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番外編
番外編・その17 sideマルコ
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〈マルコ視点〉
クロエ・オーヴェル。
我が妻にして、この国初の女侯爵だ。
この国で女性でも爵位が継げるようになってから、1年以上が経過したが、彼女以外では、まだ爵位を継いだ女性はいない。
理由は簡単。今までのご令嬢は爵位を継いで自分自身で領地を、領民を支える為には学んで来なかったからだ。
貴族のご令嬢はどこかの貴族の息子と結婚し、子を成し、家を守る。そう教わってきたからだ。
今、その為の勉強を始めているご令嬢はいるだろうが、まだ幼い。
この国でクロエ以外の爵位持ちが誕生するのはまだ先の話になりそうだ。
あの日…陛下に呼ばれた俺は、自分の耳を疑った。
「クロエと、離縁しようと思う」
陛下の表情はどこか冷めているようで、あの時は腹が立ったものだ。
今思えば…耐えていたのだろうな…悲しみに。
「どうして…っ?!それに王族の離縁は認められていないのでは…」
と言う俺に、ジュネ宰相は、
「今なら王族の離縁に賛成する者も多いだろう。反王妃派は特にな。妃陛下を排除したい思惑で一杯だ。今が好機だ」
と俺に説明した。
俺は思わず、
「好機?好機とは何ですか?クロエ様を邪魔者扱いに?」
と『好機』と言う言葉に反応してしまった。
「落ち着け。このままではクロエは…自ら離宮で生涯を終えるつもりだと言い出しかねない。
私はそれだけは、何としてでも阻止しなければならないんだ。
だが、お前も知ってるだろう?クロエはああ見えて…頑固だ。いや…見た目通りか?」
と言う陛下はクロエの事を思い出していたのだろう…ほんの少し笑顔になった。
そして、また無表情に戻ると、
「クロエを守る為だ。それに、もうクロエは十分努めを果たしてくれた。
自由に…してあげようと思う」
そう言った陛下の目は少し潤んで見えた。
その後を継ぐように、宰相は、
「我々は、少し前から妃陛下に選択の自由を与えるつもりで準備をしていた。
いつの日か、彼女が自分の道を自分で選びとる事が出来るように…と。
それが最近の騒動で、時期を選んでる暇がなくなった」
と補足した。
「…クロエ様のお気持ちは?」
クロエはあの時、陛下に少なからず好意を抱いていた。
自覚はなかっただろうが、彼女は陛下を心から信頼しているようだった。
ここで離縁してしまえば…彼女の心はどうなるのか…俺はそれが心配だった。
彼女を愛している。
だから、彼女が傷つくのは見たくなかった。例え俺の手で幸せに出来なくても。
「その件だがな…お前、クロエが好きなんだろう?」
と陛下は俺に訊ねた。
陛下の妻、王妃、そして自分の主であるクロエを好きだと言う事が、口に出してはいけない事柄であることぐらい、自分でも承知していた。
…んな事訊かれたからと言って『はい、そうです』なんて言える訳がない。
俺が黙っていると、
「セドリックに聞いたよ。お前はずっと昔からクロエが好きだった。だから、クロエの護衛を引き受けたのだとな」
と言う陛下の言葉に、俺は思わず宰相を睨んだ。
すると、宰相は肩を竦めて、
「睨むなよ。私が言わなくても、陛下はお気づきだったさ。
お前はいつも番犬の様に妃陛下に近づく者に毛を逆立てて怒ってただろうが。…オーラが凄かったんだよ、オーラが」
と俺に言った。………バレていたようだ。
その言葉に、
「身の程知らずの気持ちを主であるクロエ様に抱いてしまい、申し訳ございません。…処分は如何様にもお受けいたします」
と俺が頭を下げると、
「今はそんな事でお前を処分するつもりはない。
私はな、離縁が成立したら、オーヴェル侯爵にクロエを次期侯爵として家督を継がせるように進言するつもりだ。
オーヴェル侯爵がこれを受ければ、クロエは女侯爵としてオーヴェル家を継ぐ」
と言う陛下に、
「妹のジュリエッタ…ありゃダメだ。彼女にオーヴェル家を任せれば、直ぐに潰れるだろう」
と俺よりもジュリエッタ嬢の事を良く知っていそうな宰相はそう断言した。
まぁ…それは例えこの俺でも想像に難くない。
しかし…何故この話を俺に?
