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其の五 ※

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 ガタンと激しく牛車が揺れて、頭を柱に打ち付けた桂祐はハッと目を覚ました。
「到着しましたよ~」
 外から牛飼童の長閑な声がして、桂祐は慌てて床に落ちた烏帽子を拾う。裂かれた上に旭丸に踏みつけられてひしゃげた烏帽子を被ったところで、下ろした髪を隠すことはできそうもないが、何も無いよりはマシだ。
「宝珠はどこへやった? 大人しく珠の中へ戻れ、旭丸」
「いやだ」
 桂祐の命をアッサリ断った旭丸は、前御簾を跳ね上げて身軽に牛車から飛び降りた。外で雑色の驚く声がして、桂祐は頭を抱える。
 説明が面倒なので、ここでは旭丸は桂祐の式神ということにしてあるのだ。旭丸が何かすれば、それは全部桂祐の命令でやったことになる。
 面倒をおこさなければいいが、と願いつつ、丸出しの頭を浄衣の袖で覆って車を降りようとすると、いきなり上から布を被せられた。
「わっ! なんだ!?」
 被せられたのは女物のうちぎで、被せてきたのは旭丸だ。
「何をする!? どこからこれを持ってきた!?」
「そこの部屋にいた女に借りた。髪を下ろしているのを見られたらいけないんだろう?」
 髪を下ろしたまま外に出るのと、女物を被って出るの、どちらがひどい恥かは悩ましいところだが、旭丸は善意でやってくれたのだろう。桂祐は喉まで出かかった文句をグッと堪え、なるべく目立たないよう身体を小さくして車を降りた。


 人目に触れないように早足で室内に入り込む。間借りさせてもらっている安倍の邸の一室で、襖障子を閉め切ってようやく一息ついた桂祐は、
「髪を乱すのはやめて欲しいと何度も言ったじゃないか!」
 と、目の前に座った旭丸を叱責した。
 旭丸は上目遣いにじっと桂祐を見上げたまま、黙っている。不満げなその顔に気圧されて、桂祐はそっと目線を逸らした。
 桂祐は仕事をこなすために旭丸を式神だと偽り、自分が旭丸を使役しているように見せかけているが、実際の所、力関係はほぼ対等だ。桂祐が仕事を頼み、旭丸が了承した上で働く。旭丸が働きに対して報償を欲しがれば、桂祐が承知の上で与える。そういう関係なのだ。

「今晩、あれを斬るのに力が要る」
 急に耳元で囁かれ、桂祐がギクリと背を強ばらせて振り返ると、直ぐ目の前に旭丸の赤い目があった。
「……さっき、やった……」
「足りない」
 耳元にかかる旭丸の息が熱い。

 足りぬと言われれば差し出すしかない。目を閉じて口を開くと、待っていたように噛みつかれた。
 顎を掴まれ、口の中を好き放題に蹂躙される。一息ごとにのし掛かる力が強くなってくる。顎に添えられた童子の柔らかな小さい手が、骨の太い青年の手になっていくのが分かった。
 息苦しくて背を後ろに反らすと、ようやく口を解放される。お互い薄く開いたままの唇の間に、唾液が細く糸を引く。
 のし掛かっている旭丸は、先ほどまでの童子姿ではなく、桂祐と同じくらいの年かさの青年になっていた。身につけた衣は、身体に合わせて蘇芳香の直衣のうしに替わっていた。姿が変わるのを目の当たりにするのは初めてではないが、見る度にギョッとする。

 美々しい公達に変わってしまった旭丸を前に呆然としていると、浄衣の襟紐をほどかれ、強引に内着の襟元から手を差し入れられた。文句を言おうと口を開くと、待っていたように舌を差し入れられた。幼子の短い舌では届かなかった上顎の裏を舐められ、桂祐は身体を震わせる。
「やめてくれ。もう足りただろう……」
 首元に舌を這わせる旭丸を押しとどめると、
「全く足りぬ」
 と返され、腰帯を素早く解かれた。
「いいや、足りてるはずだぞ。その証拠に大人の身体になっているではないか!」
「身体だけ大人になっても、霊力が満ちていなければ妖異は切れない」
「では外で日の光でも浴びるか、賀茂の水でも飲んでくれば良い」
「桂祐は、いつもつれないことばかり言う。光や水より、桂祐の身の内で余っているものをくれれば良い」
 下腹を撫でられ、桂祐は頬に血が上るのを自覚した。普段から激務続きで通う女の家もなければ遊び女を買う金もない。欲を吐き出す機会のない身体は、口づけだけで緩く反応してしまっている。

「……なるべく早く済ませてくれ」
 諦めたように桂祐が言うと、許しを得たと旭丸は嬉しげに笑い、遠慮の無くなった手を衣の下へと潜り込ませた。

 呼び出した旭丸に精気を分ける行為に、色事めいた意図がつき始めたのはいつからだったか。
 桂祐は羞恥で熱くなる頬を腕で隠しながら思い出そうとするが、記憶を探ってみても定かにはならない。最初からそうだったような気もするし、桂祐が年頃になってからのような気もする。ここ最近は仕事の都合で呼び出す機会が増えたせいか、より一層濃い接触を強いられている気がするのは、多分気のせいではない。

