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3.モブと愉快な仲間たち、東へ
3-14. 新しい仲間.3
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翌朝は明け方に目が覚めた。寒くて眠っていられなかったんだ。
オティアンはオレに背を向けて丸くなり、まだ眠っているようだ。ルチアーノとマイアリーノも目を覚ます気配がない。
焚き火はすっかり小さくなって、消えかかっている。薪のストックは尽きている。オレは仕方なく起き上がって外套の前をしっかりと閉じ、寒さに震えながら外へ出た。
外はまだ薄暗い。朝日の上りきらない空の下、うっすらと積もった雪が青白く光っている。
「そりゃ寒いはずだよ……」
思わず溜息をこぼすと、目の前が蒸気で真っ白に曇った。両手を擦り合わせながら、廃屋の周りを歩き回って乾いていそうな枯枝を拾う。
裏に回ると、かろうじて屋根だけ残った厩か倉庫が建っていて、馬とオティアンの持ち物らしき荷車が止めてあった。昨日は暗くてよく見えなかったけど、荷車には防水布で包まれた箱らしきものが積み上げられ、荷物全体を覆うように更に蝋引きの布が掛けられていた。空いた場所に商売用の簡易テントの部品や、細々したものが突っ込まれているのが見える。
荷車を眺め回していると、背後で石垣を踏み越える音がした。振り返ると、片手に弓と獲物の小鳥をぶら下げたカレルがこっちに向かってくるところだった。
「お、おはよ。それ、カレルが獲ったんだ?」
オレはできるだけさりげなく話しかけたけど、内心はとっても気まずい。昨日の今日で、どういう態度で接すれば良いのか良く分かんない。
カレルは朝日に顔を照らされて眩しそうに目を細めている。
「ああ……アキオも早いな」
「寒くて寝てられなかったんだよ。夜の間、雪が降ってたんだね」
「ああ」
カレルはほとんどオレの方を見ないまま、石垣に座って小鳥の羽をむしり始める。
昨日までなら気軽に「手伝わせて」って言えたはずなのに、今日はなんだかその一言が言い出せず、オレは小枝を抱えて逃げるように廃屋の中へと飛び込んだ。
中ではルチアーノが起き上がっていた。顔色は青白く、具合が悪そうで、マイアリーノが心配そうに彼の背中をさすっている。
オティアンは暢気に欠伸をしながら、毛皮のラグをしまっているところだった。
「やあ、追加の薪が来た。有り難い」
オティアンはオレの持ってきた枯枝を勢いの衰えた火にくべて、その上に水の入った鍋を載せる。火をおこし直すのを手伝っていると、ルチアーノが具合の悪そうな顔でオレを睨んだ。
「おい……アキオ、どういうことか説明しろ……そいつは盗人だぞ……」
「オティアンは商人だよ。盗人じゃない」
「まっとうな商人は、死人の持ち物を売りさばいたりしない……死者の資産は、国に返されるべきだ」
オティアンは、それを鼻で笑う。
「ここが滅んだのは少なくとも百年は昔ですよ。それだけ長い間放置しておいて、今更国の物だと言われましても。あなた方が捨ておいた物の中から、私が手間をかけて価値のある物を見つけだして、ファタリタ人に返してるんですよ。私は手間賃代わりに対価を頂く。そこに何の問題が? 感謝されても良いくらいです」
肩をすくめるオティアンを、ルチアーノは忌々しげに睨み付けた。
「屁理屈を言う……私が復職した暁には、お前の行商権を剥奪してやるぞ、この盗人」
「ああイヤだイヤだ。これだから権力の側にいる人間は嫌いなんだ。お好きになされば良いですよ。それまで無事にいられれば、ですが」
睨み合う二人の間に火花が散る。
「やめなよ~。ルチアーノは国よりフィオレラを選ぶんだろ? だったらオティアンが盗人でも何でも、関係ないじゃん」
オレが間に割って入ると、
「アキオ! お前は善良なファタリタ国民としての自覚が足りなさすぎる!」
ルチアーノは今度はオレに噛みついてくる。オレはそれを完全に無視した。
「そんなことより、さっさと次はどうするのかを決めなきゃ」
