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其の十五
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小鳥を放した後、しばらくして日が落ちた。
暗くなった外では、霙交じりの雨が降り出している。風も吹き荒れ、急激に気温が下がる。火のない室内が寒くなってきたのを察したように、小菊が火鉢を抱えて再び現れた。
テキパキと蔀を下ろして襖障子を閉めた小菊は、二階厨子から碁盤を出して桂祐を振り返り、
「お暇でしょうから、お相手して差し上げてと宮様から命じられました。陰陽師様は、碁をなさりますか?」
と期待に満ちた目をして問いかけてきた。
桂祐は旭丸の元気のないのが心配で碁を打つ気分ではなかったが、小菊の気遣いを無駄にするのも気か引けて、一勝負だけと断って石を並べることにした。
燭台の火しかない薄暗い室内で、小菊を相手に碁を打って時間を潰していると、遠くから低い轟きが聞こえてきた。嵐だ。雷鳴は段々と近づいてくる。
一度大きく空が震えると、小菊は耳を塞いで碁石を放り出し、側に伏せていた旭丸に縋りついた。
もう一度、今度はもっと近くで空を割るような音が鳴り響き、建物中がビリビリと震える。
それと共に襖障子が勢いよく倒れてきて、びしょ濡れの直衣に身を包んだ男が飛び込んできた。
「きゃぁっ!」
悲鳴を上げた小菊が袖で頭を覆って床にうち伏せ、うずくまっていた旭丸が飛び起きて侵入者を威嚇するように牙を剥く。
「陰陽師! なんとかしてくれ! 一枚しか無い衣が濡れてしまった!」
そう大声で訴えながら転がり込んできたのは、狐が化けた男だった。もとは上等だっただろう葡萄染の直衣は、所々ほつれ破れて泥で汚れ、上品な桜鼠の指貫も濡れて斑に泥灰色に変わってしまっている。豊かな金の髪はまとめて古びた烏帽子の中に押し込まれていたが、零れた毛が額にも首にも掛かって酷い有様だ。
「なんと。それで宮様の前に現れるつもりだったのか?」
「違う! 最初はきちんとしていたのだ、ただ古いものだから着ている途中で破れて……その上……」
『そのうえ雷に驚いて転げたか』
うずくまった旭丸が低く揶揄すると、狐の男は唸り声を上げて歯を剥き出した。人にしては鋭すぎる牙が男の口からはみ出すのを見た小菊が「ひっ!」と恐怖に引きつった声を上げる。
その声を聞いた狐はすぐに牙を収めて
「すまぬ……怖がらせる気は無いのだ」
と凜々しく太い眉を下げた。小菊は旭丸の後ろに隠れながらも、
「あの……、御直衣、柚乃様にお願いしたら綺麗にして下さいます。柚乃様はお裁縫がとてもお上手なので……泥が付いたところは綺麗にならないかも知れませんが……」
と怖々言った。
「それは有り難い! 夜が更けるまえに是非頼む」
喜色満面で帯を解き始めた狐を、桂祐は慌てて止める。
「馬鹿者! 小菊殿は童といえど女人だぞ!? その前でみだりに衣を脱ぐな!」
「何? 衣を脱いでも血肉が見えるわけで無し、たいしたことでは無いだろう」
「ある! 狐の姿で毛を刈られてもなんとも思わないのか?」
「それは大変な侮辱である」
「人も同じだ! 人前で衣を脱ぐのは恥なのだ!」
「フーム、成る程。ではこれなら良かろう」
ぽんと鼓の音がして男の姿は大狐に変じ、中身を失った直衣はくたりと床に落ちた。
「……本当に狐……!」
小菊は畏怖と興奮の入り交じった声で呟き、「柚乃様にお渡ししてきます!」と直衣を拾って小走りで奥へと消えていった。
