エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし

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3.モブと愉快な仲間たち、東へ

3-10.地下に眠る神2 ※

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「ここにいる三人全員、生きたまま無事に外に出して欲しい!」

 腹をくくってそう叫ぶと、さざ波のような声が四方から聞こえた。笑っているように思えるのは気のせいだろうか。

『祈れ……───』

 光はまだ消えない。

「祈れって……??」

 オレはオロオロと膝を折り、両手を組んでお祈りのポーズをした。……けども、状況は変わらない。

「違う? こう? こっち?」

 手を合掌に変えたり、上半身を投げ出して礼拝してみたり、五体投地してみても、何も起きない。

「アキオ? そこにいるのか?」

 やけくそで踊りながら「出してくれ~、ここから出たい~」と唱えていると、思い切り何かに顔からぶつかってしまう。

「わぶっ……!」

 ぶつけた鼻柱を擦りつつ顔を上げると、目の前にカレルが立っていた。

「わあっ!?」

 急にあんまり近くに現れたもんだから、びっくりして尻もちをついた途端、またどこかから声がした。


『祈れ……───』

「祈ってるだろ!? 早く外に出してくれって! これ以上どうしろってんだよ!?」

 腹立ち紛れに声を荒げると、姿の見えないマイアリーノが外から声を掛けてきた。

「お祈りは、二人でするの」

 目の前にはカレルが困った顔で立っている。オレは神様とやらの意図を察して全身の血の気が引くのを感じた。

「いや、ムリだろ! ま、マイアリーノ、君もこっち来てよ~!」

 ケモでもいい! せめて女の子が良い!
 オレは光の外へ向かって闇雲に手を伸ばしたけど、指先は空をかくばかり。

「アキオ? どこ? 私、光をすり抜けてしまう……」

 マイアリーノの声はすぐ側から聞こえるのに、右から聞こえたかと思えば左に移動する。彼女はこの光の中に入れないんだ。
 嫌な予感に震えながらカレルの顔を見ると、めちゃくちゃ気まずそうに視線を逸らされた。


「な、なんでこうなっちゃうの……?」

 オレは脱力のあまり地面に両手をついてしまった。

 せっかくエロゲの世界に来たのに、オレにちんちんはついてないし、仲間の女の子は半ケモだけだし、エッチなイベントは全部男相手に発生する……!
 オレが一体何をしたって言うんだ!?

「すまん、オレが先にお前に触れたからかもしれん……」

 カレルが項垂れて謝る。

「いや、カレルのせいじゃないよ。悪いのは全部悪趣味な命願教のせいだから!」

 とはいえ、このお願い受付タイムがいつまで続くかも分からないし、二人でどうにかしなきゃいけないんだ。

「とにかく、で、できることからやってみよう!」

 気まずさMAXの状況で、オレたちはまず声を揃えてお願い事を言ってみることにした。

「「ここにいる三人全員、生きたまま無事に外に出して欲しい」」

 ……何も起こらない。はい、残念でした。

 次は手を繋いで言ってみたけどムリ、ハグしてもムリ。

 軽くお互いの背中に腕を回し合った状態で、カレルは気まずそうにボソボソと

「……嫌なら言ってくれ」

 と呟く。

「そっちこそ、嫌なら言ってよ」

 オレは早口で言って、一度深呼吸してからギュッと目を瞑り、タコみたいに唇を付きだして伸び上がった。

 目を瞑っていたせいで目測を誤って、オレのチューはカレルの顎に着地する。

「あ、ごめ……」

 伸び始めの髭のチクチクした感触が唇に当たったのに気付いて目を開けると、カレルの苦笑が頬にかかった。ハグしていた手がオレの背中を撫で上げて後頭部を引き寄せる。怯む間もなく、ガッチリホールドされた上でキスされた。

 オレが目を白黒させていると、触れただけの唇はすぐに離れていく。
 その後、願い事を唱えた声はバラバラで、当然何にも起こらない。

 もう一度、今度はもう少し深い口づけ。下唇を咥えて引っ張られて、舌でそっと舐められ、オレは思わず引き結んでいた唇を開いた。

「……ん、」
 温かく濡れた舌が前歯の間をすり抜けてくる。舌先を合わせると、どっと唾液が湧くのが分かった。舌を絡められると気持ち良くて頭の芯がぼうっとする。

 実はカレルとキスするのは初めてじゃないし、前の方がもっとエラいことになってたんだけど、あの時は正気じゃなかったから、と言い訳ができた。
 正気じゃなかったから気持ち良かったんだと思いたかったんだけど、全然正気の今でも十分気持ち良くて、オレは混乱した。

 短い呼吸に息苦しさが募ってカレルの胸を拳で叩くと、口づけがほどかれた。離れる瞬間、濡れた唇同士が擦れる感覚に背筋が粟立つ。

「願いは……?」
 額をくっつけたまま、カレルが低い声で囁く。長いまつげの奥、いつもは明るい若草色の目が、深い緑になって揺れていた。
 オレの心臓はどんどん早く打ち始める。

「あ、外に……三人揃って無事に外に出たい……」

「……そうだな、無事に外へ……」

 耳元で囁かないで欲しいと切実に思った。
 これでもまだお願い条件クリアにはならないらしい。

───クッソ! 性格の悪いエロゲの神め!