そして陛下は真剣な眼差しになると、
「マルコ・リッチ。お前、マルコ・オーヴェルになる気はあるか?」
そう俺に訊ねたのだった。
クロエ・オーヴェル。
我が妻にして、この国初の女侯爵だ。
この国で女性でも爵位が継げるようになってから、1年以上が経過したが、彼女以外では、まだ爵位を継いだ女性はいない。
理由は簡単。今までのご令嬢は爵位を継いで自分自身で領地を、領民を支える為には学んで来なかったからだ。
貴族のご令嬢はどこかの貴族の息子と結婚し、子を成し、家を守る。そう教わってきたからだ。
今、その為の勉強を始めているご令嬢はいるだろうが、まだ幼い。
この国でクロエ以外の爵位持ちが誕生するのはまだ先の話になりそうだ。
あの日…陛下に呼ばれた俺は、自分の耳を疑った。
「クロエと、離縁しようと思う」
陛下の表情はどこか冷めているようで、あの時は腹が立ったものだ。
今思えば…耐えていたのだろうな…悲しみに。
「どうして…っ?!それに王族の離縁は認められていないのでは…」
と言う俺に、ジュネ宰相は、
「今なら王族の離縁に賛成する者も多いだろう。反王妃派は特にな。妃陛下を排除したい思惑で一杯だ。今が好機だ」
と俺に説明した。
俺は思わず、
「好機?好機とは何ですか?クロエ様を邪魔者扱いに?」
と『好機』と言う言葉に反応してしまった。
「落ち着け。このままではクロエは…自ら離宮で生涯を終えるつもりだと言い出しかねない。
私はそれだけは、何としてでも阻止しなければならないんだ。
だが、お前も知ってるだろう?クロエはああ見えて…頑固だ。いや…見た目通りか?」
と言う陛下はクロエの事を思い出していたのだろう…ほんの少し笑顔になった。
そして、また無表情に戻ると、
「クロエを守る為だ。それに、もうクロエは十分努めを果たしてくれた。
自由に…してあげようと思う」
そう言った陛下の目は少し潤んで見えた。
その後を継ぐように、宰相は、
「我々は、少し前から妃陛下に選択の自由を与えるつもりで準備をしていた。
いつの日か、彼女が自分の道を自分で選びとる事が出来るように…と。
それが最近の騒動で、時期を選んでる暇がなくなった」
と補足した。
「…クロエ様のお気持ちは?」
クロエはあの時、陛下に少なからず好意を抱いていた。
自覚はなかっただろうが、彼女は陛下を心から信頼しているようだった。
ここで離縁してしまえば…彼女の心はどうなるのか…俺はそれが心配だった。
彼女を愛している。
だから、彼女が傷つくのは見たくなかった。例え俺の手で幸せに出来なくても。
「その件だがな…お前、クロエが好きなんだろう?」
と陛下は俺に訊ねた。
陛下の妻、王妃、そして自分の主であるクロエを好きだと言う事が、口に出してはいけない事柄であることぐらい、自分でも承知していた。
…んな事訊かれたからと言って『はい、そうです』なんて言える訳がない。
俺が黙っていると、
「セドリックに聞いたよ。お前はずっと昔からクロエが好きだった。だから、クロエの護衛を引き受けたのだとな」
と言う陛下の言葉に、俺は思わず宰相を睨んだ。
すると、宰相は肩を竦めて、
「睨むなよ。私が言わなくても、陛下はお気づきだったさ。
お前はいつも番犬の様に妃陛下に近づく者に毛を逆立てて怒ってただろうが。…オーラが凄かったんだよ、オーラが」
と俺に言った。………バレていたようだ。
その言葉に、
「身の程知らずの気持ちを主であるクロエ様に抱いてしまい、申し訳ございません。…処分は如何様にもお受けいたします」
と俺が頭を下げると、
「今はそんな事でお前を処分するつもりはない。
私はな、離縁が成立したら、オーヴェル侯爵にクロエを次期侯爵として家督を継がせるように進言するつもりだ。
オーヴェル侯爵がこれを受ければ、クロエは女侯爵としてオーヴェル家を継ぐ」
と言う陛下に、
「妹のジュリエッタ…ありゃダメだ。彼女にオーヴェル家を任せれば、直ぐに潰れるだろう」
と俺よりもジュリエッタ嬢の事を良く知っていそうな宰相はそう断言した。
まぁ…それは例えこの俺でも想像に難くない。
しかし…何故この話を俺に?
そして陛下は真剣な眼差しになると、
「マルコ・リッチ。お前、マルコ・オーヴェルになる気はあるか?」
そう俺に訊ねたのだった。
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