屏風の脇に両前足を揃えて座った狐を前に、桂祐は額を押さえてぼやく。
「会っても良いと返事を貰ったからと言って、文より先に自身が来ることは礼儀に反するぞ、狐」
『狐、狐と無礼である。我には金琥稲荷と名があるのだ。金琥様と呼ぶが良い』
『社は無いのに?』
すかさず旭丸が混ぜ返すのに、金琥は牙を剥いて唸る。桂祐はその間に割って入り、
「止めてくれ。旭丸は何故そんなに金琥殿に失礼なことばかり言うんだ」
と犬の鼻先を掴んだ。旭丸は無言で目を反らして返事をしない。
「全く……いい加減にしてくれ……」
神獣二頭に挟まれた桂祐は珍しく脇息に肘をつき、本格的に痛くなってきた頭を腕に預けた。
金琥は大きな尾の毛を繕いながら旭丸を睨んで言う。
『犬、お主弱っているでは無いか。あまり長くそのままでいると消えてしまうぞ』
桂祐は慌てて脇息から身を起こし、
「そうなのか?」
と問う。
人間相手に知識をひけらかすのが大好きな金琥は、立派な胸毛に覆われた胸を張って大仰に頷いた。
『そうだ。私は元よりこの世に肉体のある狐だから社を失っても消えることは無いが、そこの犬は違う。神通力で無理矢理に実態を作っているのだ。何故そんな馬鹿なことをしているのか知らぬが、早々に戻らぬと取り返しが付かなくなるぞ』
「しかし、私が力を与えれば回復すると……」
桂祐の言葉を金琥は鼻で笑った。
『人如きにそんな力があるとでも? 人から貰う力など、小さな杯で舐める酒や菓子のようなものだ。口にすれば美味いし、一時は力も湧くが、それだけでは生きてゆけぬ』
「……そうなのか? 旭丸?」
『……そんなことはない。狐はいつでも法螺を吹く』
旭丸は桂祐の膝に伏せたまま物憂げに呟くが、狐はブルリと全身を震わせて抗議した。
『法螺なものか! 陰陽師よ。お主は大層な目を持っているのだろうが。己の使役するものの性質くらいしっかり見て承知しておけ。無知はいつか身を滅ぼすぞ』
真剣な声音で忠告した後は、金琥はもう興味を失ったように熱心に全身の毛繕いをし始めた。燭台の火が揺らめいて、狐の影が襖障子に写って踊る。目の前の狐の尾は一本なのに、影は九本写っていた。
化生の者はこの世の理を超え、人には分からぬ理のもとで生きている。
旭丸が嘘を吐いているとは思いたくないが、確かに宝珠に戻らなくなってから酷く弱っているように見えるのは事実だった。
安倍邸に戻ったらすぐに、無理矢理にでも旭丸を宝珠へと戻してやらねばならない。桂祐は大人しすぎる犬の背を撫でながら決意した。
同じ日の夕刻、安倍邸では、孝信の指示で旭丸の宝珠の捜索が行われていた。
桂祐はまだ二条堀川邸から戻っていない。
孝信は、あのヘタレな後輩が宮姫相手に何かしでかすとは思っていなかったが、後輩が連れている式神についてはあまり信用できないと感じている。
古今東西、動物が化けた男というのは好色だと相場が決まっているのだ。桂祐の式神が化けた男はえらく美男だった。向こうで女房相手にややこしいことをしでかす前に、宝珠を見つけ出して届けてやった方が良いだろう。
孝信は雑色と二人で手燭をかざして塗籠に入り、長櫃を一つ一つ開けて中を調べた。
櫃や箱を片っ端から覗いていくが、大した物は入っていない。そもそも男所帯で衣装や調度も多くはないから、探すところも少ないのだ。それなりの大きさの珠くらいすぐに見つけられるだろうと孝信は高をくくっていたが、式神の男は巧妙に隠したらしく、宝珠は中々見つからなかった。
業を煮やした孝信は、狭い物置に押し込められた荷物を全部引っ張り出して、隅々まで検めることにした。
