28 / 28
21.愛人契約
しおりを挟む
暗い雰囲気で俯く二人の元に、今度はムディクがやってくる。
「ハディ! お待たせして申し訳ない! ウムトは今、来客で身体が空かないので、私がお相手しても構わないかな?」
向かいに座ったムディクは、二人の返事を聞く前に侍童を呼んで茶のおかわりを持ってくるよう言いつける。
「オレは茶はもう良いよ。用は済んだから帰らせてもらう」
レムリが立ち上がろうとすると、
「いや! いてくださいよ! 楽士殿の雇い主はあなたでしょ」
ムディクは慌ててそれを押しとどめた。
「正式に雇ってるわけじゃない。ウムトが拾ってきたのを預かってるだけだし、アイツがラウズィムまで連れて行きたいって言うんなら、好きにすれば良い」
「薄情だなあ。楽士殿は構わないんですか? 降誕祭に出席すれば一月近くこちらには戻れませんし、おそらく戻ってきたらすぐに暗黒海へ船出ことになりますよ。なかなかの強行軍になりますが……」
気遣うように問われたオティアンは、ニコリと笑って
「私は構いません。見た目より頑丈ですから、お気遣いなく。そちらこそ私のような得体の知れない者を都に連れていって、何か問題になったりはしませんか?」
と首を傾げる。ムディクは侍童が持ってきた茶と菓子を三人に配り、
「同行者が一人増えるくらいはなんともありません。ただまあ、その……好奇の目で見られるのは覚悟しておいて頂いたほうが良いですが……」
と言葉を濁す。オティアンとレムリは顔を無言で見合わせた。
「好奇の目? 顔の傷や髪の色ですか?」
「いえ、それもあるかもしれませんが、ウムトが翼下の君を側に置くのは初めてなので……噂はされると思います」
「翼下の君?」
オティアンが首を傾げると、ムディクは神妙な顔で
「愛人のことです」
と答えた。
「あいじん」
思いがけない言葉を、オティアンはなんとも言えない顔で繰り返す。レムリは思わず吹き出しそうになって口元を押さえた。
「あれ? 違います? 呆けた顔で朝帰りしたウムトが、急に楽士殿を皇都に連れて行きたい、道中ずっと身近にいられるよう手配してくれと言って聞かないから、てっきりそういうことになったんだと思ったんですけど……。違うんですか?」
「いえ、単に皇都に一緒に来て欲しいと誘われて、私も都を見てみたいので了承しただけです」
オティアンが苦笑しつつ答えると、ムディクは困ったように眉を下げた。
「おぉ……そうだったんですか。すみません、私の早とちりだったようだ」
「良いじゃねえか、オティアン。似合うぜ、愛人!」
「うるさい」
腹を抱えてヒーヒー笑うレムリに、オティアンは肘鉄を食らわせる。
ムディクは二人を見ながらしばらく考え込み、
「楽士殿がもしもご不快でなければ、なんですけど……皇都への旅の間だけ、ウムトの愛人役を務めていただけませんか?」
と真剣な顔で提案した。レムリはますます爆笑する。
「レムリ、静かにしてくれ。どうしてそうおっしゃるんですか?」
オティアンが問いかけると、ムディクは深刻げに身を乗り出し、
「ウムトが無駄にご婦人に人気があるからです」
と答えた。
「大変なんですよ! 毎度毎度、宮殿に入った途端、侍女やら姫やらご令嬢方にまとわりつかれて! ウムトは気が優しいから突き放せなせないし、いちいち追い払うのが本当に大変で……!! 立場上、ウムトは正式な妻を持てませんから、群がってくるのは火遊びの相手を探してる非常識な女性か、利権目当ての父やら兄にそそのかされた女性ばかりです。そんなのに閨に忍び込まれでもしたら、面倒なことになる。私は殿下と同衾するわけにもいきませんから、宮殿ではヒヤヒヤしっぱなしなんです。ウムトは色仕掛けに引っかかるような性格ではありませんが、姫君が裸で忍んできたらおしまいですからね……」
ムディクは早口にまくし立て、オティアンを歓迎するように両手を広げた。
「しかし、今年は決まった愛人を連れて来てる、しかもそれがあなたのような麗しい男性だとなれば、よっぽど度胸のある者しかかかって来なくなるはず!」
そう言って興奮したように立ち上がり、
