ある男の後悔

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
9 / 10

しおりを挟む
私が目を醒ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

ふと横を見ると、ルーカスが立っている。
「此処は…?」
「王宮の客間の一室だ。お前は、夜会中に倒れたんだ。気分はどうだ?」

「……最悪な気分だよ」

私は全てを思い出した。階段から落ちたのは、リリーじゃない

しかもリリーを裏切った。

酒のせいかもしれないし、もしかしたら薬を仕込まれていたのかもしれない。
しかし、私がリリーを裏切ったのは間違いない。

「どこか痛んだりするか?」
とルーカスは心配そうだ。

「いや…体はどこも痛くない。痛いのは心だけだ…」
そう私が言うと、部屋の隅に控えていたレイノルズが側へやって来た。

私が倒れたとの連絡を受けて駆けつけたのだろう。

レイノルズは、
「ジェームス様…」
と何か言いたげだ。

「私は…全て思い出したよ。リリーは…死んでなかったんだな」
そう私が言うとレイノルズは俯き、

「はい。今まで真実を告げず、申し訳ありませんでした。
処分は如何様にも受けるつもりでおります」
と答えた。

レイノルズは悪くない。悪いのは全て私だ。

「いや…全て自分の責任だ』
私はベッドから起き上がる。

「すまなかったな。ルーカス。婚約おめでとう」
私がそう告げると、

「さっき、この者からお前の記憶が一部、あやふやになっていた事を聞いた。
知らなかったよ。すまなかった。
事故で体調が悪く、この1年、邸に籠っているのだと思っていた。
何度か見舞いに行こうとしてたんだが、面会の許可がおりなくてな。
早く気づいていれば良かったよ」

「いいんだ。全て終わった事だ」

「……彼女と話をするかい?」
彼女…リリーの事か。

「リリーは…いや、リリーローズ嬢は…ベルマン伯爵家に?」

「あぁ、お前との婚約が白紙になった後、ベルマンの養女になった。
私は…ずっと彼女が好きだった」

「!?どういう事だ?」

「彼女がお前の婚約者だった時、何度かお前にエスコートされて夜会に来ていただろ?
その時に少し話をする程度だったが…一目惚れだったんだ。
だが、友人の婚約者だ。もちろん、横取りするつもりなんてなかったよ。
でも、婚約が白紙になったと聞いて…居てもたってもいられなくなった」
私は初めて聞く話に目眩を覚えた。
知らなかったとはいえ、複雑な思いだ。

「そうか。今の私には、もう関係のない話だ。
それに…リリーローズ嬢も私とは話たくないだろう」
…リリーに謝りたいが…どんな顔をして会えば良いのかわからない。

「そうか…わかった。まだゆっくり休んでから帰ると良い」
と言って、ルーカスは部屋を出ていった。

私は、

「この事、レイノルズは知っていたんだな」

「はい。申し訳ありません」

「いや…いいんだ。もう、全て…いいんだ。」

私は真実を知った。いや真実を思い出した。

私はリリーに最後の手紙を書いた。
読んでもらえるのかはわからない。
でも謝りたかった。

私は、父上に公爵を従兄弟のネルソンに譲るよう打診された。
私は自分でも、公爵を降りたいと思っていた為、それを了承した。

しかし、公爵家でやっている事業の1つを任される事になった。
これは父の温情だろう。

平民になったが、私にはこの仕事が性に合っていた。

少し経ってタイラー侯爵家が没落したと聞いた。
マリーは娼館に送られ、侯爵夫妻は鉱山での強制労働を強いられていると聞いても、私には何の感情も湧かなかった。


リリーは生きていた。その事は素直に嬉しかった。

しかし、私はやっぱりリリーを失ったのだ。亡くしてないだけで、無くしてしまった。

私の人生にリリーはもう居ない。

あの日の事は後悔しかない。


今日も私の心はリリーだけの物だ。

私の愛しいリリーを今日も想う。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?

青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」  婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。 私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。  けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・ ※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。 ※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。

大事なのは

gacchi
恋愛
幼いころから婚約していた侯爵令息リヒド様は学園に入学してから変わってしまった。いつもそばにいるのは平民のユミール。婚約者である辺境伯令嬢の私との約束はないがしろにされていた。卒業したらさすがに離れるだろうと思っていたのに、リヒド様が向かう砦にユミールも一緒に行くと聞かされ、我慢の限界が来てしまった。リヒド様、あなたが大事なのは誰ですか?

された事をそのままやり返したら婚約者が壊れた(笑)

京佳
恋愛
浮気する婚約者に堪忍袋の緒がブチ切れた私は彼のした事を真似てやり返してやった。ふん!スッキリしたわ!少しは私の気持ちが分かったかしら?…え?何で泣いてるの?やっぱり男の方が精神も何もかも弱いのね。 同じ事をやり返し。ざまぁ。ゆるゆる設定。

振られたあとに優しくされても困ります

菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。

貴方に愛されなかった惨めな私は消えます

京佳
恋愛
婚約者の心変わりに長年苦しんできた私。私と婚約破棄もせず恋人とも別れない最低な貴方。けれどそろそろ私に終わりの時期が近付いてきた。最低な貴方だけど好きだった。さようなら恋人とお元気で。 ゴミ屑婚約者 乞食女 自暴自棄ヒロイン ゆるゆる設定 ※誤字訂正しましたm(_ _)m

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう

凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。 私は、恋に夢中で何も見えていなかった。 だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か なかったの。 ※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。 2022/9/5 隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。 お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m

処理中です...