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しおりを挟む〈マリー視点〉
ジェームスは酔ってベッドに横になっていた。私が手配した酒の瓶が転がっている。
媚薬が効いてきたからか、少し息が荒い。然程強い媚薬ではないが、すぐ側に女がいればきっと、抱くだろう。
近づく私が声を掛けると、掠れた声で彼は
「リリー?」と話掛けてきた。
部屋の中は月明かりのみで薄暗い。声だけで、私をあの女と間違っていたようだ。
忌々しいと思った。
でもジェームスに警戒されないなら、その方が都合が良い。
私はリリーローズのフリをした。
彼は案の定、私の腕を引っ張りベッドに連れ込むと、私を抱いた。
何度も「リリー」と愛しそうに呼びながら。
私は屈辱だったが、これで既成事実は出来た。
私は処女ではなかったから、自分の腕を傷つけて血をシーツに付けた。
もちろん避妊はしていない。妊娠の可能性だってある。
私はリリーローズに勝ったと思っていた。
そこに、タイミング良く、お母さんがリリーローズを連れて現れた。
リリーローズのあの時の顔!
可笑しくって私は笑った。
リリーローズが走り去った後を、ジェームスは追おうとする。
「ジェームス様!私、ずっとジェームス様が好きだったんです。
私の純潔を捧げたのですもの、責任取って頂けますよね?
母も見ていたんです。誤魔化さないで下さいね?
これで、私、公爵夫人だわ!」
そうすがり付く私を振り払ってジェームスはリリーローズを追って行った。
私はベッドの上で唖然としていた。
そんな私にお母さんは、
「大丈夫よ、マリー。後は私に任せて。
きっとお父さんもわかってくれるわ。
貴女が公爵夫人になるのよ」
と微笑んでいた。
そうだ、リリーローズは身を引くだろう。私はジェームスを手に入れたんだ。
…ジェームスの心だって、いつか手に入れてみせる。
そう思っていたら、部屋の外から、メイド達の叫び声が聞こえた。
私は急いで服を整えると、部屋を飛び出した。
人が慌ただしく行き交っている。
私は一階に降りようと階段に足をかけた。
そこには、階段の下で頭から血を流したジェームスが倒れていた。
何が起こったの?どうしてジェームスが?
混乱する私の肩をお母さんが抱いた。
「マリー、私達はすぐに帰った方が良いわ。皆に気づかれない内に帰りましょう」
「で、でもジェームス様が…」
「いいから!すぐに帰るのよ!」
お母さんは強引に私は連れて、裏口から外に出た。
そこには、私と関係のあった護衛が青い顔をして立っていた。
それから、私は何度も何度もジェームスの元を訪れたが、会う事は叶わなかった。
ジェームスは命には別状なかったが、記憶が混乱しており、会える状態ではないと言われた。
あの後、リリーローズはタイラー侯爵家を出た。
自分はジェームスに相応しくない為、婚約を解消したいと。
そして、私をジェームスの婚約者にしてあげて欲しいと言って。
しかし、リリーローズがタイラー家に居れば、その望みは叶わない。
リリーローズは前妻、つまりリリーローズの母親の実家の養女になる事になった。
カーライル公爵家とタイラー侯爵家の繋がりが必要なのだ。リリーローズは邪魔でしかない。
私はこの決定を心から喜んだ。
それなのに、私はジェームスに会う事すら出来なかった。
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