「ラウズィム広しといえど、楽士殿に張り合えるような者は見つからないでしょう。お顔の傷は問題にはならない。あなたが愛人役を引き受けてくだされば、角を立てずに女性達を追い払えます! 楽士殿には心労をおかけするかもしれませんが、ぜひ愛人ということにさせて頂きたい!」
と、勢いよく頭を下げた。
「良かったな! 囲われて楽したいって言ってただろ。お望み通りじゃねえか」
レムリは笑いをかみ殺しながらオティアンの脇腹をつつく。オティアンは複雑な顔をしてレムリを睨んだ。
「それはここへ来たばかりの時だろ? もう言葉は覚えたし金も稼げるようになったから、囲い者になる気はないよ。それに、同性の愛人は認められるのか? 結婚は男女間でしかできないと聞いたけど」
「おっしゃるとおり、アマジヤで法的に認められるのは男女の婚姻だけです。しかし、同性同士の関係が白眼視されることはありませんよ」
ムディクがすかさずフォローする。
「そもそも、小皇子の翼下の君は、普通の側女や妾とは意味合いが違います。アミラートゥトは子をなしてはいけない立場ですから、同性の愛人はむしろ歓迎されます。翼下の君は儀礼や祭祀などの公の場には出られませんが、私的な席では殿下の隣に座ることになりますし、まったく軽蔑される立場ではありません。国からのお手当も出ますよ!」
「はあ……なるほど……。詳しいご説明をどうもありがとうございます」
「いえいえ、とんでもない! お引き受けいただけて、助かります! 私もウムトも本当に困っていたので!」
ムディクはオティアンの曖昧な返事を肯定と受け取って、喜色満面で何度も頭を下げた。
「良かったな、オティアン! ウムトの奥方様として旅を楽しんで来いよ!」
レムリは笑いすぎて目に涙を浮かべつつ、オティアンの背を叩く。
「いや、まだその話を受けると決めたわけでは……」
オティアンがモゴモゴと口ごもっていると、息せき切った様子のウムトが姿を見せた。
「遅くなってごめん! ……何? みんなで楽しそうに何の話をしてたの?」
笑い転げるレムリと、小躍りせんばかりのムディク、微妙に顔を引きつらせているオティアンを見比べ、ウムトはきょとんと首を傾げる。
「楽士殿にあなたの愛人になって頂こうという話をしていたんです。ありがたいことに、楽士殿は快諾してくださいましたよ!」
ムディク弾んだ声で報告されて、ウムトは目を丸くしてオティアンへ顔を向ける。オティアンは
「いや、快諾はしてない。事情は分かったから、都へ連れて行ってもらう代わりに、愛人役を引き受けるのはやぶさかではないけども……君はそれでいいのか?」
と歯切れ悪く言った。ウムトはぱっとムディクの方を振り向き、
「ムディク! オレに断りなく何の話をしてるんだ!?」
と声を荒げたが、ムディクは飄々と肩をすくめて言い返す。
「でもお供の一人として連れて行く気ではなかったでしょ? 怪しい男を手元に置いて厚遇してるって噂になるよりは、麗しい男の愛人を作ったって言っておいた方が変な目で見られずに済みますよ。女除けにもなりますし」
「なんて言い草だ! オティアン、断ってくれ。普通に招待客の一人として同行すれば良いんだ。それに、オレと一緒に宮殿に入れば危ない目に遭うかもしれない」
「危ない目? なぜ?」
「暗殺の可能性がある」
ウムトが一言で答えたのを、ムディクが補足した。
「皇都にいるフズル皇太子殿下からしたら、ウムトは鼻先のニキビみたいな存在なんです。あっても命取りにはならないが、触られれば痛いしうっとうしい。できれば取り除いてしまいたい。皇太子妃殿下も、別の理由でウムトを排除したがっています。万が一、現皇帝陛下の存命中にフズル殿下が命を落とすようなことがあれば、陛下の一存でウムトが皇太子に指名される可能性も完全にゼロではないので。他にも、ファナの血が皇室に入り込んでいるのをよく思っていない一派もいますし、フズル殿下ご自身がファナ排斥派ですからね。姫君方が送り込まれてくるのも、色事と暗殺、どちらが真の目的か分からない部分はあります」
