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番外編
番外編・その25
しおりを挟むノックの音が聞こえ、父が部屋へと入って来た。
もちろん、車椅子を押すのはナラだ。
「ゴールドマン伯爵、元気だったかね?」
「オーヴェル前侯爵様、お久しぶりで御座います。
私は相変わらず領地で元気にしてましたよ。
前侯爵様も顔色が良さそうで安心しました」
と2人は固い握手を交わす。
随分と仲が良い様だ。
2人がお互いの近況に軽く触れた所で、父は、
「ゴールドマン伯爵。ジュリエッタの件だがね…」
と今回の件について話し始めた。
私はてっきり『何故だ?』と訊ねるのだとばかり思っていたのだが、
「クロエの顔を見て…君が私を憐れんでジュリエッタを欲しいと言い出したのではない事が、分かったよ。
私はクロエの人を見る目を信用しているからね。…ジュリエッタをよろしく頼むよ」
と言って、父はゴールドマン伯爵に頭を下げた。
「そんな!やめてください!頭をあげて下さい!」
とゴールドマン伯爵は慌てた。
父の予想外の行動に驚いたようだ。
「ただ1つ…君に言っておきたい事があるんだが…良いかな?」
と頭を上げた父は伯爵の目を真っ直ぐに見た。
「何なりと」
と頷く伯爵に、
「色んな事を言う人が居るだろう。心ない人と言うのは、いつの時代も居るものだ。
だが…自分の選んだ道を…顔を上げて進んで行って欲しい。ただ、真っ直ぐに。
そうすれば、きっと周りは自ずと付いてくる。私はそれを…このクロエから学んだ」
とそう父は言って、最後に私の方を見た。
その言葉に驚いたのは私の方だ。
「お父様…」
と呟いた私に父は微笑むと、また伯爵の方を見て、
「私はずっと…クロエに無理をさせてきた。この娘は昔から聡い子でね。1を言えば10を理解していた。私はそんなクロエに甘えて来たんだ。
『お飾りの王妃』の話を持ってこられた時だって、クロエなら難なくこなすだろうと、簡単に考えていた。
そんな私はクロエの気持ちなど…今まで考えてきた事もなかったよ…酷い父親だろう?
しかし…クロエは自分の選んだ道をただひたすらに、誇りを持って突き進んだ。
色々な事を言う者は山ほど居たさ。それでもこの娘が俯く事ははなかった。
その結果が今のこのオーヴェル家だ。私が当主だった頃よりも…遥かに大きくなった。
娘ながらに私はこの娘を尊敬しているんだよ」
と言葉を続けた。
この世界で生きてきて、約23年…初めて聞く父の気持ちだった。
「オーヴェル侯爵の素晴らしさは、私も十分理解しているつもりです。
微力ながら、私もオーヴェル家を盛り立てる事に協力出来ればと、そう思っています」
と伯爵が答えれば、
「あぁ。正直に言って…私はそう長くないだろう。ジュリエッタを…そしてこのオーヴェル侯爵家を一緒に支えて欲しい」
と父は頷いた。
病気をして、父は変わった…そう思っていたが、心の内を素直に見せる事が出来るようになっただけなのかもしれない。
父は、
「クロエ。ジュリエッタにはお前から報告してやってくれ。彼は私のお墨付きだと…そう書いてくれよ?」
と私に笑って言った。
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