上 下
51 / 84
番外編

番外編・その18 sideマルコ

しおりを挟む

〈マルコ視点〉

「何の話です?」
俺は言われた事の意味を理解できず、聞き返していた。

「クロエがオーヴェル侯爵になっても、初めのうちは棘の道だ。
反王妃派の貴族はここぞとばかりにオーヴェル侯爵家の排除に動き始めるだろう。
クロエは聡い。その状況でも負ける事なく、自分の責任を果たすだろうが、彼女を守る者が必要だ。そこで…お前だ。
どうせ、クロエが離宮へ引っ込むと決断してもお前はくっついて行くつもりだったんだろう?」
と陛下に質問され、

「それは…もちろんです。私はクロエ様個人の専属護衛騎士。王妃の騎士ではありませんので。
ですが…先程のお話だと…私がお守りするというのは…その…騎士としての努め以上の物を求められている…と、そう解釈すればよろしいのでしょうか?」
と確認するように質問で返した。

「まぁ、回りくどい言い方をすればそうだ。だがな、これは命令ではない。
人の心をどうこうする事など不可能だからな。だから無理に…とも言わないし、騎士としてでも良いんだ。クロエを守って欲しい」
と陛下ははっきりと俺の目を見て言った。

騎士として一生守っていく覚悟はあった。
自分の命に代えてでも守りたい人なんて、彼女しかいない。

しかし…

「私はしがない伯爵家の三男です。オーヴェル侯爵家にとって何の旨味もありません」
と俺が答えると、陛下は、

「クロエはそんな事を気にするような女性ではないと思うがな。
まぁ…別に結婚しろとは言わないさ。守ってくれたら良いんだ」
と少し遠くを見るように言った。

正直、あの時までクロエと自分が共に歩いていく未来など考えた事もなかった。

陛下の隣で美しく微笑む彼女を、眩しい存在だと思いながら、一生守っていく。それが自分の役割だと思っていた。

…もし彼女が俺との未来を選んでくれるとしたら?

だが、自分の気持ちを彼女に伝えて、嫌がられたりしたら?
嫌われる可能性だってあるし、主に恋心を抱いていたなど、気持ち悪いと思われるかもしれない。
答えを聞くのが怖い。

しかし…万が一…俺の気持ちを受け入れてくれたとしたら?

俺が今まで考えても考えてこなかったふりをして、自分の心を誤魔化してきた夢が…現実になるとしたら?


俺がそう考えていると、宰相は、

「言っとくが、これはあくまでもオーヴェル侯爵が妃陛下に爵位を譲ると判断した場合だけだ。
そうじゃなければ、さっきお前が言ったように、しがない伯爵家の三男などに彼女を任せる事など出来ん」
と俺にきっぱりと言うと、続けて、

「色々と悩んでいるようだが、オーヴェル侯爵がそれを拒否した場合は…」
と俺を見て言う。

「場合は…」
俺はオウム返しのようにその言葉を口にした。すると宰相は、

「その場合は、彼女は私が貰う。私はお前のように彼女から嫌われる事を恐れて、自分の気持ちを伝えないような事などしない。
欲しいものを手にいれるチャンスがあるのに、それをみすみす他の者に譲りはしないさ」
と俺を挑発するかのように言った。

いや、挑発じゃない。あの時の彼は本気だった。

いつも飄々としていて、今いち掴み所のない相手だが、クロエを想う気持ちは本物だったに違いない。

デイビット殿下の希望を叶える為に、宰相になったのは、その言動を見ていて理解出来た。
その為のパートナーとしてクロエを王妃にした事も。
クロエは彼の目的もちゃんと理解した上で、陛下と宰相と共にデイビット殿下の目指す国を造っていった。

彼は、その為に彼女を手放した事を後悔はしていないかもしれないが、消化しきれない想いを常に抱えていたのだろう。

婚約者を中々決めなかったのだって、それが原因の1つだった事は間違いない。

彼は俺とも陛下とも違う角度から、彼女を守っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はじまりのうた

岡智 みみか
青春
「大丈夫よ。私たちは永遠に、繰り返し再生するクローンなんだもの」 全てがシステム化され、AIによって管理されている社会。スクールと呼ばれる施設に通い、『成人』認定されるため、ヘラルドは仲間たちと共に、高い自律能力と倫理観、協調性を学ぶことを要求されていた。そこへ、地球への隕石衝突からの人類滅亡を逃れるため、252年前に作りだされた生命維持装置の残骸が流れ着く。入っていたのは、ルーシーと名付けられた少女だった。 人類が知能の高いスタンダード、人体再生能力の高いリジェネレイティブ、身体能力の優れたアスリート種の3種に進化した新しい世界の物語

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

【完結】『それ』って愛なのかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「質問なのですが、お二人の言う『それ』って愛なのかしら?」  わたくしは、目の前で肩を寄せ合って寄り添う二人へと質問をする。 「な、なにを……そ、そんなことあなたに言われる筋合いは無い!」 「きっと彼女は、あなたに愛されなかった理由を聞きたいんですよ。最後ですから、答えてあげましょうよ」 「そ、そうなのか?」 「もちろんです! わたし達は愛し合っているから、こうなったんです!」  と、わたくしの目の前で宣うお花畑バカップル。  わたくしと彼との『婚約の約束』は、一応は政略でした。  わたくしより一つ年下の彼とは政略ではあれども……互いに恋情は持てなくても、穏やかな家庭を築いて行ければいい。そんな風に思っていたことも……あったがなっ!? 「申し訳ないが、あなたとの婚約を破棄したい」 「頼むっ、俺は彼女のことを愛してしまったんだ!」 「これが政略だというのは判っている! けど、俺は彼女という存在を知って、彼女に愛され、あなたとの愛情の無い結婚生活を送ることなんてもう考えられないんだ!」 「それに、彼女のお腹には俺の子がいる。だから、婚約を破棄してほしいんだ。頼む!」 「ご、ごめんなさい! わたしが彼を愛してしまったから!」  なんて茶番を繰り広げる憐れなバカップルに、わたくしは少しばかり現実を見せてあげることにした。 ※バカップル共に、冷や水どころかブリザードな現実を突き付けて、正論でぶん殴るスタイル。 ※一部、若年女性の妊娠出産についてのセンシティブな内容が含まれます。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

あなたの心に触れたくて(R18Ver.)

トウリン
恋愛
貴族の令嬢クリスティーナは、ある日突然、父から富豪のマクシミリアン・ストレイフの元へ嫁ぐことを命じられる。 それは、名前も知らない、顔を見たことすらない相手で、その婚姻が父の事業の為であること、その為だけのものであることが明らかだった。 愛のない結婚ではあるけれど、妻として尽くし、想えば、いつかは何かの絆は築けるかもしれない――そんな望みを抱いて彼の元へ嫁ぐクリスティーナ。 彼女を迎えた夫のマクシミリアンは、いつも眉間にしわを寄せて笑顔一つ浮かべたことがない。けれど、そんな彼がふとした時に垣間見せる優しさに、次第にクリスティーナは心惹かれていく。 ※年齢制限なしVer.とは少しストーリーが違います。 ※他サイトにも投稿しています。 ※本編は完結済みです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。