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〈レイノルズ視点〉
どうしてこんな事になったのだろう。
あの日、私は、前公爵のローラン様に呼ばれ、領地を訪れていた。
カーライル公爵領は、あまり広い土地ではない。ローラン様は元々、王宮での要職と、その商才から手広く事業を行っており、領地からの収入が少なくても、カーライル家はなんの問題もなく、安泰であった。
馬車の事故で半身不随になったとは言え、頭はしっかりしており、本来ならば引退には早すぎるぐらいだった。
しかし、ローラン様は自分の息子のジェームス様を試したかったのかもしれない。自分の跡継ぎとしての資質を見極めたかったのだろう。
もし、ジェームス様にその資質が無ければ、容赦なく切っていたかもしれない。
それぐらいの冷徹さは持っている人物だった。
王都とカーライル公爵は馬車で一時間程。
私は邸の使用人に夜には戻ると告げてカーライルのタウンハウスを出た。
これは毎月の事。使用人達も心得たものだ。
私が月に1度ローラン様に呼び出される理由は、ジェームス様の公爵としての仕事ぶりを報告する為だ。
「で、奴はどうだ?」
領地の邸に着いて早々、ローラン様から訊ねられる。無駄な事が嫌いなローラン様らしいと言えばらしい。
「今のところ、大きな問題はありませんが、やはりジェームス様が若いという事で、少し態度を変えた者達がいるのは否めません」
「ふん。舐められたか」
「それと、今は領地にまでは手が回らず、そこはテイラー侯爵令嬢様がカバーしている状況です」
「それは知っている。
あの娘が領地の視察に訪れた際には、必ずわしを見舞うからな。
あれは良い。なかなか見所がある。
テイラー侯爵からはあまり大切にされていないようだがな。
後1年もしたら、卒業か?
あの娘が側にいるなら、ジェームスも公爵としてやっていく事は出来るだろう。
結婚する頃には、ジェームスも、もう少しマシになっているだろうからな」
ローラン様は、テイラー侯爵令嬢を買っていた。
大人しく、少し控えめではあるが、優秀であることは認める。
あの方なら、ジェームス様を良いように導く事が出来るだろう。
しかし、気になることもある。
優秀過ぎるが故に、ジェームス様の劣等感を刺激している可能性があるからだ。
最近のジェームス様は、よくテイラー侯爵令嬢に八つ当たりをしているのを見かける。
そして、その後ろめたさから逃れる為か、酒量が増えているのが今の私の懸念材料だ。
いつものようにローラン様の報告の後、領地を見て回る。
狭い領地でも、わりと時間がかかる。
やっぱり帰りは予定通り…夕食後となりそうだ。
私がカーライルのタウンハウスに着き、通用口から邸へ入ろうとしたら、いつもは見ない護衛の顔があった。
「お前の持ち場はここじゃないだろ?」
と私が言うと、肩をピクッと震わせ、
「あ、ちょっと裏庭に用があって…」と言いながら通用口を出て行った。
…サボりか?しょうがないやつだ。
そう思った瞬間、メイドの叫び声が聞こえた。
私は声の方へ急いで行く。
侵入者だったら…そう思い先ほど出て行った護衛に声をかけようか迷ったが、それよりも今は状況を把握する方が先だと思い駆け出した。
メイド達が震えながら見つめる先には、階段の下で倒れて頭から血を流しているジェームス様がいた。
どうしてこんな事になったのだろう。
あの日、私は、前公爵のローラン様に呼ばれ、領地を訪れていた。
カーライル公爵領は、あまり広い土地ではない。ローラン様は元々、王宮での要職と、その商才から手広く事業を行っており、領地からの収入が少なくても、カーライル家はなんの問題もなく、安泰であった。
馬車の事故で半身不随になったとは言え、頭はしっかりしており、本来ならば引退には早すぎるぐらいだった。
しかし、ローラン様は自分の息子のジェームス様を試したかったのかもしれない。自分の跡継ぎとしての資質を見極めたかったのだろう。
もし、ジェームス様にその資質が無ければ、容赦なく切っていたかもしれない。
それぐらいの冷徹さは持っている人物だった。
王都とカーライル公爵は馬車で一時間程。
私は邸の使用人に夜には戻ると告げてカーライルのタウンハウスを出た。
これは毎月の事。使用人達も心得たものだ。
私が月に1度ローラン様に呼び出される理由は、ジェームス様の公爵としての仕事ぶりを報告する為だ。
「で、奴はどうだ?」
領地の邸に着いて早々、ローラン様から訊ねられる。無駄な事が嫌いなローラン様らしいと言えばらしい。
「今のところ、大きな問題はありませんが、やはりジェームス様が若いという事で、少し態度を変えた者達がいるのは否めません」
「ふん。舐められたか」
「それと、今は領地にまでは手が回らず、そこはテイラー侯爵令嬢様がカバーしている状況です」
「それは知っている。
あの娘が領地の視察に訪れた際には、必ずわしを見舞うからな。
あれは良い。なかなか見所がある。
テイラー侯爵からはあまり大切にされていないようだがな。
後1年もしたら、卒業か?
あの娘が側にいるなら、ジェームスも公爵としてやっていく事は出来るだろう。
結婚する頃には、ジェームスも、もう少しマシになっているだろうからな」
ローラン様は、テイラー侯爵令嬢を買っていた。
大人しく、少し控えめではあるが、優秀であることは認める。
あの方なら、ジェームス様を良いように導く事が出来るだろう。
しかし、気になることもある。
優秀過ぎるが故に、ジェームス様の劣等感を刺激している可能性があるからだ。
最近のジェームス様は、よくテイラー侯爵令嬢に八つ当たりをしているのを見かける。
そして、その後ろめたさから逃れる為か、酒量が増えているのが今の私の懸念材料だ。
いつものようにローラン様の報告の後、領地を見て回る。
狭い領地でも、わりと時間がかかる。
やっぱり帰りは予定通り…夕食後となりそうだ。
私がカーライルのタウンハウスに着き、通用口から邸へ入ろうとしたら、いつもは見ない護衛の顔があった。
「お前の持ち場はここじゃないだろ?」
と私が言うと、肩をピクッと震わせ、
「あ、ちょっと裏庭に用があって…」と言いながら通用口を出て行った。
…サボりか?しょうがないやつだ。
そう思った瞬間、メイドの叫び声が聞こえた。
私は声の方へ急いで行く。
侵入者だったら…そう思い先ほど出て行った護衛に声をかけようか迷ったが、それよりも今は状況を把握する方が先だと思い駆け出した。
メイド達が震えながら見つめる先には、階段の下で倒れて頭から血を流しているジェームス様がいた。
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