まずは手前に置いてあった古い二階厨子を下人と二人で持ち上げる。すると奥に立てかけてあった背の高い屏風が倒れ、上から何かが落ちてきて孝信の足の甲をしたたかに打った。
「痛っ! こんな所に物を積んだのは誰だ! 危ないだろうが……」
ぼやきながら痛む足をさすると、床の上に手巾が落ちているのに気がつく。その手巾を通してほのかに光が漏れている。手を伸ばして薄い布を取り払うと、ほのかに輝く宝珠が姿を現した。
「あった、これだ! まったく、妙なところに隠しおって……」
孝信が床に転がっていた宝珠を掴んで塗籠から出ると、下人が桂祐の文机を指して声を上げた。
「孝信様、宝珠ってこれですかねえ?」
近づいてみると、質素な硯箱に並んで、桂祐の私物にしては高価そうな蒔絵の手文庫が置いてあり、中には孝信が見つけたのと同じような大きさの灰色に曇った珠が収まっていた。
孝信は灰色の珠を手に持って、朱金に輝く宝珠と見比べてみた。
大きさと重さは同じくらいだが、輝きが全く違う。しかし雑に押し込まれていたのと、高級そうな手文庫に収められていたもの、どちらが大切なのかは判断できない。
「おそらく輝いている方が本物だろうが……面倒だから二つまとめて届けよう。大した重さでもないしな」
孝信がそう言って、二つの珠をまとめて収めようと手文庫へ近づけた瞬間、バチン! と何かが弾けるような音がして、目が眩むほど眩しい光が室内を満たした。
肝を潰した孝信が尻餅をついて手を離した拍子に、二つの珠は引き合いながら回転し始め、空に浮かび上がる。
「な、なんだ、これは……!?」
二つの宝珠は次第に早く回り出し、中空で円を描いたまま静止した。
「おい、陰陽頭を呼んできてくれ!」
珠から目を離せないまま、孝信は下人に言いつける。現実ではあり得ない光景を目にして、腰を抜かしていた下人は、慌てて跳び上がり、邸の主人を呼びに氷雨に濡れる渡殿へと駆けだしていった。
暗くなった外では、霙交じりの雨が降り出している。風も吹き荒れ、急激に気温が下がる。火のない室内が寒くなってきたのを察したように、小菊が火鉢を抱えて再び現れた。
テキパキと蔀を下ろして襖障子を閉めた小菊は、二階厨子から碁盤を出して桂祐を振り返り、
「お暇でしょうから、お相手して差し上げてと宮様から命じられました。陰陽師様は、碁をなさりますか?」
と期待に満ちた目をして問いかけてきた。
桂祐は旭丸の元気のないのが心配で碁を打つ気分ではなかったが、小菊の気遣いを無駄にするのも気か引けて、一勝負だけと断って石を並べることにした。
燭台の火しかない薄暗い室内で、小菊を相手に碁を打って時間を潰していると、遠くから低い轟きが聞こえてきた。嵐だ。雷鳴は段々と近づいてくる。
一度大きく空が震えると、小菊は耳を塞いで碁石を放り出し、側に伏せていた旭丸に縋りついた。
もう一度、今度はもっと近くで空を割るような音が鳴り響き、建物中がビリビリと震える。
それと共に襖障子が勢いよく倒れてきて、びしょ濡れの直衣に身を包んだ男が飛び込んできた。
「きゃぁっ!」
悲鳴を上げた小菊が袖で頭を覆って床にうち伏せ、うずくまっていた旭丸が飛び起きて侵入者を威嚇するように牙を剥く。
「陰陽師! なんとかしてくれ! 一枚しか無い衣が濡れてしまった!」
そう大声で訴えながら転がり込んできたのは、狐が化けた男だった。もとは上等だっただろう葡萄染の直衣は、所々ほつれ破れて泥で汚れ、上品な桜鼠の指貫も濡れて斑に泥灰色に変わってしまっている。豊かな金の髪はまとめて古びた烏帽子の中に押し込まれていたが、零れた毛が額にも首にも掛かって酷い有様だ。
