか、失敗しても。
人は失敗して成長していくのですから」

彼女も公爵令嬢。今まで厳しい教育を受けて来たのだ。1度失敗すれば2度と間違うことはないだろう。


「失敗して…笑われたら?セドリック様に恥を掻かせてしまうわ」

「恥ぐらい掻いたって良いではないですか。それもまた経験です」

「私はそんな割り切れないわ。
セドリック様に嫌われてしまうかもしれないもの」

なるほど。デボラ様はセドリックの事が大好きなようだ。

「セ…ジュネ公爵はそんな心の狭い男ではありませんよ。
デボラ様はジュネ公爵の事をどう思っていらっしゃいますか?」
と私が訊ねれば、デボラ様は顔を赤くして、

「と、とても素敵な方だと思うわ。宰相をしながらも、領地経営までしっかりとこなしていらっしゃって。本当に立派な方よ?
私、少しでもセドリック様のお役に立ちたいと思っていたのだけれど…私なんかには無理だわ」

「無理かどうか、やってみなくては分からないではないですか。やる前から諦めてしまうのは勿体ないと思いませんか?」

「クロエ様は…とても立派な方だから…」

「褒めていただくのは非常に嬉しく光栄な事ですが、私だって失敗しますよ。
失敗もするし、間違えもします。
でも、その経験があるから、今があるのです。
デボラ様、女性は好きな男性の為なら、結構頑張れるものですよ」
と私が笑えば、デボラ様はますます顔を赤くして、

「私もセドリック様の為に頑張りたい…そう思うわ」
と俯いていた顔を上げた。

「その意気です。何か困った事があれば、私に相談して下さいませ。デボラ様より少し長く生きている分、助言出来る事も多いかと思います」
と私が固く握られたデボラ様の手を包み込む様に握った。

「クロエ様、ありがとうございます」
とデボラ様にもようやく笑顔が見られた。

「さぁ、そろそろ参りましょうか?」
と私が訊ねると、デボラ様は大きく頷いた。


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