8 / 10
8
しおりを挟む
〈レイノルズ視点〉
階段から落ちたジェームス様は、それから2日、目を覚まさなかった。
頭を打っていた事から、最悪な状況も予想されたが、命には別状はないとの事で、とりあえずはホッとした。
事故の翌日、直ぐに状況を把握しようと、昨日、働いていた使用人を集め話を聞いた。
タイラー侯爵夫人と、リリーローズ様が邸を訪れた後、リリーローズ様が泣きながら去って行き、少し経ってから、ジェームス様が階段から落ちて来たと。
どうも、お酒に酔っていたようだったと言う話だが、その後、タイラー侯爵夫人が邸を出て行ったのを見た者が居ない。あの騒ぎの中、どうやって出て行ったのか。
私は、通用口で会った護衛の事を思い出した。あの時感じた違和感…。
それを考えていると、タイラー侯爵夫妻が邸を訪れた。
こんな時にと思っていたが、話を聞いて、昨晩の事の顛末が見えてきた。
リリーローズ様との婚約を解消し、あのマリーとかいう女を婚約者にしろと2人が喚く。
ジェームス様が愛しているのはマリーであって、2人は体の関係もあると。
そしてマリーには妊娠の可能性もあると言い出した。
私は2人を追い返した。
ジェームス様は嵌められたのだ。
あの阿婆擦れに。
あの女がジェームス様に懸想しているのは気づいていたが…厄介な事になった。
私は昨晩、通用口に居た護衛を呼び出し、半ば脅しの様に、真実を聞いた。
結局クビにしたが、命をとられるよりはマシだった筈だ。
私はローラン様に指示を仰ぎ、実行した。
本当なら、リリーローズ様との婚約は継続したかったが、あの馬鹿なタイラー侯爵が既にリリーローズ様を勘当しており、タイラー侯爵家から籍を外されていた。
調べると前侯爵夫人の実家、ベルマン伯爵の養女となっていた。
勝手な事を。もうこの世にリリーローズ・タイラーは居ない。
そこにいるのはリリーローズ・ベルマンだ。
婚約は必然的に解消となってしまった。
だからといって、あの阿婆擦れを婚約者などにする訳がない。
こちらの切り札として、あの阿婆擦れが酒に薬を盛って、ジェームス様を襲った事を公にしてやる。
しかし、これはカーライル家にとっても醜聞だ。あくまでもこれは切り札だ。
事故から3日目。ジェームス様が目を覚ました。
しかし、あの日の記憶が無かった。いや、無かったよりも質が悪い。
「リリーは?リリーは無事か?リリーが階段から落ちたんだ」とジェームス様は目覚めて直ぐに言い出した。
私も側にいたメイドも息を飲む。
ジェームス様は階段から落ちたのは、自分ではなくリリーローズ様だと思っている。…いや、そう思いたかったのかもしれない。
「きっと、あんな所から落ちてしまったんだ。リリーはもう助からなかったのではないだろうか…あぁ、可哀想なリリー」
と言って、泣き出してしまった。
あろうことか、ジェームス様はリリーローズ様が死んだと思い込んだ。
そう思う事で自分を保っていると言った方が良いかもしれない。
自分の裏切りで、リリーローズ様を失ったとは思いたくなかったのかもしれない。
私も今のジェームス様に真実を告げる事が出来なかった。それは医者も同じ意見だった。
その後、何度もタイラー侯爵と、あの阿婆擦れが邸を訪れたが、全て断った。
1度だけタイラー侯爵夫妻が私の留守中に入り込んだようだが、ジェームス様はあの女と婚約しろと言う2人に怒り、直ぐに追い出したようだった。
ちなみに、ジェームス様はタイラー侯爵家に資金援助を、今も行っていると思っているが、リリーローズ様との婚約解消後のあれは全て貸付だ。
このままいけばタイラー侯爵家は没落を免れない。
きちんとした領地経営も出来ない、無能な当主と、浪費癖が抜けない女どものせいだ。自業自得としか言いようがない。
あの阿婆擦れも、妊娠はしていなかったようだ。
しかし、あの女が男にだらしないとの噂を流す事には成功した。
もう貴族の子息とは結婚出来まい。
あの事故から1年が経とうとしていた。
ジェームス様は、今だリリーローズ様を想って、塞ぎ込んでいる。
公爵としての仕事はなんとかこなしているが、このままでは結婚し、後継を作るというもう1つの公爵としての役割を果たすことが出来ない。
ローラン様は親戚筋から、次期公爵候補の人物を探し始めた。
ジェームス様に見切りをつけているのかもしれない。
そんなある日、王家主催の夜会の招待状が届いた。
あの事故以来、ジェームス様は社交を全く行ってこなかった。
人の口には戸を立てられない。
ジェームス様は婚約者の妹と浮気した男として、貴族の中で噂になっている。本人は気づいていないが。
ジェームス様はこの夜会に参加すると言い出した。
この夜会の意味する事も知らずに。
私は心配したが、この状況をいつまでも続けるわけにはいかない。
もしかしたら、この夜会はジェームス様が真実の記憶を取り戻す切っ掛けになるかもしれない。
私はこの状況を打破する為の賭けに出た。
どうしてこんな事になったのだろう。
階段から落ちたジェームス様は、それから2日、目を覚まさなかった。
