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過去の話〜幸司編⑶〜
しおりを挟む篠田 朔先生は、学校の先生じゃなく、お医者さんだ。まだ、お医者さんになりたてで、勉強中だって言っていた。学校には、週3回来ていて保健室にいる事が多く、学校医と言うらしい。だから、保健室には養護の牧野先生と篠田先生の2人いるんだ。
「コウ。ほら、泣かないで。保健室に行こう」
「うっうっ......ごめんなさい」
「気にすんなって......先にここ片付けちゃうから、ちょっとだけ待てるか?」
オレは、コクッとうなづく。
最近、保健室の常連になってたから、篠田先生とは仲良くなっていた。
「また、急に漏れそうになっちゃった?」
「うん……図書室で本借り終わって、よかった~って思ったら、もう漏れそうだった……」
「そっか。じゃあ、図書室からトイレまでは、頑張ったんだ」
「う…ん……でも、歩きながらも、漏れちゃった……」
「最後に、トイレ行ったのはいつ?」
「5時間終わったあと……で、でも!!図書室行く前は、したくなかったし、本借りたら行こうと……思ってた」
「そっか……」そう言って篠田先生は、オレの頭に手を置いて、ポンポンと撫でる。
保健室には、牧野先生と先客がいた。
「あれ。もしかしてユキ?そっちもやっちゃったのか?」
ユキと呼ばれた子のズボンは、オレのズボンと同じ状態だった。
「あらら。幸司くんも?お仲間さんね」
その時、その男の子と目が合い、お互い照れ笑いになった。
浅岡幸也と名乗ったその子は、先週転校してきた子だった。同じ2年生だったけど、クラスが違ったから、全然知らなかった。
「この学校のことは、コウの方が詳しいんだから、仲良くしてやれよ」
お互い着替え終わって、4人で温かいお茶をのんでる時、篠田先生が言ってきた。チラッと幸也君をみると、はにかむように笑った。
「それに、幸司のコウも幸也のユキもおんなじ漢字なんだよ。お互い似ている所があると仲良くなれそうだろ。って、2年生じゃまだ習ってないか……」
「習ってないけど、知ってる。幸せって言う字でしょ。父さんが言ってた」
「ぼくも……知ってる……」
「そうそう。幸せ。コウもユキも幸せになりますように……ってつけられた名前だと思うよ」
オレと幸也君はお互い見合って、へへっと笑った。
その時から幸也とは、10年近い腐れ縁だ……いや、臭い縁か。お互いの家庭の事情から漏らし癖など、何でも知っている仲だ。もちろん、幸也が心配性だってことも。
大事な奴だからこそ、心配はかけたくなかったし、今さら漏らしてしまうような、かっこ悪い部分も見せたくなかった。
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