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私は20歳になると同時に、公爵位を継いだ。
父が事故で半身不随となり、公爵としての仕事が出来なくなった為だ。
父は母と領地でのんびりと療養しながら、余生を送る事となった。
その頃の私は、公爵になったばかりの忙しさと、周りからのプレッシャーで押し潰されそうになっていた。
ストレスから、イライラする事も多く、ついリリーに辛く当たる事もあった。
それでもリリーは優しく私を受け止めてくれた。
『ジェームス様はお疲れなのです。
私に出来る事があれば、何なりとお申し付け下さい。
私はジェームス様の隣に並び立つ事が出来るよう、精一杯努力いたします』
そう言って、笑顔で私を癒してくれた。
リリーは成績も優秀だった為、私の仕事も手伝ってくれるようになっていた。
私の心はリリーだけの物だった。
あの日の事は、全く思い出せない。
私は愛しいリリーを亡くした。その事実だけ。
愛するリリーはもう私の人生に居なくなってしまったのだ。
私はあの日から、全く前に進めないでいる。
「ジェームス様、マリー・タイラー侯爵令嬢様がおみえで御座います」
我が家の執事、レイノルズが執務室に居る私に告げる。
「またか」
リリーの義妹、マリー。
何故かリリーが亡くなってから、我が公爵家に何度も何度も訪れるのだ。
何回断っても、性懲りもなく。
「追い返せ」
私はレイノルズに告げ、執務に戻る。
レイノルズは何か言いたそうな顔をしていたが、私がもう会話をする気がない事を悟ると、部屋を出ていった。
あの女だけじゃない、タイラー侯爵夫妻も、リリーを亡くした後、度々我が邸を訪れていた。1度だけ話を聞いたが、何とも馬鹿にした話しだ。
リリーの代わりにマリーと結婚しろと言ってきた。
当然私は断った。何故、私があんな女と結婚しなくてはいけないのか?冗談じゃない!私はリリーしか欲しくない。
リリーが居なくなっても、資金援助は続けるように言っているのだ。あのマリーとか言う女と結婚する必要はない。
しかし、私は公爵だ。しかも一人息子。結婚をし、後継を作らなければならない事は理解している。
ただ、頭ではわかっていても、心がついていかない。心がリリー以外を拒否している。
リリーを失って、もうすぐ1年。
喪が明ける。そうすれば、もう周りも私を放っておかないだろう。父も母も。
そんな風に過ごしていたある日。
「……ジェームス様。王家主催の夜会の招待状です」
何故かレイノルズは辛そうな顔で、その招待状を私に差し出した。
「そうか…。王家の主催であれば断るわけにもいかないな。もう…1年経ったんだ。そろそろ私も社交に出なければな。これは…出席しよう」
「…よろしいのですか?きっと、これは第二王子のルーカス殿下の婚約披露の夜会になるかと思いますが」
レイノルズは心配そうな顔をする。
「そうか!ついにルーカスも婚約者を決めたのか。それは目出度いな。是非ともお祝いをしなきゃな。もう22歳になるというのに、婚約者が決まらなかったんだ。やっとあいつも腹をくくったかな」
私は学園の学友だったこの国の第二王子の顔を思い浮かべた。
王族なのに、気安く、皆に平等に優しく明るい男だ。友人とよんでも差し障りのない間柄だ。第一王子である王太子殿下を尊敬し、支えていきたいと強い信念を持つ。
私はその友人を祝いたいと素直に思った。だから、その夜会に出席するのに、私は何の疑問も持たなかった。
そんな私の横顔をレイノルズがじっと見詰めている事には気づかずに。
父が事故で半身不随となり、公爵としての仕事が出来なくなった為だ。
父は母と領地でのんびりと療養しながら、余生を送る事となった。
その頃の私は、公爵になったばかりの忙しさと、周りからのプレッシャーで押し潰されそうになっていた。
ストレスから、イライラする事も多く、ついリリーに辛く当たる事もあった。
それでもリリーは優しく私を受け止めてくれた。
『ジェームス様はお疲れなのです。
私に出来る事があれば、何なりとお申し付け下さい。
私はジェームス様の隣に並び立つ事が出来るよう、精一杯努力いたします』
そう言って、笑顔で私を癒してくれた。
リリーは成績も優秀だった為、私の仕事も手伝ってくれるようになっていた。
私の心はリリーだけの物だった。
あの日の事は、全く思い出せない。
私は愛しいリリーを亡くした。その事実だけ。
愛するリリーはもう私の人生に居なくなってしまったのだ。
私はあの日から、全く前に進めないでいる。
「ジェームス様、マリー・タイラー侯爵令嬢様がおみえで御座います」
我が家の執事、レイノルズが執務室に居る私に告げる。
「またか」
リリーの義妹、マリー。
何故かリリーが亡くなってから、我が公爵家に何度も何度も訪れるのだ。
何回断っても、性懲りもなく。
「追い返せ」
私はレイノルズに告げ、執務に戻る。
レイノルズは何か言いたそうな顔をしていたが、私がもう会話をする気がない事を悟ると、部屋を出ていった。
あの女だけじゃない、タイラー侯爵夫妻も、リリーを亡くした後、度々我が邸を訪れていた。1度だけ話を聞いたが、何とも馬鹿にした話しだ。
リリーの代わりにマリーと結婚しろと言ってきた。
当然私は断った。何故、私があんな女と結婚しなくてはいけないのか?冗談じゃない!私はリリーしか欲しくない。
リリーが居なくなっても、資金援助は続けるように言っているのだ。あのマリーとか言う女と結婚する必要はない。
しかし、私は公爵だ。しかも一人息子。結婚をし、後継を作らなければならない事は理解している。
ただ、頭ではわかっていても、心がついていかない。心がリリー以外を拒否している。
リリーを失って、もうすぐ1年。
喪が明ける。そうすれば、もう周りも私を放っておかないだろう。父も母も。
そんな風に過ごしていたある日。
「……ジェームス様。王家主催の夜会の招待状です」
何故かレイノルズは辛そうな顔で、その招待状を私に差し出した。
「そうか…。王家の主催であれば断るわけにもいかないな。もう…1年経ったんだ。そろそろ私も社交に出なければな。これは…出席しよう」
「…よろしいのですか?きっと、これは第二王子のルーカス殿下の婚約披露の夜会になるかと思いますが」
レイノルズは心配そうな顔をする。
「そうか!ついにルーカスも婚約者を決めたのか。それは目出度いな。是非ともお祝いをしなきゃな。もう22歳になるというのに、婚約者が決まらなかったんだ。やっとあいつも腹をくくったかな」
私は学園の学友だったこの国の第二王子の顔を思い浮かべた。
王族なのに、気安く、皆に平等に優しく明るい男だ。友人とよんでも差し障りのない間柄だ。第一王子である王太子殿下を尊敬し、支えていきたいと強い信念を持つ。
私はその友人を祝いたいと素直に思った。だから、その夜会に出席するのに、私は何の疑問も持たなかった。
そんな私の横顔をレイノルズがじっと見詰めている事には気づかずに。
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