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其の十八 ※

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 旭丸は最初驚いたように瞬きをくりかえしたが、やがて赤い瞳に得も言われぬような幸福の色を浮かべた。合わせたままの唇が笑みの形に開き、微かに歯が当たる。 桂祐が一度身を引こうとすると、背と膝裏に腕を回されて軽々と持ち上げられた。
「わあっ!」
 声を上げて慌てて旭丸の首にしがみつく。その拍子に烏帽子が落ちて元結いが切れ、髪が肩に降りかかる。抗議の声を上げる間もなく横抱きにされて奥の間へ運ばれ、柔らかな畳の上へと下ろされた。
 狩衣の首上の緒を引きちぎるように外され、上衣を脱がされて、指貫も手荒く脚から引き抜かれてしまう。旭丸は自身も慌ただしく装束を脱いで、しどけなく単衣を肩に掛けた桂祐を抱き寄せた。

「ちょ、ちょっと待て。今はこういうことをしている場合ではないんじゃないか!? この世界は消えかけてるんだろう?!」
「だから、桂祐が私を受け入れれば安定する」
「う、けいれる……受け入れたじゃないか!」
「言葉でだけだ。桂祐には人の肉がある。その内側まで受け入れてくれなければ、契約は成立しない」
 抱き上げられて、胡座をかいた相手の輿を跨ぐように脚を開いて座らされると、嫌が応にも下腹にある欲望の印に気がついてしまう。臍に付くほど反り返って主張する旭丸の陽物の大きさに、桂祐は短く怯えた声を漏らした。
「ひっ」
「怖い事はしない。嫌か?」
 耳朶に直接低い声を吹き込まれ、桂祐はビクリと身体を震わせる。答えをためらうわずかな間にも、旭丸の熱い手のひらが背を撫で上げ脇を撫で下ろす。
「嫌か?」
 急かすように再び問われて、
「その……、もう少し縮めてもらえないだろうか?」
 と下を指さすと、
「大丈夫。入る」
 笑顔で褥に押し倒された。
「んっ」
 深く口を合わされて上顎を舐められる。舌を絡ませあって腰を押しつけ合うと、桂祐の欲もじんわりと熱を持ち始めた。

 ようやく大人しくなった桂祐に満足げな笑みを浮かべた旭丸は、口づけを解いて舌を下へと滑らせ、薄く色づいた胸の頂を口に含んだ。
「あっ! ……あっ、ん!」
 舌先を左右に細かく往復させて一方を可愛がり、もう片方は薄く浮いた胸筋ごと手のひらで捏ねるようにすると、強ばっていた桂祐の身体からは簡単に力が抜けた。
「んぅ……はぁ……あぅ……」
 刺激を求めて尖る乳首を唇の間にやんわりと挟み、前歯で軽く噛むと、桂祐の身体がビクリと大きく跳ねた。これまで徐々に快感を教え込んでいたおかげか、桂祐の反応はひどく素直で、旭丸の欲を煽る。
 胸から鎖骨を通って首筋を舐め上げ、耳の付け根の薄い皮膚に吸い付いて跡を残す。腹の間で滴を零す昂りを二人分まとめて摺り合わせるように腰を押しつけて揺らすと、
「あーっ……! それ……あっ……っく!」
 桂祐は旭丸の背を引き寄せて甘く啼いた。
 旭丸は動きを止めて、自ら腰を小刻みに揺すって頂を極めようとする桂祐を、目を細めて見下ろす。
「いきたい、旭丸、出させて……!」
「まだ」
 短く言って、桂祐の身体を裏返した。

 うつ伏せにされた桂祐は、舌で背の窪みをゆっくりと辿られ、尾骨に歯を立てられて背を反らす。限界まで追い詰められて投げ出された前が、張り詰めすぎて痛い。褥に擦り付けて刺激を得ようとしたら、腰を掴んで引き上げられた。尻を左右に割り開かれ、後孔に舌を這わされる。
「やっ! そこはっ……不浄だから……!」
 身体を捩って手を伸ばし、尻の間に伏せた旭丸の顔を押しのけようとしたが、簡単にはねのけられた。
「気にしなくて良い」
「ひっ! そこでしゃべるなっ……うぁっ」
 ぴちゃぴちゃと音を立てながら濡らされた穴に、舌先がわずかに侵入してくる。 
「うぅ……ぅー」
 桂祐は羞恥とむずがゆさできつく目を閉じ、低く唸った。早く前を解放したいという欲と、後ろで蠢く得体の知れない感覚がない交ぜになって訳が分からない。