「なんと。それで宮様の前に現れるつもりだったのか?」
「違う! 最初はきちんとしていたのだ、ただ古いものだから着ている途中で破れて……その上……」
『そのうえ雷に驚いて転げたか』
うずくまった旭丸が低く揶揄すると、狐の男は唸り声を上げて歯を剥き出した。人にしては鋭すぎる牙が男の口からはみ出すのを見た小菊が「ひっ!」と恐怖に引きつった声を上げる。
その声を聞いた狐はすぐに牙を収めて
「すまぬ……怖がらせる気は無いのだ」
と凜々しく太い眉を下げた。小菊は旭丸の後ろに隠れながらも、
「あの……、御直衣、柚乃様にお願いしたら綺麗にして下さいます。柚乃様はお裁縫がとてもお上手なので……泥が付いたところは綺麗にならないかも知れませんが……」
と怖々言った。
「それは有り難い! 夜が更けるまえに是非頼む」
喜色満面で帯を解き始めた狐を、桂祐は慌てて止める。
「馬鹿者! 小菊殿は童といえど女人だぞ!? その前でみだりに衣を脱ぐな!」
「何? 衣を脱いでも血肉が見えるわけで無し、たいしたことでは無いだろう」
「ある! 狐の姿で毛を刈られてもなんとも思わないのか?」
「それは大変な侮辱である」
「人も同じだ! 人前で衣を脱ぐのは恥なのだ!」
「フーム、成る程。ではこれなら良かろう」
ぽんと鼓の音がして男の姿は大狐に変じ、中身を失った直衣はくたりと床に落ちた。
「……本当に狐……!」
小菊は畏怖と興奮の入り交じった声で呟き、「柚乃様にお渡ししてきます!」と直衣を拾って小走りで奥へと消えていった。
屏風の脇に両前足を揃えて座った狐を前に、桂祐は額を押さえてぼやく。
「会っても良いと返事を貰ったからと言って、文より先に自身が来ることは礼儀に反するぞ、狐」
『狐、狐と無礼である。我には金琥稲荷と名があるのだ。金琥様と呼ぶが良い』
『社は無いのに?』
すかさず旭丸が混ぜ返すのに、金琥は牙を剥いて唸る。桂祐はその間に割って入り、
「止めてくれ。旭丸は何故そんなに金琥殿に失礼なことばかり言うんだ」
と犬の鼻先を掴んだ。旭丸は無言で目を反らして返事をしない。
「全く……いい加減にしてくれ……」
神獣二頭に挟まれた桂祐は珍しく脇息に肘をつき、本格的に痛くなってきた頭を腕に預けた。
金琥は大きな尾の毛を繕いながら旭丸を睨んで言う。
『犬、お主弱っているでは無いか。あまり長くそのままでいると消えてしまうぞ』
桂祐は慌てて脇息から身を起こし、
「そうなのか?」
と問う。
人間相手に知識をひけらかすのが大好きな金琥は、立派な胸毛に覆われた胸を張って大仰に頷いた。
『そうだ。私は元よりこの世に肉体のある狐だから社を失っても消えることは無いが、そこの犬は違う。神通力で無理矢理に実態を作っているのだ。何故そんな馬鹿なことをしているのか知らぬが、早々に戻らぬと取り返しが付かなくなるぞ』
「しかし、私が力を与えれば回復すると……」
桂祐の言葉を金琥は鼻で笑った。
『人如きにそんな力があるとでも? 人から貰う力など、小さな杯で舐める酒や菓子のようなものだ。口にすれば美味いし、一時は力も湧くが、それだけでは生きてゆけぬ』
「……そうなのか? 旭丸?」
『……そんなことはない。狐はいつでも法螺を吹く』
旭丸は桂祐の膝に伏せたまま物憂げに呟くが、狐はブルリと全身を震わせて抗議した。
『法螺なものか! 陰陽師よ。お主は大層な目を持っているのだろうが。己の使役するものの性質くらいしっかり見て承知しておけ。無知はいつか身を滅ぼすぞ』
真剣な声音で忠告した後は、金琥はもう興味を失ったように熱心に全身の毛繕いをし始めた。燭台の火が揺らめいて、狐の影が襖障子に写って踊る。目の前の狐の尾は一本なのに、影は九本写っていた。