「だから、宮殿には入らない方が良い。宿も別に用意させるし案内役も付けるから、オレとは別行動で、自由に都の観光を楽しんでくれればいいよ」
ウムトがそう言うと、レムリが横から口を挟む。
「だったら最初から、お前とは無関係の一般人として物見遊山に出かける方が良いだろ。旅人を狙う強盗程度にやられる程、オティアンはマヌケじゃないしな」
ムディクもそれに同意した。
「レムリの言うとおりです。楽士殿がアナタと関係が深い人物だと周囲に知られれば、目の届かないところでトラブルに巻き込まれる可能性もある。それなら、翼下の君として側に置いた方が安心ですよ」
二人から同時に突っ込まれて、ウムトは言葉に詰まって口をへの字に引き結んだ。オティアンは立ったままだったウムトの手を引いて隣に腰掛けさせ、
「どうせ都へ行くなら宮殿の中にも入ってみたい。君が嫌じゃなければ、愛人役を引き受けるよ」
と微笑む。ウムトは
「本当にそんなつもりじゃなかったんだけど……」
と頭を抱えたが、
「でも一緒にいてほしいんだろ?」
と顔をのぞき込まれ、降参するようにうなだれた。
「うん……」
「では、そういうことで! 旅路で必要になる物はすべてこちらで用意しますから、手回り品だけまとめておいてください。皇都へ出発するのは五日後の昼過ぎです。出発日にはレムリの宿までお迎えに参りますよ」
ムディクはテキパキと話をまとめにかかる。
「期間限定の愛人として、どうぞよろしくお願いいたしますね、殿下」
オティアンがわざとらしくしおらしい様子で頭を下げると、ウムトはなんとも言えない顔をした。
「ハディ! お待たせして申し訳ない! ウムトは今、来客で身体が空かないので、私がお相手しても構わないかな?」
向かいに座ったムディクは、二人の返事を聞く前に侍童を呼んで茶のおかわりを持ってくるよう言いつける。
「オレは茶はもう良いよ。用は済んだから帰らせてもらう」
レムリが立ち上がろうとすると、
「いや! いてくださいよ! 楽士殿の雇い主はあなたでしょ」
ムディクは慌ててそれを押しとどめた。
「正式に雇ってるわけじゃない。ウムトが拾ってきたのを預かってるだけだし、アイツがラウズィムまで連れて行きたいって言うんなら、好きにすれば良い」
「薄情だなあ。楽士殿は構わないんですか? 降誕祭に出席すれば一月近くこちらには戻れませんし、おそらく戻ってきたらすぐに暗黒海へ船出ことになりますよ。なかなかの強行軍になりますが……」
気遣うように問われたオティアンは、ニコリと笑って
「私は構いません。見た目より頑丈ですから、お気遣いなく。そちらこそ私のような得体の知れない者を都に連れていって、何か問題になったりはしませんか?」
と首を傾げる。ムディクは侍童が持ってきた茶と菓子を三人に配り、
「同行者が一人増えるくらいはなんともありません。ただまあ、その……好奇の目で見られるのは覚悟しておいて頂いたほうが良いですが……」
と言葉を濁す。オティアンとレムリは顔を無言で見合わせた。
「好奇の目? 顔の傷や髪の色ですか?」
「いえ、それもあるかもしれませんが、ウムトが翼下の君を側に置くのは初めてなので……噂はされると思います」
「翼下の君?」
オティアンが首を傾げると、ムディクは神妙な顔で
「愛人のことです」
と答えた。
「あいじん」
思いがけない言葉を、オティアンはなんとも言えない顔で繰り返す。レムリは思わず吹き出しそうになって口元を押さえた。
「あれ? 違います? 呆けた顔で朝帰りしたウムトが、急に楽士殿を皇都に連れて行きたい、道中ずっと身近にいられるよう手配してくれと言って聞かないから、てっきりそういうことになったんだと思ったんですけど……。違うんですか?」
「いえ、単に皇都に一緒に来て欲しいと誘われて、私も都を見てみたいので了承しただけです」
オティアンが苦笑しつつ答えると、ムディクは困ったように眉を下げた。
「おぉ……そうだったんですか。すみません、私の早とちりだったようだ」
「良いじゃねえか、オティアン。似合うぜ、愛人!」
「うるさい」
腹を抱えてヒーヒー笑うレムリに、オティアンは肘鉄を食らわせる。
ムディクは二人を見ながらしばらく考え込み、