「それは既に決まっている。坑道に入って滅石を探す。それが目的でここへ来たんだろうが」
呆れたように言われ、オレは彼が昨日の出来事に全く関わっていなかったことをようやく思い出した。
「あ、報告し忘れてたけど、それはもう終わったんだ。ルチアーノがここで倒れてる間に、色々あって地下聖堂が見つかって、滅石は回収し終わってる」
荷物の中から包みを取り出すと、溢れそうになっている滅石を見たルチアーノは、口をあんぐりと開けて目を瞬かせた。
「こんなに……?」
「探せばまだあると思うし、過去の記録とか重要っぽい資料もいっぱいあった。けど、もう一度あそこへ行けるとは思えない。かなり地下の深い場所なんだ。坑道が崩落する可能性も高いし、そうなったら二度と出られない。昨日は……偶然、運良く脱出できてラッキーだったけど……」
アレをラッキーというのなら、だけど。
ルチアーノは首を左右に振りながら、滅石をしっかりと包み直した。
「これだけ回収できたなら、危険を冒す必要は無いだろう。予定通り南へ向かった方がいい」
オレは正直、坑道に入るのはもう二度とゴメンだと思っていたので、ルチアーノがアッサリそう言ってくれたので安心した。マイアリーノもホッとした表情を浮かべている。
「皆さんも南へ行かれるんですか?」
話が一段落するタイミングを計っていたように、オティアンが鍋から汲んだ茶をオレたちに差し出し、愛想良く質問してきた。
ルチアーノはそれを無視したけど、オティアンは気にせず続ける。
「実は私も南へ向かう途中でして……冬の間はサウラスで過ごすと決めているんです。旅は道連れと言いますし、ご一緒しても?」
ルチアーノは即座に「断る」と差し出されたお茶ごと断ったけど、オティアンは懲りずにコップをルチアーノの前に置き、
「ここから南の聖堂への道をご存じなんですか? 山を越えていくのは、かなりの悪路だ。これからの季節は雪も降る。道案内が一人いれば、旅路は随分楽になりますよ」
と、自分のコップに鍋から茶を汲み、上手そうにすすった。オレも入れてもらったお茶が冷めないうちに口をつける。少し甘みのついたスパイシーな味がして、一気に身体が温まった。
「私たちの道案内をしてお前に何の得がある?」
「なあに、勝ち馬に乗ろうとしているだけです。一番多く滅石を集めた巡礼には、富と名誉が与えられるんでしょう? 金を手に入れたら使いたくなるのが人というものですからね。未来の富豪に貸しを作れるなら、道案内くらい安いものです。どうせ同じ目的地へ行くなら、人数は多い方が私も安全だ」
「……全く信用できんな」
「まあ朝飯を食べる間にゆっくり相談してください。どちらにせよ、私は今日中に南へ向けて出発しますし」
オティアンは肩をすくめて言い、水を汲みに行くと外へ出ていった。
商人が出て行った後、オレたち三人は顔をつきあわせて話し合いを始めた。まずはオレが手を挙げて口火を切る。
「オレは、オティアンと一緒で良いと思う。食えないヤツだけど、親切だ。それに、オティアンの荷車にはテントが積んであったよ。テントに入れて貰えたら、野営も楽になるだろ?」
「アキオは少し人を疑うことを覚えろ。アイツは昨日、盗みをやめろと近づいた私を問答無用で殴りつけて昏倒させたんだぞ。信用できるものか!」
「殴られたんだ? でも殺されはしなかったわけだし……。マイアリーノはどう思う?」
「私、あの人は好きじゃない。何か隠してる気がする」
マイアリーノはパサパサに乾いたパンをお茶に浸して食べながら、いーっと歯を剥き出した。オレは昨夜オティアンとカレルが話していたことを思い出し、ちょっと胃の辺りが重くなるのを感じる。
確かにオティアンはただの商人じゃない。多分、同行を申し出たのも、何か商売以外の思惑があるのだろうとは思う。
「でも目的地が同じなんだし、別で行くのもおかしくない? ルチアーノは道を知ってるの?」
「知らん。しかし聖都からサウラスへの道は知っている。一度聖都へ戻れば……」
「それは遠回りだよ。行きと同じルートで戻ったら、小聖堂で新しく石を稼ぐこともできないし。それならオティアンと行った方が効率が良い」