 オレは内心で悪態をつきまくりながら、カレルの腕から逃げ出して、重たい外套を肩から外し、分厚い生地の上着を乱暴に脱ぎ捨てて下着代わりのシャツ一枚になった。ちょっとまだシャツとズボンを脱ぐ決意はできてない。

「カレルも脱げよっ!」

 恥ずかしいのを誤魔化すために、カレルの腹めがけてへなちょこパンチを繰り出すと、握った拳を捕らえられて手の甲に口づけられた。

「ひえっ……」

 あまりのイケメン仕草に引いてる俺を横目に、カレルは胴着のベルトを外して早々にシャツも脱ぐ。褐色の肌が渦巻く強い光に照らされて、彫刻みたいな筋肉の凹凸がクッキリと浮かぶ。
 同性の上裸でしかないのに、まともに見られない。
 俯いていると、両手を引き寄せられて抱きしめられた。ぴったり合わさった胸から、早い鼓動が伝わり合う。

───オレ、物心ついて以来、誰かと裸で抱き合うのはコレが初めてなんですけど。

 別に結婚するまで純潔を守らなきゃとか微塵も思ってないし、両思いの彼女とじゃ無きゃ嫌だってわけでもないんだけど、せめて性別が女の人が良かったな……。

 カレルは優しいし、良い奴だし、頼りになるし、楽しい仲間としては普通に大好きだけど、エッチなことに関しては対象外というか?
 それはまた別問題じゃない?

 でもキスに抵抗はないし、触られても別に嫌じゃない。
 じゃあセックスもべつに大丈夫? ホントに??

 血が上って混乱した頭でゴチャゴチャ考えていると、脱いだ外套の上に押し倒された。
 何度もキスされて、勝手に息が上がってしまう。あご先から首筋に唇が滑ってきて、頸動脈の辺りを甘噛みされて、オレは思わず肩をすくめてカレルの両腕を掴んだ。

「大丈夫だ、噛み切ったりしない」

 笑い含みに耳を軽く噛まれて、オレは恥ずかしさで死にたくなった。 

 表情を見られたくなくて、カレルの肩口に顔を埋めると、肌が強く香ってクラクラする。助けてもらう度に側にある香りだ。嗅ぐと安心するんだけど、今はちょっと違って感じられる。

 カレルはなだめるみたいに髪に何度もキスを落とし、オレの脇腹をゆっくり撫でる。撫でられた場所がじんわり熱を持つ。息苦しくなって顎を上げて口を開けると、待ち構えていたように深く口づけられた。

「ん……ふっ」

 コレが気持ちいいのは、もう知ってしまってる。

 荒くなる息を混ぜ合わせるように夢中で舌を絡めていると、オレの身体をやんわり撫でていた指先がソロッと胸の先を掠めた。

「ンっ!」

 ピリッとした刺激に反応して身体が跳ねる。キスはやめないまま、何度も優しく片方の乳首を撫でられていると、ジワジワとむずがゆい気持ちよさが広がって腹の底がうずいた。

「は……っ」

 オレはカレルの首に両手を回して縋り付きながら、モヤつく腰をよじる。何にもついてない股間は当然どうもなっていなくて、はっきりした快感は得られない。
 雑にしごいて即出してスッキリ終わりの一人遊びしかしてこなかったオレには、耐えがたいもどかしさだ。
 体中の血が沸き立っているようで、頭がグラグラして目が眩む。

───もっと強く触られたい、早く……

 不意に湧いてきた強い衝動のまま、ぎゅっと目を閉じてカレルの肩に噛みついた。


 途端、瞼の裏が真っ白になった。

 せき立てられるような性急な欲望がフッと無くなり、ふわりと浮くような感覚がして、触れていたカレルの身体の温かさが消え、自分の呼吸の音も聞こえなくなった。

 びっくりして目を開けると、目の前は真っ白で何も見えなかった。自分の手すら見えない、白い闇だ。

『願いは?』

 突然声がして、何も無かった空間に金色の天秤が現れた。
 右の皿にはミニチュア人形になったオレが載っていて、その分天秤の腕は傾いている。

 驚きすぎてオレが固まっていると、もう一度声がした。

『願いは?』

 何がきっかけになったのか分からないけど、どうも本当にお願いを叶えてもらえるフェーズになったみたいだ。

 オレは深く息を吸い混み、

「オレと、カレルと、マイアリーノの三人を、生きたまま無事に地上に戻して欲しい」

 と、なるべくハッキリ聞こえるように発音した。

 すると、目の前の天秤が左に大きく傾いた。人形のオレが乗った方の皿はゆっくりと上に上がる。

『対価を』

 声と共に、オレの手にはさっき拾い集めた大量の滅石が入った銀の器が現れた。オレは器から赤い石を一つ摘まみ上げ、天秤の釣り合いを取るように皿に載せる。

 皿の上に二十個ほどの石を乗せて、なんとか天秤の揺れが収まった途端、なんの前触れも無くフッと周りが暗くなりオレは虚空に放り出された。


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