「楽士殿がもしもご不快でなければ、なんですけど……皇都への旅の間だけ、ウムトの愛人役を務めていただけませんか?」
と真剣な顔で提案した。レムリはますます爆笑する。
「レムリ、静かにしてくれ。どうしてそうおっしゃるんですか?」
オティアンが問いかけると、ムディクは深刻げに身を乗り出し、
「ウムトが無駄にご婦人に人気があるからです」
と答えた。
「大変なんですよ! 毎度毎度、宮殿に入った途端、侍女やら姫やらご令嬢方にまとわりつかれて! ウムトは気が優しいから突き放せなせないし、いちいち追い払うのが本当に大変で……!! 立場上、ウムトは正式な妻を持てませんから、群がってくるのは火遊びの相手を探してる非常識な女性か、利権目当ての父やら兄にそそのかされた女性ばかりです。そんなのに閨に忍び込まれでもしたら、面倒なことになる。私は殿下と同衾するわけにもいきませんから、宮殿ではヒヤヒヤしっぱなしなんです。ウムトは色仕掛けに引っかかるような性格ではありませんが、姫君が裸で忍んできたらおしまいですからね……」
ムディクは早口にまくし立て、オティアンを歓迎するように両手を広げた。
「しかし、今年は決まった愛人を連れて来てる、しかもそれがあなたのような麗しい男性だとなれば、よっぽど度胸のある者しかかかって来なくなるはず!」
そう言って興奮したように立ち上がり、
「ラウズィム広しといえど、楽士殿に張り合えるような者は見つからないでしょう。お顔の傷は問題にはならない。あなたが愛人役を引き受けてくだされば、角を立てずに女性達を追い払えます! 楽士殿には心労をおかけするかもしれませんが、ぜひ愛人ということにさせて頂きたい!」
と、勢いよく頭を下げた。
「良かったな! 囲われて楽したいって言ってただろ。お望み通りじゃねえか」
レムリは笑いをかみ殺しながらオティアンの脇腹をつつく。オティアンは複雑な顔をしてレムリを睨んだ。
「それはここへ来たばかりの時だろ? もう言葉は覚えたし金も稼げるようになったから、囲い者になる気はないよ。それに、同性の愛人は認められるのか? 結婚は男女間でしかできないと聞いたけど」
「おっしゃるとおり、アマジヤで法的に認められるのは男女の婚姻だけです。しかし、同性同士の関係が白眼視されることはありませんよ」
ムディクがすかさずフォローする。
「そもそも、小皇子の翼下の君は、普通の側女や妾とは意味合いが違います。アミラートゥトは子をなしてはいけない立場ですから、同性の愛人はむしろ歓迎されます。翼下の君は儀礼や祭祀などの公の場には出られませんが、私的な席では殿下の隣に座ることになりますし、まったく軽蔑される立場ではありません。国からのお手当も出ますよ!」
「はあ……なるほど……。詳しいご説明をどうもありがとうございます」
「いえいえ、とんでもない! お引き受けいただけて、助かります! 私もウムトも本当に困っていたので!」
ムディクはオティアンの曖昧な返事を肯定と受け取って、喜色満面で何度も頭を下げた。
「良かったな、オティアン! ウムトの奥方様として旅を楽しんで来いよ!」
レムリは笑いすぎて目に涙を浮かべつつ、オティアンの背を叩く。
「いや、まだその話を受けると決めたわけでは……」
オティアンがモゴモゴと口ごもっていると、息せき切った様子のウムトが姿を見せた。
「遅くなってごめん! ……何? みんなで楽しそうに何の話をしてたの?」
笑い転げるレムリと、小躍りせんばかりのムディク、微妙に顔を引きつらせているオティアンを見比べ、ウムトはきょとんと首を傾げる。
「楽士殿にあなたの愛人になって頂こうという話をしていたんです。ありがたいことに、楽士殿は快諾してくださいましたよ!」
ムディク弾んだ声で報告されて、ウムトは目を丸くしてオティアンへ顔を向ける。オティアンは
「いや、快諾はしてない。事情は分かったから、都へ連れて行ってもらう代わりに、愛人役を引き受けるのはやぶさかではないけども……君はそれでいいのか?」
と歯切れ悪く言った。ウムトはぱっとムディクの方を振り向き、