「あっ! や、っ……そこは関係ないだろう……」
 内着の前を大きくはだけられ、米粒のような乳首をしつこく舐られて、桂祐は旭丸の頭を両手で押して抵抗する。
「でも悦んでる」
「よろこんでなど……!」
 抗議を無視して胸乳に口をつけたまま、旭丸は片手を下へと滑らせ、衣の隙間から手のひらを差し込んで、桂祐の下腹に触れた。立ち上がった陽物の先端へ直に触れると、溢れ始めた蜜のせいで濡れた音が立つ。数度軽く手を上下に動かせば、桂祐は背を反らせて眉を寄せた。腰が浮いた隙に、背中側で結ばれた指貫の紐を解いて邪魔な布を取り払ってしまう。足を開かせて間に身体を入れると、桂祐は赤くなった顔を背けた。
「……っ!」
 旭丸は満足げな笑みを浮かべ、先ほどとは逆の胸乳に唇を付けた。吸いながら舌を押しつけ、膨れた粒を潰すようにすると、握ったものが熱さを増して微かに震える。
「も、もう……胸、止めてくれ……」
 懇願する甘い声に頬を緩めた旭丸は、単の襟を大きく開けながら唇を下へと滑らせた。薄い腹を一舐めし、臍に舌を差し入れると、桂祐の腰が震える。それを両腕で抱き込んで、足の間で立ち上がったものを口に含んだ。
「ぁー……っ!」
 一度喉の奥まで深く咥えて締め付け、裏の筋に舌を強く押しつけながら唇を上下させると、桂祐が腰を捩って逃げようとする。しかし、尻ごと旭丸の腕に抱え込まれているので動けない。旭丸が容赦なく口で責め立てると、桂祐は鼻にかかった泣き声を上げた。
「や! それ、イヤだ……! や! もう……」
 旭丸は口での愛撫を止めぬまま片手で桂祐の陽物の根元を押さえ、精が吹き出るのを堰き止める。出口を失った快感に身を焼かれる桂祐は、背をしならせて切ない声を上げた。
「はぅ……あぁっ……! あさひまる、出したい……! 離して……!」
 腰を押さえる旭丸の腕を引き剥がそうとするものの、過ぎた快楽で力の入らない手では逆に縋っているような有様だ。

 旭丸はヒクつく陰茎から口を離して伸び上がり、桂祐のきつく閉じられた目尻から零れた涙を舐める。そして根元を戒める手は離さないまま半身を起こし、組み敷いた相手の様子をつぶさに眺めた。
 桂祐は時折身体を震わせながら、目を閉じて息を喘がせている。膨れきって腹に付いている陰茎からは、止めどなく蜜が零れ、根元をいましめる旭丸の指を濡らして会陰を伝い、尻まで垂れている。短い呼吸の度に、平らな胸から僅かに筋の浮いた白い腹が波打つのが美しく、淫猥だった。

 旭丸は空いた手で桂祐の片脚を掴んで肩に掛けさせ、尻の窄まりに触れた。濡れた菊座の皺を伸ばすように、微妙な力を込めて指先で円を描く。
「それは駄目だ、旭丸!」
 桂祐は慌てて後ろに肘をついて上体を起こし、うわずった声を上げた。旭丸は手を止め、じっと桂祐の目をのぞき込んでくる。優しい金赤に光る旭丸の目には、純粋な疑問が浮かんでいた。
「なぜ?」
 問われた桂祐は思わず目を伏せてしまう。
「よしすけ、なぜ……?」
 旭丸は桂祐の額に己の額を付け、息がかかるほどの間近で重ねて問うてくる。
「桂祐は私に糧を与えてくれる。私も桂祐に与えたい。何故受け取ってくれない?」
 旭丸は凜々しい眉を下げて言う。桂祐は弱々しく首を左右に振った。
「私は、お前から糧をもらわなくても生きていける……務めを手伝ってくれるだけで十分だから……」
「務めがなければ桂祐は私を呼んでくれない。何故?」
「何故って……」
 呼び出せばこういうこと・・・・・・をされるからだと桂祐は思ったが、機嫌を損ねて今夜の務めを投げ出されたら困るので、神妙な顔で適当な理由を捏ねておく。
「用もないのに龍神様の化身を呼び出すなんて、畏れ多くてできない」
「私はいつでもお前の側にいたい。畏れて欲しくない。昔は桂祐も私を畏れたりしていなかった」
「でもこちらの世界で姿を保つのに力を使うんだろう? 無理はさせたくない。必要な時に出てきてくれるだけで十分だから……」
 いつになく食い下がる旭丸を黙らせるため、桂祐は赤い癖毛に覆われた頭をそっと引き寄せた。

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