神さまのレシピ

yoyo

文字の大きさ
4 / 42

流星群⑶

しおりを挟む
「郁島くん。あ、起きてた?朝也から、パーカー貰った?夜は冷えるから、着込んで行こう」


   湖城はベッドの背を上げて、サイドボードの上に置いておいたパーカーを手渡し、その間に車椅子を用意している。

「着れた?じゃあ、こっちに移ろうか」


   颯の足を動かして、ベッドサイドに下ろす。1度検査の為に、車椅子に乗せられたことがあったけど、その時は湖城が休みで朝也に抱えられた。颯よりも10㎝は背が高く、お姫様抱っこも軽々しそうな朝也と比べて、湖城は颯と背丈も体格もそんなに変わらない。失礼だけど、大丈夫なのだろうかと思ってしまう。だけど、そんな想いは杞憂に終わり、手を湖城の首に巻きつかせて、どこにそんな力があるのと不思議になるくらいヒョイと抱き上げて車椅子に座らせた。


「クッションは敷いてあるけど、痛いところとかない?」

「大丈夫です」


   その時、振動する音が聞こえて、湖城がポケットから出したスマホ画面を確認して、ニヤッと笑う。どうやら電話ではなくて、メッセージのようだ。

「よし。井口さんは見回りに出たから、詰所には今、朝也しかいない。今のうちに行くよ」


   屋上に行くためには、ナースステーションの真正面にあるエレベーターに乗らないといけない。どんなにコッソリ行ったとしても、エレベーターを待ってる間に、他の看護師にバレてしまう。昼間の不審者を発見しやすくする為とか、夜間の抜け出しを防止するために理にかなった構造であるが、今回は大きなネックだ。だから湖城は朝也に協力を頼んでいたのだ。
   夜勤は基本、看護師2人で行い、見回りの際は1人が見回って、もう1人がナースステーションに残ることになっていて、朝也にはナースステーションに残ってもらい、もう1人が見回りに出たら、連絡を入れてもらうことにしていたと、屋上までの道すがら説明してくれた。

   湖城の策略通りか、屋上にはアッサリと到着する。見つかりそうになってドキドキというドラマ的な展開は何も起こらなかった。何か期待していた訳ではないけど、現実世界なんてこんなもんだよなと思う。



「郁島くん、これ持っててくれる?」

   そう言って手渡してきたのは、懐中電灯だった。辺りを照らすと小さな公園のようにベンチや花壇がひっそりと浮かびあがってきた。屋上は、昼間は患者に解放されていて、天気の良い日はそこそこ人で賑わっているらしいが、今は颯と湖城の2人きりで静寂に包まれていた。


「この辺でいいかな……郁島くん、明かり消して」


   持っていた懐中電灯を消すと、一気に真っ暗になる。「ほら」指されて上を見上げると星が見えた。普段より周りが暗いせいかいつも見る星空より、綺麗に見える。

「街中だと、夜中でも街灯があるからな。こんなもんか……流れるかな……あ、寒くない?やっぱり夜はもう風が冷たいな」

「あ……」


   湖城が颯の膝掛けをかけ直している時、星の1つがスーッと流れる。そしてまたすぐに、もう一つ流れた。
   あぁ……前にも見たことがある……いつだったっけ?


「おぉ……今流れた……俺は前にキャンプに行った時に見て、感動したんだよね」


   キャンプ……
   そうか……前に家族でキャンプに行ったときに父さんと見たんだ……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

悪夢の先に

紫月ゆえ
BL
人に頼ることを知らない大学生(受)が体調不良に陥ってしまう。そんな彼に手を差し伸べる恋人(攻)にも、悪夢を見たことで拒絶をしてしまうが…。 ※体調不良表現あり。嘔吐表現あるので苦手な方はご注意ください。 『孤毒の解毒薬』の続編です! 西条雪(受):ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗(攻):勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...