忘れられない思い

yoyo

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共同生活⑴

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   今日もまんぷく屋は、混み合っていて、平日の夜のせいか仕事帰りのサマリーマンがほとんどだ。この間、職場で怪我をして右手小指を亀裂骨折してしまったせいで、気晴らしの料理もできない状態になっている。3日間程、仕事は休みを貰っていたけど、正直体調が悪い訳ではないから、やる事がなくて暇だ。

   退院直後は、仰々しいギプスが腕を覆っていて、指の骨折なのになんで?と思っていたけど、3日目にしてそれからも解放され、今もグルグル巻きの包帯は変わらないものの、だいぶ身軽になって右手も使いやすくなった。これなら外でもご飯が食べられると思って、今日は先生とまんぷく屋で待ち合わせをしていた。



   少しお店のピークが過ぎると、厨房から顔を出した泰輔さんが声をかけてくる。

「今、春人のところにいるんだって?どう?同棲生活は?」


   ニヤニヤとした泰輔さんは、もうからかう気満々の顔をしている。

「同棲じゃないですよ!先生に強引に押し切られた……というか」

「ふーん。でも、その怪我だし、手取り足取りお世話してもらってるんじゃないの?」

「そ、そんなこと……ないです」


   少し、当たってるだけに強く言い切れないのが悔しい。
   怪我をした次の日には、晴れて退院となり、先生が迎えに来てくれた。ボクの家まで送り届けてくれて、お礼を言いかけたその時に思いがけない言葉が先生から発せられる。

「じゃあ、着替えを持ってオレの家行こうか。その手じゃ大変だから、指示してくれたらオレがカバンに詰めるから言って」

「え?ど、どういうこと?」

「しばらくオレの家においで。その手じゃ生活しずらいだろ?」

「いやいや、これくらい1人でも大丈夫です」


   軽く先生に睨まれ、思いっきりため息をつかれる。

「真野、お前なぁ……利き手だし、真野が思ってるよりずっと大変だと思うぞ。それに……オレがどれだけ心配したと思ってるんだよ」


   先生に心配をかけてしまったのは事実であり、痛いところを突かれて何も言い返せない。

「ここに、真野を1人にしておくのは、オレが不安なんだよ。オレのためにも家に来て欲しい」


   真っ直ぐに見つめられて、そんな事を言われるともう、頷くしかない。

「よ、よろしくお願いします……」


   そう言うと、先生の手が優しく頭の上に乗り、優しい顔でさらに見つめられ思わず、目を伏せてしまう。
   そんな感じで先生との共同生活が始まってしまったのだ。
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