化生の者はこの世の理を超え、人には分からぬ理のもとで生きている。
旭丸が嘘を吐いているとは思いたくないが、確かに宝珠に戻らなくなってから酷く弱っているように見えるのは事実だった。
安倍邸に戻ったらすぐに、無理矢理にでも旭丸を宝珠へと戻してやらねばならない。桂祐は大人しすぎる犬の背を撫でながら決意した。
同じ日の夕刻、安倍邸では、孝信の指示で旭丸の宝珠の捜索が行われていた。
桂祐はまだ二条堀川邸から戻っていない。
孝信は、あのヘタレな後輩が宮姫相手に何かしでかすとは思っていなかったが、後輩が連れている式神についてはあまり信用できないと感じている。
古今東西、動物が化けた男というのは好色だと相場が決まっているのだ。桂祐の式神が化けた男はえらく美男だった。向こうで女房相手にややこしいことをしでかす前に、宝珠を見つけ出して届けてやった方が良いだろう。
孝信は雑色と二人で手燭をかざして塗籠に入り、長櫃を一つ一つ開けて中を調べた。
櫃や箱を片っ端から覗いていくが、大した物は入っていない。そもそも男所帯で衣装や調度も多くはないから、探すところも少ないのだ。それなりの大きさの珠くらいすぐに見つけられるだろうと孝信は高をくくっていたが、式神の男は巧妙に隠したらしく、宝珠は中々見つからなかった。
業を煮やした孝信は、狭い物置に押し込められた荷物を全部引っ張り出して、隅々まで検めることにした。
まずは手前に置いてあった古い二階厨子を下人と二人で持ち上げる。すると奥に立てかけてあった背の高い屏風が倒れ、上から何かが落ちてきて孝信の足の甲をしたたかに打った。
「痛っ! こんな所に物を積んだのは誰だ! 危ないだろうが……」
ぼやきながら痛む足をさすると、床の上に手巾が落ちているのに気がつく。その手巾を通してほのかに光が漏れている。手を伸ばして薄い布を取り払うと、ほのかに輝く宝珠が姿を現した。
「あった、これだ! まったく、妙なところに隠しおって……」
孝信が床に転がっていた宝珠を掴んで塗籠から出ると、下人が桂祐の文机を指して声を上げた。
「孝信様、宝珠ってこれですかねえ?」
近づいてみると、質素な硯箱に並んで、桂祐の私物にしては高価そうな蒔絵の手文庫が置いてあり、中には孝信が見つけたのと同じような大きさの灰色に曇った珠が収まっていた。
孝信は灰色の珠を手に持って、朱金に輝く宝珠と見比べてみた。
大きさと重さは同じくらいだが、輝きが全く違う。しかし雑に押し込まれていたのと、高級そうな手文庫に収められていたもの、どちらが大切なのかは判断できない。
「おそらく輝いている方が本物だろうが……面倒だから二つまとめて届けよう。大した重さでもないしな」
孝信がそう言って、二つの珠をまとめて収めようと手文庫へ近づけた瞬間、バチン! と何かが弾けるような音がして、目が眩むほど眩しい光が室内を満たした。
肝を潰した孝信が尻餅をついて手を離した拍子に、二つの珠は引き合いながら回転し始め、空に浮かび上がる。
「な、なんだ、これは……!?」
二つの宝珠は次第に早く回り出し、中空で円を描いたまま静止した。
「おい、陰陽頭を呼んできてくれ!」
珠から目を離せないまま、孝信は下人に言いつける。現実ではあり得ない光景を目にして、腰を抜かしていた下人は、慌てて跳び上がり、邸の主人を呼びに氷雨に濡れる渡殿へと駆けだしていった。
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