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番外編
番外編・その9
しおりを挟む「それは、私から話をしよう」
と現れたのは、車椅子に乗った父だ。
父の車椅子を押しているのはナラ。
その姿を見た元母は、
「まぁ、まぁ、まぁ!あなた!随分とお元気になられたのですね!」
と椅子から立ち上がり、父の元へと駆け寄ろうとするも、父はそれを、
「近づかないでくれ。…クロエ、私も共に話をしても良いか?」
と制し、そして私に訊ねた。
「もちろんですわ」
と私が答えると、ナラはいつものように車椅子をテーブルへ近付けると、父のお茶を淹れる為に離れようとした。
「ナラ、此処に居てくれ」
と言う父に、ナラは困ったような顔をするも、小さく頷いて父の隣の椅子に腰かけた。
元母は立ち上がり掛けた中途半端な形のまま、父とナラのやり取りを見つめていたが、やがて自分も椅子に腰を下ろす。
その目は未だに2人を凝視したままだ。
そんな元母の様子に構う事なく父は、
「君とは離縁が成立している。…もう赤の他人だ」
と話を始めた。
「離縁?!何の話です?!私はそんな事、承知しておりません!」
と驚き声を上げた元母に、父は淡々と、
「行方不明者との離縁は片方からの申し出だけで可能だ。
色々と条件はあるが、その全てをクリアしたのだから、離縁は成立している。
…君の許可はそこには関係ない」
と元母へ言い聞かせるように話した。
「そんな…!そんな馬鹿な事…。私は認めません!」
と取り乱した元母を見ても、父は顔色を変える事なく、
「もう全て終わった事だ。それに、此処に戻っても君の居場所はもうない。私は侯爵でも何でもない、ただの病人だ。
君は君の意思でこの家を出て行った。その気持ちを尊重すると言っているんだ」
父はやはり元母に甘い。優しく諭すように語りかけていた。しかし、
「少しの間留守にしただけじゃない!私は離縁するつもりはなかったのよ!」
と元母はまだ離縁を認められないでいた。
父は少し悲しそうな顔をして、
「…金が底を突いたか?随分とたくさんの宝石を持ち出していたし、現金も…持って行っただろう?どれだけ贅を尽くした生活をすれば、たった1年足らずで使い尽くすんだ?
あれは1度君に贈った物だ。もちろん君の好きに使えば良い。現金も…手切れ金だと思うようにしていたんだ。
しかし、もう君にお金を渡す義理はないと…そう私は考えている」
と口にした。
元母は、
「そ、それは…しかし、私の意思を無視するなど…そんなのあなたらしくないわ!どうせ、この娘があなたを唆したのでしょう?」
と私を指差した。
急に私に矛先が向いたんだけど?…面倒くさい…。
すると父は、
「クロエは君を探そうとしたよ。それを止めたのは私だ。だって君はこの家を出て行った。それが答えだろう?
私は君の意思を十分に尊重したつもりだが?」
と至極、最もな事を言った。
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