「ムディク! オレに断りなく何の話をしてるんだ!?」
と声を荒げたが、ムディクは飄々と肩をすくめて言い返す。
「でもお供の一人として連れて行く気ではなかったでしょ? 怪しい男を手元に置いて厚遇してるって噂になるよりは、麗しい男の愛人を作ったって言っておいた方が変な目で見られずに済みますよ。女除けにもなりますし」
「なんて言い草だ! オティアン、断ってくれ。普通に招待客の一人として同行すれば良いんだ。それに、オレと一緒に宮殿に入れば危ない目に遭うかもしれない」
「危ない目? なぜ?」
「暗殺の可能性がある」
ウムトが一言で答えたのを、ムディクが補足した。
「皇都にいるフズル皇太子殿下からしたら、ウムトは鼻先のニキビみたいな存在なんです。あっても命取りにはならないが、触られれば痛いしうっとうしい。できれば取り除いてしまいたい。皇太子妃殿下も、別の理由でウムトを排除したがっています。万が一、現皇帝陛下の存命中にフズル殿下が命を落とすようなことがあれば、陛下の一存でウムトが皇太子に指名される可能性も完全にゼロではないので。他にも、ファナの血が皇室に入り込んでいるのをよく思っていない一派もいますし、フズル殿下ご自身がファナ排斥派ですからね。姫君方が送り込まれてくるのも、色事と暗殺、どちらが真の目的か分からない部分はあります」
「だから、宮殿には入らない方が良い。宿も別に用意させるし案内役も付けるから、オレとは別行動で、自由に都の観光を楽しんでくれればいいよ」
ウムトがそう言うと、レムリが横から口を挟む。
「だったら最初から、お前とは無関係の一般人として物見遊山に出かける方が良いだろ。旅人を狙う強盗程度にやられる程、オティアンはマヌケじゃないしな」
ムディクもそれに同意した。
「レムリの言うとおりです。楽士殿がアナタと関係が深い人物だと周囲に知られれば、目の届かないところでトラブルに巻き込まれる可能性もある。それなら、翼下の君として側に置いた方が安心ですよ」
二人から同時に突っ込まれて、ウムトは言葉に詰まって口をへの字に引き結んだ。オティアンは立ったままだったウムトの手を引いて隣に腰掛けさせ、
「どうせ都へ行くなら宮殿の中にも入ってみたい。君が嫌じゃなければ、愛人役を引き受けるよ」
と微笑む。ウムトは
「本当にそんなつもりじゃなかったんだけど……」
と頭を抱えたが、
「でも一緒にいてほしいんだろ?」
と顔をのぞき込まれ、降参するようにうなだれた。
「うん……」
「では、そういうことで! 旅路で必要になる物はすべてこちらで用意しますから、手回り品だけまとめておいてください。皇都へ出発するのは五日後の昼過ぎです。出発日にはレムリの宿までお迎えに参りますよ」
ムディクはテキパキと話をまとめにかかる。
「期間限定の愛人として、どうぞよろしくお願いいたしますね、殿下」
オティアンがわざとらしくしおらしい様子で頭を下げると、ウムトはなんとも言えない顔をした。
40
お気に入りに追加
51
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続編ありがとうございます!!!
これから読み進めます。
オティアン頑張って生きて(泣)
Ayaoriさん、続編に気づいてくださってありがとうございます!
オティアン異境で頑張ってますw 最後は幸せになる…はずです!
前作からのファンで、オティアンの話が読めると知り、Kindleで前後半番外編をもう一度読み返してからこちらを一気読みしました!まだまだ途中かと思いますが、すでに夢中で早く先が読みたくて仕方ありません!幸せになってオティアン…。ますます楽しみです。更新を楽しみにして待ちます!
だふさん、感想ありがとうございます!前作も読み返して頂けて嬉しいです〜!
連載を楽しんで頂けているようで、安心しました〜。オティアンが幸せになるように頑張って最後まで書きたいと思います!
ネネさん、感想ありがとうございます!読んでいただけて嬉しいです!オティアン幸せにしてあげたいので頑張ります😊
結構長い話になる予定で、途中でカレルとアキオも出てきます✨