 旭丸は興奮に息を荒らげ、それでも丁寧に後ろを舌でほぐし、次は唾液を絡めた指をそろりとそこへ這わせた。爪先を中へ潜り込ませると、「ん!」と短く鳴いた桂祐が背を強ばらせる。
「……大丈夫。酷くしない」
 一度桂祐の背に覆い被さり、安心させるように耳元に低く囁く。桂祐が頷いたのを確かめててから、ゆっくり指を中に進めた。
 温かく柔らかな粘膜が異物を閉め出そうとしてきゅうと狭まるが、桂祐が吐く息に合わせて少しずつ緩む。受け入れようとしてくれていることが嬉しかった。
 緊張が解けたところで指をゆっくりと回し、奥に潜む快楽の種を探す。指が届く範囲を丁寧に探っていると、桂祐の肌が汗ばんでしっとりと湿りはじめた。指を二本に増やしても痛みを訴える様子はないので、旭丸は性交の動きを真似るように、入れた二本の指をゆるゆると出し入れさせる。

「はぁっ! あ……っ! ん! んっ!」
「桂祐、好い?」
「や、わからな……っ! あっ! ぁくっ、うっ!」
 腹側のある場所を指で押すと、桂祐はブルリと震えて息を詰めた。張り詰めた前からは、白濁混じりの滴がひっきりなしに零れて褥を濡らしている。
「……覚えた」
 旭丸は興奮しきった雄の顔で口の端を歪めて笑った。桂祐の項に口づけながら、中に埋めた指で何度も敏感な場所を刺激する。
「やぁっ! あっ! それ、いや……出したい……あん! あさひまる、あさひっ……」
 桂祐は無理な体勢で必死に後ろを振り返り、黒い瞳を溶けそうに潤ませて請う。旭丸は欲望のまま貫いてしまいたい衝動を堪え、理性の糸を手放さぬように大きく息を吸った。
「……もうすこし」
 ヒクつく後孔にもう一本指を増やすと、桂祐は乱れきった髪を振って
「もうやあっ! 痛くても良いからどうにかしてぇ……っ!」
 と泣き声を上げ、旭丸はせっかくたぐり寄せた理性の糸が頭の中でブツリと切れる音を聞いた。

「あぅっ……ぁっ、あ……」
 差し入れた三本の指でギリギリまで穴の縁を広げてから、ゆっくりと引き抜く。
 旭丸は汗で湿った髪が所々に張り付いた桂祐の背を見下ろして目を細めた。桂祐は小刻みに腰を震わせ、どこにも触れられていないのに、呼吸の度に微かな喘ぎを漏らしていた。
「よしすけ……こっち」
 肩に触れて促すと、桂祐は素直に仰向けになって脚の間に旭丸の身体を招き入れる。わななく内股が旭丸の腰を挟み、甘く蕩けた顔で背を引き寄せて口づけをねだる。