「……カレルはどうした? アイツはオティアンとやらを信用するのか」
腕組みをして不機嫌そうなルチアーノに言われ、オレはカレルが戻ってきていないことを今更のように思い出した。
ルチアーノは、普段はカレルのことを下に見てる態度を隠さないけど、大事な時には無視しない。そういうところが、若くして出世した理由なのかもな。
「外にいたから、呼んでくるよ」
オレは楽することしか頭になかった自分をちょっと恥ずかしく思いつつt、カレルを呼びに立ち上がった。
傾いた扉を開けて外へ出ると、少し離れた木立のところでカレルとオティアンが顔を寄せ合って話をしているのが見えた。
カレルは、オレが見たことのないような硬く鋭い表情をしている。オティアンも、いつもの飄々とした振る舞いからは想像のできない真剣な顔で、真剣に話し込んでいる様子だ。
オレの胃はまた少し重くなった。
カレルにはオレの知らない面がある。
オレと一緒に居る時のカレルは、優しくて頼りになって、真面目で、意外と面白いところもある良い仲間だけど、彼の本来の目的は「故郷の救済」だ。オレは全く関係がない。
多分、カレルと目的が近いのはオティアンの方だ。
カレルは今のところ何故かオレに恩を感じてるみたいで一緒にいてくれるけど、エラストがファタリタと対立すると決まったら、彼はオレより故郷を取るだろう。そうなったら、腕力も知力も地位も財産も何もないオレが、カレルを手助けすることは到底できない。サヨナラする日がいつか来る。
───最初から分かってたことだけど、リアルに想像すると結構キツイ
声を掛けづらくて扉の側で棒立ちしていると、カレルがふと目を上げてオレに気付いて表情を緩ませた。
「アキオ、どうした?」
「あ、えっと、これからどう動くかみんなで相談してて、ルチアーノがカレルの意見も聞きたいって言うから……」
「分かった」
こっちへ歩き出すカレルの背に向けて、オティアンが厳しい口調で言い立てる。
「態度を決めるなら早くするべきだ! 復讐と融和を同時に行うことはできない」
カレルはそれを聞いて後ろをちょっと振り返り、
「今はまだ、判断材料が足りてない。全てはサウラスの状況次第だ」
と言い捨て、オレの方へと駆けてきた。
オティアンはオレに背を向けて丸くなり、まだ眠っているようだ。ルチアーノとマイアリーノも目を覚ます気配がない。
焚き火はすっかり小さくなって、消えかかっている。薪のストックは尽きている。オレは仕方なく起き上がって外套の前をしっかりと閉じ、寒さに震えながら外へ出た。
外はまだ薄暗い。朝日の上りきらない空の下、うっすらと積もった雪が青白く光っている。
「そりゃ寒いはずだよ……」
思わず溜息をこぼすと、目の前が蒸気で真っ白に曇った。両手を擦り合わせながら、廃屋の周りを歩き回って乾いていそうな枯枝を拾う。
裏に回ると、かろうじて屋根だけ残った厩か倉庫が建っていて、馬とオティアンの持ち物らしき荷車が止めてあった。昨日は暗くてよく見えなかったけど、荷車には防水布で包まれた箱らしきものが積み上げられ、荷物全体を覆うように更に蝋引きの布が掛けられていた。空いた場所に商売用の簡易テントの部品や、細々したものが突っ込まれているのが見える。
荷車を眺め回していると、背後で石垣を踏み越える音がした。振り返ると、片手に弓と獲物の小鳥をぶら下げたカレルがこっちに向かってくるところだった。
「お、おはよ。それ、カレルが獲ったんだ?」
オレはできるだけさりげなく話しかけたけど、内心はとっても気まずい。昨日の今日で、どういう態度で接すれば良いのか良く分かんない。
カレルは朝日に顔を照らされて眩しそうに目を細めている。
「ああ……アキオも早いな」
「寒くて寝てられなかったんだよ。夜の間、雪が降ってたんだね」
「ああ」
カレルはほとんどオレの方を見ないまま、石垣に座って小鳥の羽をむしり始める。
昨日までなら気軽に「手伝わせて」って言えたはずなのに、今日はなんだかその一言が言い出せず、オレは小枝を抱えて逃げるように廃屋の中へと飛び込んだ。
中ではルチアーノが起き上がっていた。顔色は青白く、具合が悪そうで、マイアリーノが心配そうに彼の背中をさすっている。
