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6.願い事
6-6. 明かされる真実.2
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「……最初は、混ざり者の力を得るために、ファタリタ人との混血の子どもができないかを試しました……。友好的だったノルポルの人を命願教に誘って、石を飲んだ後、交わった。ノルポルでも出生数が減っていたから、混血でも子どもを望む人は多かったのです。でも上手くはいかなかった。父と母、どちらがノルポル人でも数日で死んでしまう短命の子しか生まれなかった……」
オティアンが鋭く舌打ちし、怒りを紛らわせるように祭壇を蹴り飛ばした。
「聞けば聞くほどクソじゃねえか!」
花や供物が辺りに散乱し、積まれた滅石が器ごと湖に沈む。フィオレラは怯えたようにビクリと身体を揺らしたけど、気丈に顔を上げて話を続けた。
「ひどい話なのは分かっています。さらに悪いことに、当時の聖女はノルポルでの失敗を隠して、エラストにも話を持ちかけました。
エラスト人との混血では、偶に生き残る子どももありました。それがマイアリーノたち……。でも、従順なだけで、ひ弱な彼女たちは歓迎されなかった。エラストの方は子を引き取ろうとしたけれど、誕生の秘蹟に関わった混ざり者の方たちが、次々倒れ始めたのです。
混ざり者の魂は、ファタリタの命の石と合わなかった。石を飲んだ人達は、自分の意思を失って生きたまま屍のようになって……。私たちは手を尽くして彼らを元に戻そうとした……その途中で……」
フィオレラはそれ以上は言葉にできない様子で、口元を震わせた。
思ってたよりずっとひどい話に、オレはなんだか目眩がしてきて、思わず両手で頭を押さえて髪を握りしめた。信じたくないけど、痛みがこれが現実なんだと教えてくれる。
「つまり、大聖堂はずっと協力してくれてた混ざり者の人達を、人体実験に使ってたってこと? 兵士が必要だからって、誕生の秘儀に関わって廃人になった彼らの身体に、更に滅石を埋めて操り人形にした? それがあの黒い騎士たち? あんまり酷すぎるだろ……! なんで止めなかったんだよ! あなたが一番偉いんだろ!?」
オレはフィオレラの細い腕を掴んで詰め寄った。
「私が位を継いだのはほんの数年前よ! 全ては先代聖女と、教主達の思惑だった。代替わりしてからは、全ての計画を止めるよう何度も言ったわ! だけど、過去の過ちは取り消せない。全てを公表してしまえば、大聖堂の権威は地に落ちる。神の死もすぐそこまで迫ってる。私は、どうしていいか分からなかった……!」
フィオレラは両手で顔を覆って叫ぶ。
「知られたくなかったの! 誰にも! ルチアーノにも!」
「全員クソだな。もういい、もう聞きたくない。オレはオレの気の済むように片をつける。アキオ、お前はその忌々しい石で願いを叶えるなりなんなり好きにすれば良い」
オティアンが表情の消えた顔でゆっくりと歩み寄ってくる。もう彼を止める言葉は無いように思えた。大聖堂側がやったことを取り繕うことはできない。
オレはフィオレラを後ろに庇って立ち上がったけど、胸ぐらを掴まれていとも簡単に湖へと投げ飛ばされた。
水面に叩き付けられた衝撃の後、凍るように冷たい水が全身を刺す。湖は思ったより深くて底に足が立たない。必死に顔だけ上げて岸辺へ目を向けると、オティアンは足元に落ちていた命願石を湖に蹴り込み、抵抗するフィオレラの喉へと両手を掛けていた。
「や……」
やめろ、と言いたくて口を開くと、喉に水が流れ込んできた。水をかいて岸へ近づこうとしても、冷たさで身体が麻痺してまともに動けない。
