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連載
第237話
しおりを挟む「もちろん、エモニエ医師には診察していただいているのよね?」
「も、もちろんで御座います。こちら、そのカルテの写しになります」
侍女長は持っていた書類を、私の前に置いた。私はそれを手に取ると、
「消化不良による、胃痛と吐き気…これも、これも…そう書いてあるわね。その為、食欲不振も続いている…と」
「はい」
「でも…貴女、これを信用していないんじゃない?」
私がそう言うと侍女長は、言い難くそうに、
「はい……。エモニエ医師を信用していないわけではありませんが、前に仮病を使っていた時とは明らかに様子が違い、本当にお辛そうで…」
「ここに書かれてある事をそのまま信じるのなら、ロッテン子爵令嬢は胃が悪い事になるわ…薬を処方されてるの?」
「はい…それを飲んでも吐いてしまわれるものですから、お薬が効いているのかどうかも怪しいところで」
「そう…折角のお薬も吐いてしまっては、役には立っていなさそうね」
とはいえ、この事を侍女長はあえて私に報告する事を選んだのだ。
ロッテン様の事なら、まずは陛下にご報告するべき。
…それが出来ない理由はただ1つ。侍女長も私と同じ疑いを心に抱いているせいだろう。
それならば、陛下に言えない理由もわかる。
…しかし、これは私が介入しても良い事なのか…悩むところだ。
陛下を無視して事を運ぶ訳にはいかないだろう………。
相手は…まぁ、そこは後で考えよう。
「この件を私に報告しようと思った理由は?普通なら陛下へ報告するべき案件。
何故かしら?」
「……………………」
侍女長は黙りこんでしまった。
それはそうか…陛下の寵愛を受けた人物が側妃になる前に妊娠したとあっては一大事だ。
相手についても、侍女長は私と同じ人物を想像しているのだろう。
「大丈夫よ。私も貴女と同じ考えだから。
口に出す事は憚られるでしょうし。
…この件は、ロッテン子爵令嬢付きの侍女から報告があったのね?」
「はい。数名がロッテン子爵令嬢様に交代で付いていますが、そのうちの2人から…様子がおかしいので調べて欲しいと」
「そう…護衛は?」
「護衛は基本部屋に入る事はありません。
扉の前と廊下。後宮の入り口に配置しておりますので、この事には気づいておりません。
後は、市井に出掛ける時に付いて行きますが、この数週間はロッテン子爵令嬢様も出掛ける元気もありませんでしたので」
「本人は何と言ってるの?」
「胃が痛いから調子が悪いのだと。エモニエ医師の診断の通りを口にしております」
……相手はあの人しかいないよなぁ…じゃなきゃ、やぶ医者として訴えてやるわ。
まさか…大穴で陛下って事は……ないわよねぇ…
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