オティアンは暢気に欠伸をしながら、毛皮のラグをしまっているところだった。
「やあ、追加の薪が来た。有り難い」
オティアンはオレの持ってきた枯枝を勢いの衰えた火にくべて、その上に水の入った鍋を載せる。火をおこし直すのを手伝っていると、ルチアーノが具合の悪そうな顔でオレを睨んだ。
「おい……アキオ、どういうことか説明しろ……そいつは盗人だぞ……」
「オティアンは商人だよ。盗人じゃない」
「まっとうな商人は、死人の持ち物を売りさばいたりしない……死者の資産は、国に返されるべきだ」
オティアンは、それを鼻で笑う。
「ここが滅んだのは少なくとも百年は昔ですよ。それだけ長い間放置しておいて、今更国の物だと言われましても。あなた方が捨ておいた物の中から、私が手間をかけて価値のある物を見つけだして、ファタリタ人に返してるんですよ。私は手間賃代わりに対価を頂く。そこに何の問題が? 感謝されても良いくらいです」
肩をすくめるオティアンを、ルチアーノは忌々しげに睨み付けた。
「屁理屈を言う……私が復職した暁には、お前の行商権を剥奪してやるぞ、この盗人」
「ああイヤだイヤだ。これだから権力の側にいる人間は嫌いなんだ。お好きになされば良いですよ。それまで無事にいられれば、ですが」
睨み合う二人の間に火花が散る。
「やめなよ~。ルチアーノは国よりフィオレラを選ぶんだろ? だったらオティアンが盗人でも何でも、関係ないじゃん」
オレが間に割って入ると、
「アキオ! お前は善良なファタリタ国民としての自覚が足りなさすぎる!」
ルチアーノは今度はオレに噛みついてくる。オレはそれを完全に無視した。
「そんなことより、さっさと次はどうするのかを決めなきゃ」
「それは既に決まっている。坑道に入って滅石を探す。それが目的でここへ来たんだろうが」
呆れたように言われ、オレは彼が昨日の出来事に全く関わっていなかったことをようやく思い出した。
「あ、報告し忘れてたけど、それはもう終わったんだ。ルチアーノがここで倒れてる間に、色々あって地下聖堂が見つかって、滅石は回収し終わってる」
荷物の中から包みを取り出すと、溢れそうになっている滅石を見たルチアーノは、口をあんぐりと開けて目を瞬かせた。
「こんなに……?」
「探せばまだあると思うし、過去の記録とか重要っぽい資料もいっぱいあった。けど、もう一度あそこへ行けるとは思えない。かなり地下の深い場所なんだ。坑道が崩落する可能性も高いし、そうなったら二度と出られない。昨日は……偶然、運良く脱出できてラッキーだったけど……」
アレをラッキーというのなら、だけど。
ルチアーノは首を左右に振りながら、滅石をしっかりと包み直した。
「これだけ回収できたなら、危険を冒す必要は無いだろう。予定通り南へ向かった方がいい」
オレは正直、坑道に入るのはもう二度とゴメンだと思っていたので、ルチアーノがアッサリそう言ってくれたので安心した。マイアリーノもホッとした表情を浮かべている。
「皆さんも南へ行かれるんですか?」
話が一段落するタイミングを計っていたように、オティアンが鍋から汲んだ茶をオレたちに差し出し、愛想良く質問してきた。
ルチアーノはそれを無視したけど、オティアンは気にせず続ける。
「実は私も南へ向かう途中でして……冬の間はサウラスで過ごすと決めているんです。旅は道連れと言いますし、ご一緒しても?」
ルチアーノは即座に「断る」と差し出されたお茶ごと断ったけど、オティアンは懲りずにコップをルチアーノの前に置き、
「ここから南の聖堂への道をご存じなんですか? 山を越えていくのは、かなりの悪路だ。これからの季節は雪も降る。道案内が一人いれば、旅路は随分楽になりますよ」
と、自分のコップに鍋から茶を汲み、上手そうにすすった。オレも入れてもらったお茶が冷めないうちに口をつける。少し甘みのついたスパイシーな味がして、一気に身体が温まった。
「私たちの道案内をしてお前に何の得がある?」
