婚約解消された私はお飾り王妃になりました。でも推しに癒されているので大丈夫です！

番外編

番外編・その22

「『レインマン』…雨の風景ばかり描く彼をいつの間にか皆はこう呼んだ。
彼の本当の名前は『ヴィンセント・ゴールドマン』もちろんお前が調べた通り、ゴールドマン伯爵の事だよ。
彼は妻を亡くしてから…雨の風景を描くようになった。
名前は伏せていたが、フローラ様が彼の才能に目をつけてね。最近、私のサロンに紹介された…と言っても、直に会ってはいない。専ら手紙だけのやり取りだ。
お金を支援しようと思ったのだが必要ないと言われた。
彼がゴールドマン伯爵だと分かれば当たり前の事だ。彼は鉱山の儲けがある。
その当時、私は彼の正体を知らなかったからな。失礼な事を言ったものだと後で謝ったよ。
なので、あくまで私は彼の作品を世に出す事だけに尽力したよ。今では、彼の作品は飛ぶように売れている。
彼は、亡くなった奥さんを大切に思っていてね。あの絵は…彼の悲しみだ。
彼の正体を知ってから、私と彼は私的な事も話をするようになった。
そんな時に…ジュリエッタの話をしたんだ。…私のせいで我が儘放題に育ってしまった、哀れな娘についてな」

…そう話す父の目は少し潤んでいた。
私は無言で父の話に耳を傾けた。

「私の体はもう元には戻らない。そう先も長くないだろう。
お前にはマルコと言う素晴らしい伴侶が居る。お前の事は心配ない。
しかし…ジュリエッタは私が死んだ後、どうなるのかと…やはり心配でな。
お前に任せれば、悪いようにはしないだろう。だが、ジュリエッタがあんな風になった責任は私にある。
それをお前に全て押し付けて良いのかと…申し訳なく思っていた。
それを素直に伯爵へと話たんだ。もちろん、伯爵にジュリエッタをもらってくれなんて、一言も言っていない。
だが…彼は私のその気持ちを汲んで自ら…」
と言う父に、

「お父様。それはもしかするとお父様の早とちりかもしれませんよ？
１度…ゴールドマン伯爵とは話をしてみる必要があるかもしれませんわ。
それと…彼の作品を見てみたいのですけど…ここにありますか？」
と私はお願いしてみた。

「あぁ。私も彼の作品が好きでね。向こうの部屋に飾ってあるよ」
と父はナラへ頷くと、ナラが車椅子を操作する。

私はそれに続いて、彼の作品が飾られているという部屋へと移動した。