 旭丸は、求められていることが嬉しかった。今まではもらう事しかできなかったから、いくらでも与えてやりたかった。
「ん……んっ……」
 口づけに答えてやりながら、桂祐の内股を撫で、膝裏に手を掛けて脚を大きく開かせる。
「はあ……っ」
 一度口づけを解いてじっと目を見ると、桂祐は小さく喉を鳴らして頷いた。旭丸は己の陽物に手を添えて、桂祐の中へ押し込んでいく。
「ぅぁっ……あ、ぐっ~~~っ……」
 桂祐は顔を歪ませて苦しげな声を上げたが、太く張り出した部分が入り口の輪を抜ければ、後はズルズルと欲望を飲み込んだ。
 全てを中に納めると、桂祐は眉を寄せて短い息を繰り返した。
「はっ……はっ……あぁ……!」
 きつく閉じた眦から涙が零れて髪を濡らす。旭丸はすぐにでも動きたいのを押さえて、溢れた涙を舐め取り、ふっくりとした耳朶を甘く噛む。
「んっ」
 耳殻を舌で舐ってわざと音を立ててやると後孔がきゅうと締まる。旭丸は片手をそろりと桂祐の胸に下ろし、乳首を掠めて撫でた。
「あっ! あん!」
 桂祐が、快感を拾い慣れた胸への愛撫に敏感に反応して身を捩る。後ろに入ったものの角度が微妙に変わる。違和感と心地よさがない交ぜになった感覚に、一気に肌が粟立あわだった。
 旭丸が胸への愛撫を止めぬまま、ゆるゆると腰を動かしはじめる。
「うっ……くぅ……っん……」
 腹の底から得体の知れぬ快楽の波が立ち、腰を打ち付けられる度にそれが大きくなってきた。元々限界間近まで追い詰められていた桂祐は、あっという間に高みに登る。

 すり合わされる内側の皮膚が馴染むに従って、後孔の拒むような締め付けが縋り付くような甘いものに変わる。旭丸は滅茶苦茶に突き入れたいのを堪え、眉を寄せてゆっくりと抽挿を繰り返す。
 旭丸が一度大きく腰を引いてから中を穿つと、桂祐は堪えきれずに大きく背をのけぞらせ、張り詰めていたものから勢いよく精を溢れさせた。
「あーーーっ! あっう……っっ!」
「つっ……!」
 精を吐き出すと同時に桂祐の腹が小刻みに震え、内側もうねるように収縮を繰り返す。内壁に絞られる快感で、一旦腰を止めていた旭丸も達しかけたが、奥歯を噛んで衝動をやり過ごした。

「あ……ぁ……っ……ふ……」
 達したばかりの桂祐が、ぼんやりと焦点の合わない目を開くと、激しい情欲の炎を燃やした赤い瞳と至近距離でまともに目があった。
 腹の内に入り込んだものは勢いを保ったままだ。桂祐は一度果てて下がりかけた己の熱が、またすぐに上がるのを感じた。
 首を引き寄せ、怠い身体を浮かせて口づけると、噛みつくように口づけを返される。足を旭丸の腰に絡めると、膝裏に手をかけられて持ち上げられ、思い切り深く穿たれた。

「ぐぅっ……あっ、あぅっ! んぐっ!」
 拍子を取るように小刻みに奥ばかりを抉られ、苦しくて眉を寄せると、今度は浅い部分ばかりを責められてもどかしさに腰が揺れる。時折酷く感じる場所を突かれ、桂祐の口からは止めようもなく甘い嬌声が零れ続けた。
 揺さぶられ続けると次第にどこが好いのか分からなくなり、終いには何処を突かれても擦られても気持ち良くなってしまい、きつく閉じた瞼の裏で光が弾けた。
「……ふ、ああぁっ! あさひまる……あさひまるぅ……! あっ……またっいく……! いくっ!」
 広い背に腕を回して泣きながら訴えれば、
「私も……っ」
「ぁーー……っ」
 一際奥を抉られてピタリと胸を合わせられ、桂祐は掠れた声で長く啼いて再び果てた。
 みっちりと奥に埋めた肉を、蠕動ぜんどうしながら絡みつく内壁に締めつけられ、旭丸も低く呻きながら桂祐の中に激しく種を吐き出す。
 腹の中が熱いもので濡らされるのを感じ、桂祐は押し開かれて抱えられた足の指を丸めて、苦しいくらいの快感にひたすら耐えた。

 悦びの余韻は長かった。
 桂祐は、固さを失った旭丸が抜けていく感触にすら感じてしまい、甘い声を上げて全身を震わせる。
「あ……んん……っ」
「……そんな顔をされると、また欲しくなる」
 汗で湿った桂祐の髪を指で梳き、額に口づけた旭丸は困った顔をする。桂祐は喘ぎすぎて乾いた唇を舌で湿らせ、自分に覆い被さった男の頬を両手で挟んで微笑み、
「いくらでも……」
 と、口に吸い付いた。
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