「なあに、勝ち馬に乗ろうとしているだけです。一番多く滅石を集めた巡礼には、富と名誉が与えられるんでしょう? 金を手に入れたら使いたくなるのが人というものですからね。未来の富豪に貸しを作れるなら、道案内くらい安いものです。どうせ同じ目的地へ行くなら、人数は多い方が私も安全だ」
「……全く信用できんな」
「まあ朝飯を食べる間にゆっくり相談してください。どちらにせよ、私は今日中に南へ向けて出発しますし」
オティアンは肩をすくめて言い、水を汲みに行くと外へ出ていった。
商人が出て行った後、オレたち三人は顔をつきあわせて話し合いを始めた。まずはオレが手を挙げて口火を切る。
「オレは、オティアンと一緒で良いと思う。食えないヤツだけど、親切だ。それに、オティアンの荷車にはテントが積んであったよ。テントに入れて貰えたら、野営も楽になるだろ?」
「アキオは少し人を疑うことを覚えろ。アイツは昨日、盗みをやめろと近づいた私を問答無用で殴りつけて昏倒させたんだぞ。信用できるものか!」
「殴られたんだ? でも殺されはしなかったわけだし……。マイアリーノはどう思う?」
「私、あの人は好きじゃない。何か隠してる気がする」
マイアリーノはパサパサに乾いたパンをお茶に浸して食べながら、いーっと歯を剥き出した。オレは昨夜オティアンとカレルが話していたことを思い出し、ちょっと胃の辺りが重くなるのを感じる。
確かにオティアンはただの商人じゃない。多分、同行を申し出たのも、何か商売以外の思惑があるのだろうとは思う。
「でも目的地が同じなんだし、別で行くのもおかしくない? ルチアーノは道を知ってるの?」
「知らん。しかし聖都からサウラスへの道は知っている。一度聖都へ戻れば……」
「それは遠回りだよ。行きと同じルートで戻ったら、小聖堂で新しく石を稼ぐこともできないし。それならオティアンと行った方が効率が良い」
「……カレルはどうした? アイツはオティアンとやらを信用するのか」
腕組みをして不機嫌そうなルチアーノに言われ、オレはカレルが戻ってきていないことを今更のように思い出した。
ルチアーノは、普段はカレルのことを下に見てる態度を隠さないけど、大事な時には無視しない。そういうところが、若くして出世した理由なのかもな。
「外にいたから、呼んでくるよ」
オレは楽することしか頭になかった自分をちょっと恥ずかしく思いつつt、カレルを呼びに立ち上がった。
傾いた扉を開けて外へ出ると、少し離れた木立のところでカレルとオティアンが顔を寄せ合って話をしているのが見えた。
カレルは、オレが見たことのないような硬く鋭い表情をしている。オティアンも、いつもの飄々とした振る舞いからは想像のできない真剣な顔で、真剣に話し込んでいる様子だ。
オレの胃はまた少し重くなった。
カレルにはオレの知らない面がある。
オレと一緒に居る時のカレルは、優しくて頼りになって、真面目で、意外と面白いところもある良い仲間だけど、彼の本来の目的は「故郷の救済」だ。オレは全く関係がない。
多分、カレルと目的が近いのはオティアンの方だ。
カレルは今のところ何故かオレに恩を感じてるみたいで一緒にいてくれるけど、エラストがファタリタと対立すると決まったら、彼はオレより故郷を取るだろう。そうなったら、腕力も知力も地位も財産も何もないオレが、カレルを手助けすることは到底できない。サヨナラする日がいつか来る。
───最初から分かってたことだけど、リアルに想像すると結構キツイ
声を掛けづらくて扉の側で棒立ちしていると、カレルがふと目を上げてオレに気付いて表情を緩ませた。
「アキオ、どうした?」
「あ、えっと、これからどう動くかみんなで相談してて、ルチアーノがカレルの意見も聞きたいって言うから……」
「分かった」
こっちへ歩き出すカレルの背に向けて、オティアンが厳しい口調で言い立てる。
「態度を決めるなら早くするべきだ! 復讐と融和を同時に行うことはできない」
カレルはそれを聞いて後ろをちょっと振り返り、
「今はまだ、判断材料が足りてない。全てはサウラスの状況次第だ」
と言い捨て、オレの方へと駆けてきた。
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