頭を打っていた事から、最悪な状況も予想されたが、命には別状はないとの事で、とりあえずはホッとした。
事故の翌日、直ぐに状況を把握しようと、昨日、働いていた使用人を集め話を聞いた。
タイラー侯爵夫人と、リリーローズ様が邸を訪れた後、リリーローズ様が泣きながら去って行き、少し経ってから、ジェームス様が階段から落ちて来たと。
どうも、お酒に酔っていたようだったと言う話だが、その後、タイラー侯爵夫人が邸を出て行ったのを見た者が居ない。あの騒ぎの中、どうやって出て行ったのか。
私は、通用口で会った護衛の事を思い出した。あの時感じた違和感…。
それを考えていると、タイラー侯爵夫妻が邸を訪れた。
こんな時にと思っていたが、話を聞いて、昨晩の事の顛末が見えてきた。
リリーローズ様との婚約を解消し、あのマリーとかいう女を婚約者にしろと2人が喚く。
ジェームス様が愛しているのはマリーであって、2人は体の関係もあると。
そしてマリーには妊娠の可能性もあると言い出した。
私は2人を追い返した。
ジェームス様は嵌められたのだ。
あの阿婆擦れに。
あの女がジェームス様に懸想しているのは気づいていたが…厄介な事になった。
私は昨晩、通用口に居た護衛を呼び出し、半ば脅しの様に、真実を聞いた。
結局クビにしたが、命をとられるよりはマシだった筈だ。
私はローラン様に指示を仰ぎ、実行した。
本当なら、リリーローズ様との婚約は継続したかったが、あの馬鹿なタイラー侯爵が既にリリーローズ様を勘当しており、タイラー侯爵家から籍を外されていた。
調べると前侯爵夫人の実家、ベルマン伯爵の養女となっていた。
勝手な事を。もうこの世にリリーローズ・タイラーは居ない。
そこにいるのはリリーローズ・ベルマンだ。
婚約は必然的に解消となってしまった。
だからといって、あの阿婆擦れを婚約者などにする訳がない。
こちらの切り札として、あの阿婆擦れが酒に薬を盛って、ジェームス様を襲った事を公にしてやる。
しかし、これはカーライル家にとっても醜聞だ。あくまでもこれは切り札だ。
事故から3日目。ジェームス様が目を覚ました。
しかし、あの日の記憶が無かった。いや、無かったよりも質が悪い。
「リリーは?リリーは無事か?リリーが階段から落ちたんだ」とジェームス様は目覚めて直ぐに言い出した。
私も側にいたメイドも息を飲む。
ジェームス様は階段から落ちたのは、自分ではなくリリーローズ様だと思っている。…いや、そう思いたかったのかもしれない。
「きっと、あんな所から落ちてしまったんだ。リリーはもう助からなかったのではないだろうか…あぁ、可哀想なリリー」
と言って、泣き出してしまった。
あろうことか、ジェームス様はリリーローズ様が死んだと思い込んだ。
そう思う事で自分を保っていると言った方が良いかもしれない。
自分の裏切りで、リリーローズ様を失ったとは思いたくなかったのかもしれない。
私も今のジェームス様に真実を告げる事が出来なかった。それは医者も同じ意見だった。
その後、何度もタイラー侯爵と、あの阿婆擦れが邸を訪れたが、全て断った。
1度だけタイラー侯爵夫妻が私の留守中に入り込んだようだが、ジェームス様はあの女と婚約しろと言う2人に怒り、直ぐに追い出したようだった。
ちなみに、ジェームス様はタイラー侯爵家に資金援助を、今も行っていると思っているが、リリーローズ様との婚約解消後のあれは全て貸付だ。
このままいけばタイラー侯爵家は没落を免れない。
きちんとした領地経営も出来ない、無能な当主と、浪費癖が抜けない女どものせいだ。自業自得としか言いようがない。
あの阿婆擦れも、妊娠はしていなかったようだ。
しかし、あの女が男にだらしないとの噂を流す事には成功した。
もう貴族の子息とは結婚出来まい。
あの事故から1年が経とうとしていた。
ジェームス様は、今だリリーローズ様を想って、塞ぎ込んでいる。
公爵としての仕事はなんとかこなしているが、このままでは結婚し、後継を作るというもう1つの公爵としての役割を果たすことが出来ない。
ローラン様は親戚筋から、次期公爵候補の人物を探し始めた。
ジェームス様に見切りをつけているのかもしれない。
そんなある日、王家主催の夜会の招待状が届いた。
あの事故以来、ジェームス様は社交を全く行ってこなかった。
人の口には戸を立てられない。
ジェームス様は婚約者の妹と浮気した男として、貴族の中で噂になっている。本人は気づいていないが。
ジェームス様はこの夜会に参加すると言い出した。
この夜会の意味する事も知らずに。
私は心配したが、この状況をいつまでも続けるわけにはいかない。
もしかしたら、この夜会はジェームス様が真実の記憶を取り戻す切っ掛けになるかもしれない。
私はこの状況を打破する為の賭けに出た。
どうしてこんな事になったのだろう。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
932
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる