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番外編

番外編・その24

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一通りの自己紹介的な挨拶が済むと、

「ゴールドマン伯爵…絵を拝見させていただきました」
と私は微笑んだ。

「私の正体はとっくにバレていましたよね。お父上から?」
とゴールドマン伯爵も微笑む。

下手に隠すつもりはないようだ。

「いえ。ジュリエッタへ釣書を送って下さったでしょう?何故だろうって、とっても不思議だったんです」
と私が言えば、

「不思議ですか?今やオーヴェル侯爵家と縁付きたい者など、山ほど存在するでしょう?」
とゴールドマン伯爵は自分もその口だと言わんばかりだ。

「確かに。ジュリエッタへの釣書は全て目を通すのに、随分と時間が掛かりました。
候補になりそうな家も多くありましたけど…でも、私が気になったのは、伯爵だけです」

「何故?」

「そうですねぇ…はっきり言えば勘のような物でしたわ。最近、商会との取引も開始しましたが、それだけで?と思ったのがきっかけでした。
私、好奇心旺盛ですの。気になった事は調べなくては気がすみませんのよ?」

「なるほど。オーヴェル侯爵家に縁談を申し込むのです。調べられて当然。私の正体がバレる事も織り込み済みです。
…で、私は侯爵の好奇心を満たす事が出来ましたでしょうか?」

「最初は父が、貴方に頼んだのかとそう疑っていましたのよ?でも父は『違う』と」

「ええ。頼まれた訳ではありませんよ。私自身の考えです。
私はジュリエッタ嬢より10以上も歳上なうえ、前妻を亡くしています。正直、私の釣書など、見ても貰えないと思っていました。
お父上と私の関係性を知ったのなら、尚更です。侯爵から見れば、私はジュリエッタ嬢を利用しているようにしか見えないでしょう。
…しかし、私は侯爵に呼ばれて此処に居る。私の方が不思議に思っています」

「ふふふっ。ジュリエッタの悪評はここ王都で知らない貴族は居ないのではないかと思うほどです。
人の噂話など、いつの日か忘れ去られる…そう思いたいのですが、あの娘が社交に出れば、また皆は思い出すでしょう。
そんな妹と結婚をするのに、メリットを求めるのは当然。下心があるのが普通です。
そういう意味では今回釣書を送って来た家は全てジュリエッタを利用しようとしていると言っても過言ではありませんもの」

…ジュリエッタを利用してこのオーヴェル侯爵家と繋がりたい家なんて、わんさかあるのだ。
というか、それが殆んどだ。

私は続けて、

「私は逆に伯爵の意図が掴めなかった。だから、お話してみたかったんです」

「意図?と申しますのは?」

「他の者が皆ジュリエッタを利用しようとしている中、伯爵がジュリエッタと結婚したいと思った理由ですわ。
伯爵は…皆と違う理由なのだと…私の勘がそう訴えているのです」
と私が言うと、何故か伯爵は頬を少し赤くした。

「オーヴェル侯爵の勘違い…とは考えられませんか?」
と言う伯爵に、

「私、勘は鋭い方なのです。…父にジュリエッタの事を何と聞いていましたか?」

「…お父上はジュリエッタ嬢をとても心配しておられた。ああいう風に育ったのは、自分に全責任があると。
侯爵にもこれ以上迷惑をかけたくないと。
しかし…私は先ほど言ったように、ジュリエッタ嬢に相応しい男ではありません。
ジュリエッタ嬢は、もっと若くて…婚姻歴のない男を選ぶ事も可能です。だが…私は…」
と伯爵は言葉を切ると、少し俯いた。

「…伯爵はジュリエッタを好ましく思って下さったのですね」
と私が声を掛けると、伯爵は顔を上げて、

「お父上からジュリエッタ嬢の事を聞く度に…私の中で彼女の存在が大きくなっていった。その気持ちがなんなのか…同情なのか、憐れみなのか…始めはわかりませんでした。
お父上に恩もありますので、それでその様に感じるのかとも考えました…でも、そんな風に過ごしていたら、彼女の事を考える時間が増えていって…気づけば、頭の中がジュリエッタ嬢で一杯になってしまっていた事に気づいたんです」

なかなかストレートな告白に、私は自分の勘が間違っていなかった事を確信した。
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