忘れられない思い

yoyo

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昔の話⑼

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   事務所は、前にも1度入ったことがある。事務所とは名ばかりの、段ボールが雑然と置かれている物置のような部屋だ。一応、ソファーやテーブル、奥にはロッカーなどもあり、事務所兼休憩室的な部屋なのであろう。
   前は、お酒を飲まされて佑輔さんに助けて貰った時にソファーに寝かされていた。そういえば、あの時からかい半分で押し倒されたんだっけと、苦い記憶が蘇る。


「おい、春人。寝るなら帰れ」

「ん……あれ?佑輔さん、仕事終わったんですか」


   時計を見ると、もう10時30分に近かった。最近モヤモヤとして眠れない事が多く、寝てしまっていたようだ。


「そういえば、思い出すな。そのソファーであの日の続きでもするか?」


   佑輔さんのいつものからかい口調に、オレが怒るのがお約束になっているが、今日は全然違う言葉がこぼれ落ちた。


「いいですよ」


   自分で言って、ビックリする。それ以上に佑輔さんは目を丸くしていた。



「何言ってんだよ……」

   やっぱりいつも、からかわれていたのかと改めて思って、ちょっと尖った声を出す。


「……いつも、抱きたいって言ってるじゃないですか……だからまぁ……いいかなって……」

「はぁ……本気で言ってるの?それ」


   佑輔さんは少し怖い顔をして、見つめてくるので咄嗟に顔をそむけてしまう。その時力強く手首を掴まれた。



「じゃあ、行こうぜ」

「えっ……どこに……」

「そんなの、ホテルに決まってるだろ。抱かれたいんだろ」そう言うとオレの腕を強引に引っ張って歩き出す。

「いや……ちょっと……まって……」


   確かに、佑輔さんの言葉に対抗するように言ったことではあったけど、結局どうせ適当にあしらわれると思っていた。   
   まさか、こんなことになるなんて……


   でも、佑輔さんとなら、経験してもまあいいかなという打算の気持ちがないわけではなかった。
   こんな事を悶々と考えながら、引っ張られるがままについて行き、とある建物の間に来ていた。
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