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番外編

番外編・その14

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「ジュリエッタ。貴女に訊きたい事があって来たの」
と私が声を掛けるとジュリエッタは手紙から顔を上げて私を見た。

「どうぞ」
と短く答えたジュリエッタに、

「貴女が此処へ来て、もう1年が過ぎたわ。院長からの報告書にも書いてあったし、今の貴女を見て…学園に編入して学ぶと言う手も考えられると思うのだけど、貴女はどうしたい?」

今のジュリエッタなら、学園に通うだけのマナーは身につけているだろう。
…これが私を騙す為の演技だとしたら、私は今すぐにでもジュリエッタを女優として活躍させる為に東奔西走するだろう。


私の質問に、ジュリエッタが暫し考え込んだ。

「私、もう少し此処に居てもよろしいでしょうか?」
と少しして口を開いたジュリエッタはそう言った。

私としては『学園に通いたい』と言い出すのではないかと思っていただけに拍子抜けしてしまう。

「修道院に?それは構わないけど…」
と私が言えば、

「私のような者を預けるのに、多大な寄付金が必要なのは承知していますが、お姉様が侯爵となった今、私にはもう婿は必要ありません。なんなら此処で修道女となる事も考えました」
とジュリエッタは言った。

修道女になるなどジュリエッタの口から出るとは思えなかった私は更に驚いてしまった。

「修道女?どうして?」
と私が少し驚いた口調で問えば、

「お姉様が驚かれるのも無理はありません。しかし、私はアズナブル侯爵のご子息の一件で王都では悪評がたっております。
私がノコノコと侯爵家に戻れば、お姉様にもご迷惑がかかる事は容易に想像出来ます。
しかし、修道女になってしまえば、実家へ帰る事はなかなか叶いません。お父様の面倒を任せきりにするというのも、私としては選択する事が出来ないのです。
それに…こんな私ですが、もしオーヴェル侯爵家にとってお役に立つのならば、どんな場所に嫁いでも構わない…そう考えております。
好色家の年寄りでも、後妻でも…もし私の身でお姉様の役に立つのなら、なんなりとお申し付け下さい」
と私に頭を下げるジュリエッタを見て私は言葉を失った。

そして私は3度目になる突っ込みを心の中で繰り広げる
『えっと…貴女はどなた様?』

私が黙っていると、

「どんな所へも嫁ぐつもりでおりますが、私はもう少し此方で基本的な事を学びたいのです。ですから…せめて後1年。此処で過ごさせていただきたい。その後はお姉様の言う通りにいたします」
とジュリエッタは再度私に頭を下げた。

「此処で過ごすつもりなのであればそれはそれで構わないし、お父様の事も心配しなくて大丈夫よ。
それに…いずれ貴女にも結婚をと考えているけれど、貴女を犠牲にするような縁組みは考えていないわ。
もちろん、うちの利益になる方が望ましいけれど、オーヴェル家は誰かに頼らなければならない程、困ってないの。
実際、貴女への釣書は山程来てる。そんなに自分を卑下しないで」
と私が優しく言えば、

「それもこれも全てお姉様の努力の結果です。私自身の功績ではありませんから」
と寂しそうにジュリエッタは微笑んだ。

ここでどんな風に過ごせばこんな別人になるんだ?!と私は驚きを隠せないまま、ジュリエッタとの面会を終えた。



「あの…ジュリエッタに何があったのでしょうか?」

私はジュリエッタとの面会を終え、再度院長室へと話を聞きに来ていた。

自分の目で見たものが信じられない。

院長に報告書以上の何かがジュリエッタの身に起きたのではないかと、確認したい気持ちで一杯だ。

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