岸から見ていたときの湖面は全く静かだったのに、底の方には潮流があるようで、オレの自由にならない身体は段々深みへと引きずり込まれ始めた。
───もう駄目かも……
口からも鼻からも水を吸ってしまって、目の前が暗くなる。
最後に残った意識の隅で、地響きと共に獣が咆吼するような声を聞いた。
オティアンが鋭く舌打ちし、怒りを紛らわせるように祭壇を蹴り飛ばした。
「聞けば聞くほどクソじゃねえか!」
花や供物が辺りに散乱し、積まれた滅石が器ごと湖に沈む。フィオレラは怯えたようにビクリと身体を揺らしたけど、気丈に顔を上げて話を続けた。
「ひどい話なのは分かっています。さらに悪いことに、当時の聖女はノルポルでの失敗を隠して、エラストにも話を持ちかけました。
エラスト人との混血では、偶に生き残る子どももありました。それがマイアリーノたち……。でも、従順なだけで、ひ弱な彼女たちは歓迎されなかった。エラストの方は子を引き取ろうとしたけれど、誕生の秘蹟に関わった混ざり者の方たちが、次々倒れ始めたのです。
混ざり者の魂は、ファタリタの命の石と合わなかった。石を飲んだ人達は、自分の意思を失って生きたまま屍のようになって……。私たちは手を尽くして彼らを元に戻そうとした……その途中で……」
フィオレラはそれ以上は言葉にできない様子で、口元を震わせた。
思ってたよりずっとひどい話に、オレはなんだか目眩がしてきて、思わず両手で頭を押さえて髪を握りしめた。信じたくないけど、痛みがこれが現実なんだと教えてくれる。
「つまり、大聖堂はずっと協力してくれてた混ざり者の人達を、人体実験に使ってたってこと? 兵士が必要だからって、誕生の秘儀に関わって廃人になった彼らの身体に、更に滅石を埋めて操り人形にした? それがあの黒い騎士たち? あんまり酷すぎるだろ……! なんで止めなかったんだよ! あなたが一番偉いんだろ!?」
オレはフィオレラの細い腕を掴んで詰め寄った。
「私が位を継いだのはほんの数年前よ! 全ては先代聖女と、教主達の思惑だった。代替わりしてからは、全ての計画を止めるよう何度も言ったわ! だけど、過去の過ちは取り消せない。全てを公表してしまえば、大聖堂の権威は地に落ちる。神の死もすぐそこまで迫ってる。私は、どうしていいか分からなかった……!」
フィオレラは両手で顔を覆って叫ぶ。
「知られたくなかったの! 誰にも! ルチアーノにも!」
「全員クソだな。もういい、もう聞きたくない。オレはオレの気の済むように片をつける。アキオ、お前はその忌々しい石で願いを叶えるなりなんなり好きにすれば良い」
オティアンが表情の消えた顔でゆっくりと歩み寄ってくる。もう彼を止める言葉は無いように思えた。大聖堂側がやったことを取り繕うことはできない。
オレはフィオレラを後ろに庇って立ち上がったけど、胸ぐらを掴まれていとも簡単に湖へと投げ飛ばされた。
水面に叩き付けられた衝撃の後、凍るように冷たい水が全身を刺す。湖は思ったより深くて底に足が立たない。必死に顔だけ上げて岸辺へ目を向けると、オティアンは足元に落ちていた命願石を湖に蹴り込み、抵抗するフィオレラの喉へと両手を掛けていた。
「や……」
やめろ、と言いたくて口を開くと、喉に水が流れ込んできた。水をかいて岸へ近づこうとしても、冷たさで身体が麻痺してまともに動けない。
岸から見ていたときの湖面は全く静かだったのに、底の方には潮流があるようで、オレの自由にならない身体は段々深みへと引きずり込まれ始めた。
───もう駄目かも……
口からも鼻からも水を吸ってしまって、目の前が暗くなる。
最後に残った意識の隅で、地響きと共に獣が咆吼するような声を聞いた。
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